恋は初めてだからW. コッソリョン(꽃서령)

「おい。」
えっ? いや……え? これ、タメ口で返すべき? それとも敬語?
屋上のドアノブを握っていた手が、自然と震え出した。
彼の制服姿を見る限り、私と同い年か、年下のはずなんだけど――
どう見ても、普通の受験生には見えなかった。
「ライター、持ってる?」
……ライター? まさか、高校生なのにタバコ吸うの?
呆然として何も言えずに見つめていたら、
短い沈黙を破るように彼が苛立った口調で繰り返した。
「あるの、ないの。」
私は勢いよく首を横に振った。あるわけないじゃん…。
彼は「ない」と分かった瞬間、興味を失ったかのように視線を外した。
「あの……タバコ、身体に悪いし。
それに、まだ学生でしょ? 未成年は喫煙禁止って知ってる?」
彼の視線が鋭くこちらを向いた。
ものすごく不満そうな顔だった。
ああ、いらんお節介しちゃったかも。
その目つきに、私はオロオロしながら一瞬で後悔した。
……でも。
近くで見る彼の顔、めちゃくちゃ整ってた。
ここまでくると、ちょっとくらい荒っぽくても許されるんじゃ…?
そう思ってたら、彼の顔がどんどん近づいてきた。
え、ちょ、近すぎない……?

「俺のこと、何だと思ってんの?」
鼻先が触れそうな距離にまで迫る彼の圧に、
私は思わず肩をすくめて、視線を床に落とした。
……何か、失礼なこと言ったかな?
あまりにも無表情で、彼の機嫌を読み取るのも難しかった。
しばらく沈黙していたら、
彼の上からため息まじりの声が聞こえた。
「…タバコ吸おうとしてたわけじゃない。」
えっ?
と顔を上げると、彼は「なぜ説明しなきゃいけないのか」と言いたげな顔。
それでも、何度か頭を振った後、しぶしぶ口を開いた。
「ちょっと燃やしたいものがあって。」
「……な、何を燃やすんですか……?」
さっきと違って、彼はすぐには答えなかった。
え、まさか嘘ついてるんじゃ……?と疑う私に、
彼は「違う」と先に否定してきた。
じゃあなんで言い渋ってるの?と思いながら、
彼をじっくり観察していたら、彼の手に一枚の紙が見えた。
A4用紙でもないし……なんか、ちゃんとした紙?
もしかして、便箋?
このご時世に、手紙なんて書く人いるの?と頭の中で考えていたら、
彼は視線に気づいて、さっと紙を背後に隠した。
そして、さっきと同じように言った。
「ま、とにかくライターはないってことね。」
「あ、はい……いや、うん……」
紙を無造作にポケットへ突っ込んだ彼は、
そのまま私の横を通り過ぎ、屋上を出ていった。
彼の姿が完全に見えなくなってようやく、
肩の力がふっと抜けた。
『……やっぱり、私のこと覚えてないのかも?』
-
早めに来たから、しばらく屋上でボーッとするつもりだったのに。
あの人と会って、思ったより時間が経っていたらしい。
慌てて1限目が始まる前に3年3組の教室に着いた私は、
ドアの前で待っていた担任の先生と目が合った。
「すみません! すごく遅れちゃいましたよね!?」
息を切らしながら頭を下げると、
先生は優しく微笑んで、
「初日なんだから、遅れても仕方ないよ」
と励ましの言葉までくれた。
うん、今回の担任、当たりかも…!
転校前の学校は国立の外国語高校で、受験競争は激しいし、
担任は最悪だった。
髪は見事にハゲてて、模試のたびに
「これはなぜ間違えた?」「これは解けただろ」
って細かく詰められて、ストレスだった。
しかも、成績トップのカンと比べられてばかりで、口にするのも嫌。
この学校に転校してきたのは、自分の意思だ。
少なくとも進学校よりはマシだろうと思ったし、
あのハゲ先生がいないってだけで、気が楽だった。
先生の顔を見た瞬間、
前の学校への未練なんてすぐに吹き飛んだ。
「じゃあ、中に入りましょうか。」
「はいっ!」
教室に入った瞬間、
視線が一斉に前方に集まった。
先生が「今日から転入してきた生徒だ」と紹介すると、
今度はその視線が全部、私へと向いた。
人前で自己紹介なんて初めてで、緊張した。
「あ、あの……ユン・スヒョンと申します。国立外国語高校から来ました」
「国立外高」というワードが出た途端、クラスがざわついた。
まあ、無理もない。あの学校は日本で言う「超進学校」みたいなもので、
学費も高いことで有名だ。
話題になって当然だった。
「じゃあスヒョンは……あそこ、テヒョンの隣に座ろっか?
彼も昨日転校してきた子なんだ」
先生の指差す先に目を向けると――
……え、えええええ!?!?
さっきの、屋上の人じゃん!!?
あまりの驚きに、思わず指さしかけた。
向こうも驚いたような顔だった。
「二人、知り合い?」
「いえっ、あの……」
知り合いって言っていいの?
カフェで一度、屋上で一度。たった二回だし。
それに、どちらの出会いも最悪だったし。
でも、否定しようとしたその時。
一番後ろの窓際――テヒョンと呼ばれた彼が、
頬杖をつきながらこちらを見て言った。

「知ってるだろ? なぁ?」
えっ?
突然のフレンドリーな一言に、私は半泣き顔になった。
イケメンに知り合い扱いされるの、普通なら嬉しいよ?
でも、今は全然ありがたくない!
ただでさえ転校生ってだけで注目されてるのに、
こんなイケメンが「知ってる」なんて言ったら、余計に目立つじゃん!
そして、私の予想は外れなかった。
「え、二人って知り合いだったの?」
「そうみたい。キム・テヒョンと仲いいとか…」
違います違います違います~!!!
叫びたかったけど、視線が痛すぎて何も言えなかった。
口をパクパクさせてると、先生が「ちょうどいいね!」って
私の背中をポンと押してきた。
いやいや、ちょうどよくないですから!!
席に着くと、テヒョンはリラックスした様子で頬杖をつき、
私をじっと見ていた。
座ろうか迷ってると、彼は机をトントンと叩きながら言った。

「座れ。」
は、はい。
命令口調がなぜかしっくりくる彼に言われて、
私は素直に椅子を引いて座った。
先生が授業の説明を始めたけど――
テヒョンの視線が強すぎて、内容が全然入ってこない。
このままじゃ転校してきた意味がない!
そう思った私は、小さな声で囁いた。
「……あの、私の顔に何かついてる?」
「いや。」
即答。しかも、ぶっきらぼう。
だったらなんで見てるのよ!!
心の声を抑えて、私は無理やり笑顔を作って尋ねた。
「じゃあ、なんで見てるの?」
返ってきた答えに、私は頭に「???」を浮かべた。
「面白いから。」
「えっ?」
「顔に全部出てるよ、お前。」
……いや、人間だからね?
感情は顔に出るものでしょ?
意味わからん、という表情で私は彼を見た。
ノートを取り出してメモを始める私を、
テヒョンはずっと見ていた。
「もう見るのやめて。授業に集中しなよ。
顔に穴でも開いたら責任とってくれるの?」
集中できないからそう言ったのに、
彼は真面目な顔で「穴なんて開かない」と返してきた。
……会話が通じない。
板書に集中しようと前を向いた、その瞬間。
「でもさ、さっきなんで迷ったの?」
「えっ、何の話?」
「先生が知り合いか聞いた時、なんでちょっと迷ったの?」
えええ、あんな一瞬で私の躊躇に気づくなんて!
「だから言ったろ。顔に全部出るって。」
ああ……。
私は驚いてるのに、
当の本人はケロッとしていた。
「あ、いや……屋上で会ったくらいで知り合いって言っていいのかなって思って…」
「違う、それじゃない。」
「え……?」
思わず手が止まった。
“それじゃない”…ってことは――
1年前のあのデザートカフェ?
まさか。
凍りついたような表情で彼を見つめると、
テヒョンはあっさり言った。

「1年前にも会ったろ。
それってもう“知り合い”って言えるんじゃない?」
まさか、覚えてるなんて――
いや、覚えてるわけないって思ってたのに。
テヒョンは、1年前の出来事を
はっきりと覚えていた。
