
02
「ねえ、ここドレッシングしてくれない?」
「緊急患者です!!」
大学病院。
ここでは一般患者も多ければ、救急搬送も多い。
そんな現場で、私の初勤務が始まった。
とくに胸部外科は、
緊急患者や重症患者がほとんどで、
扱う手術もすべて大掛かりなもの。
多くの医学生が敬遠する診療科。
そしてその中で、レジデント1年目は私ひとり。
だからこそ、初日から私は目まぐるしく動き回る必要があった。
「今日はどうされましたか?」
「最近、急に息苦しくなったり、心臓がドキドキしたり、
ちょっと熱もあるような気がして…」
「…少し手を見せてもらえますか?」
症状を話す患者の唇には、わずかに青紫色が浮かんでいた。
私はチアノーゼを疑い、手を出してもらった。
患者は素直に手を差し出し、
その指先までもが青紫色に変わっていた。
チアノーゼ:皮膚や粘膜が青紫色になる症状。
心疾患や肺疾患を疑う重要なサイン。
「チアノーゼがありますね。
心臓か肺に何らかの問題がある可能性があります。」
「まず心電図とCT検査をしましょう。」
「検査が終わったら結果を説明しますので、
そんなに心配しないでくださいね。私たちがしっかり対応しますから。」
患者の診察がひと段落したころ、私は**集中治療室(ICU)**へ向かった。
胸部外科では、重症患者・緊急患者がほとんど。
ICUのベッドは満床。
状態の確認をしていたそのとき、
看護師が慌てた様子で私を呼んだ。
「この患者、気胸です。胸腔ドレーン入れてください!」
「えっ、胸腔ドレーンですか?」
「はい。緊急なので急いでください!」
「…まずは胸部レントゲン撮りましょう。」
胸腔ドレーン挿入(胸管挿入):胸部に管を挿入し、空気・体液・血液などを排出する処置。
胸部X線:胸郭部の肺や心臓の疾患を調べる画像検査。
この処置は、レジデント2年目以上が担当医の監督のもとで行うのが原則。
だが、私はまだ1年目。
今日が初勤務で、初の緊急患者、
そして人生初の胸腔ドレーン挿入。
もちろん動画で何度も見たことはあるけど、
実際にやるのは全くの別物。
しかも、
教授はいない。
でも患者は急を要する。
選択肢はなかった。
局所麻酔:意識があるまま、体の一部だけを麻痺させる方法。
そこまで大きなリスクのある処置ではないが、
本来は教授の監督下で実施すべき内容。
そして私は、胸腔ドレーン挿入を実行した。
幸いにも、処置は無事に終了。
患者の状態も安定していた。
けれど、いくら上手くいったとしても——
レジデント1年目が単独で行ってはいけない処置だった。
当然そのことは、
すぐに教授の耳に入った。
そして、静かで鋭いあの声が、
私の鼓膜を突き刺した。
「ユン・ソア。今すぐ俺のオフィスに来い。」
