はじめての恋だからW. コッソリョン(꽃서령)
忘れてると思ってた。
いや、覚えてないフリをしてくれるって、思ってたのに。
テヒョンは――
1年前の出来事を、はっきりと覚えていた。
波乱の1時間目がようやく終わった今、チャイムの音が鳴るや否や「トイレ!」と口実を作って、教室を飛び出した。今日が初登校で、どこがどこだかも分からないのに、とにかく走った。
教室から十分離れたと感じた頃、私は壁にもたれかかって、その場にしゃがみ込んだ。
『…で、なんで知らないフリしたんだっけ?』
『たった2回会っただけで、“知り合い”ってのも微妙じゃん?』
『でも顔知ってるし…知ってるもんは知ってるじゃん』
『……だよねぇ』
授業中ずっと、横から「なんで?」としつこく聞いてくるテヒョンのせいで、内容なんて一文字も頭に入ってこなかった。
チャイムが鳴ってからも「トイレって言ってんじゃん!」と逃げる私を、彼はしつこくついてきた。
ようやく姿が見えなくなった今、思わず乾いた笑いが漏れた。
「自分も昨日転校してきたくせに、女子トイレの場所知ってると思ってるの?w」
それに、花美男にトイレ案内されてたら女子の視線ヤバいって。
転校初日にそんな噂でも立ったら…想像しただけでゾッとして、ブンブン頭を振った。
一息ついていたところ、制服のポケットでスマホがぶるっと震えた。
発信者:[ソンガン]
どうやら、ようやく私の転校を知ったらしい。
本来なら、転校前にクラスメイトへ挨拶するのが普通だけど……
私は人見知りだし、ソンガン以外に特別挨拶したい友達もいないし。
担任に「みんなにはテキトーに伝えておいてください」って頼んで済ませた。
でも別のクラスだったソンガンには、まだ伝わってなかったらしい。
「はぁ〜、なんで言ってくれなかったの!って絶対拗ねてるな……」
他人からすれば、「幼なじみなんだから言ってあげなよ」ってなるんだろうけど、
私にとっては、仕方なかったんだ。
小さい頃から365日中360日ずっと一緒にいた私たち。
ソンガンは妙に、私のそばから離れようとしない子だった。
中学の時、母の事情で転校したことがあったけど、
その学校にわざわざ転校してきたのが――ソンガンだった。
時には重いって感じることもあった。
でも、あの“出来事”を思い出すと……
私は、ソンガンに冷たくできなかった。
だから、今回こそはって思って、ちょっと強引な手を使ったのに……
やっぱり、予想は裏切られないね。
「……もしもし?」
「ユン・スヒョン!?なんで何も言わずに転校したんだよ!」
声から滲み出る寂しさと怒り。
ある程度は覚悟してたけど……思ったより激しい反応にちょっと戸惑った。
「お前のクラス行ってビックリしたんだからな!?
毎日一緒にいたのに、他のやつらには“あいつ気づいてないんだ”って思われるじゃんか!」
あっ、それは考えてなかった。
良かれと思って黙ってたけど、
逆に彼を“無関心な幼なじみ”にしちゃってたのか……
ごめん〜って軽くふざけて言ったら、
少し落ち着いた声で返ってきた。
「……なんで、俺には言ってくれなかったの?」
「だって……あんた、また学校まで追いかけてくるでしょ?」
そう、答えは簡単。
“まさか〜学校まで来ないでしょ〜?”
なんて言う人は、ソンガンのことを本当に知らない人だ。
彼は、そういうやつなのだ。
否定しないソンガン。
やっぱり、言わなくて正解だった。
「でも、マジで寂しかった……」
「ごめんね……でも、仕方なかったの」
“こうでもしないと、あんた友達できないでしょ。”
心の中で、そっと自分にも言い聞かせた。
これはソンガンのためでもあるし、
何より……自分自身のためでもあった。
「で? どこの学校か、教えてくれないの?」
電話越しに落ち込んでる顔が思い浮かぶ。
しょんぼりして、いかにも“可哀想なボク”みたいな顔してんだろうな……
ずっとその顔に騙されてここまで来たけど、
もう違うんだ。
私たちは、もうすぐ大人になる19歳。
いつかは、少し距離を置かなきゃいけない。
だから、今はその“はじめの一歩”。
「……ごめんね。教えられない」
「……マジで冷たいな、お前」
「冷たくても、しょうがないんだよ」
ソンガンの甘えに、思わず笑いが漏れた。
体は私より大きくなったのに、中身は昔のまんまだね。
あの頃は、どうしてあんなに守ってくれてたんだろう……
時は流れ、チャイムの時間が近づいてきた。
そろそろ電話を切らなきゃいけない。
ソンガンはまだ「なんだよ〜」って不満をぶつけてきたけど、
声はさっきよりずっと明るくなっていた。
「じゃあ、もう行かなきゃ」
「……切りたくない」
「授業でしょ、ちゃんと入りなよ」
はぁ〜って嫌そうにため息ついてたけど、
ちゃんと聞いてくれた。
切る前に、「放課後は会ってもいい?」って聞いてきた彼に、私はうなずいて答えた。
「うん。あとで、あんたの家行くよ」
「分かった、授業頑張って」
そう言って電話が切れると、スマホをポケットにしまい、
スカートについたホコリを軽く払って立ち上がった。
テヒョンを避けて逃げてきたけど……
もう戻らなきゃいけない時間だった。
――なのに。

「電話、クソ長ぇな」
曲がり角を曲がって教室へ戻ろうとしたそのとき、
まるで通話が終わるのを待っていたかのように、
壁にもたれていたテヒョンが、ゆっくりと私の方に視線を向けた。
「な、なんでここに……?」
「結構探したよ」
まるで大したことじゃないように言うテヒョンに対して、
私は頭の中が真っ白になった。
(いやいやいや、なんで?どうして?なんで私のことを……?)
でも、そんなこと聞く勇気もなく、
私は彼が話し始めるまで、目をつむって下を向いた。
また、「なんで知らないフリしたの?」って聞かれるかな。
それとも……
「だって、あんたがイケメンすぎて、関わると注目されるから嫌だったの!」
って、正直に言うべき?
そんな妄想ばかりが頭の中で渦巻く中、
彼のしっとりとした声が、私の頭上から落ちてきた。

「……君も、俺のこと怖いの?」
目は潤んでいなかったけど、
その声と表情は――
本当に、寂しそうだった。
聞こえないはずの言葉が、心の奥にそっと触れた。
『君だけは、俺を怖がらないで』
