
悪女モブキャラからヒロインへ_02
🎶 썸 타긴 뭘 타(何の進展もない関係) - ペク・アヨン
驚いたのも束の間、私は思わず彼の顔をじっと見つめていた。
だって、小説の第一の男主人公の顔が、どうしても気になったから。
…わあ、本当にイケメンだ。
小さな顔に、鋭いけどどこか可愛らしい目元。
鼻筋はスッと通っていて、唇も整っていて綺麗。
彼を一言で表すなら――「クールだけどキュート」。
まさにそんな感じだった。
「え…? 俺の顔に何かついてる? なんでそんなに見つめてるの?」
「えっ、え?」
「今日のジヨン、なんか変だな」
その言葉には、正直グサッときた。
今のこの状況がまだ信じられず、ぼーっとしたまま彼を見つめていた私に、
キム・ナムジュンはそっと私の手首を取りながら言った。
「行こう。遅れるよ」
……この小説、こんな展開だったっけ?
いや、違う。
この物語が原作とは違っていて当然だ。
だって――私が憑依しているんだから。
「ジヨン、もしかして体調悪いの?」
「ん?」
「いや、いつもは会った瞬間からずーっと喋ってるのに、今日はやけに静かだからさ。ちょっと驚いた」
こいつのジヨン、いったいどれだけおしゃべりだったの?
頭の中も混乱してるのに、ナムジュンと会話までしないといけないなんて、本当に困った。
何を話そうか必死で考えて、ようやく思いついた質問を投げかけた。
「ナムジュン、君って何組だっけ?」
「え、ジヨン。それはちょっと悲しいな?」
「え? 何が?」
「俺はジヨンのクラス覚えてるのに、ジヨンはまだ覚えてないの?」
「ご、ごめん! もう一回教えてくれたら、今度こそ一生忘れないから!」
「ホントだな!」
そう言って笑う彼の目が細くなって、まるで子犬みたいに可愛くて。
思わず、私もふっと笑ってしまった。
「うん、本当!」
「俺は6組だよ。ジヨンとはちょっと離れてるけど、まぁ仕方ないよな。俺が会いに行くしかないな」
そんなことをさらっと言ってのける彼の顔をじっと見てしまって、あわてて視線を前に戻した。
……あんなにカッコよかったら、そりゃ見ちゃうよね。
自然と、私の頭の中には“キム・ナムジュン”の存在が刻まれていた。
彼の顔、声、優しい性格、笑った顔まで、全部が鮮やかに脳裏に焼きついて離れない。
前を見ながら歩いていても、頭の中は彼のことばかりだった。
そんなとき、再び彼の声が聞こえた。
「クラスに、意地悪する奴とかいないよな?」
「えっ? い、いないよ! もちろん!」
「じゃあ、仲のいい友達は?」
「………う、うーん、それは…」
その質問にはすぐには答えられなかった。
いじめられてるかどうかなんて答えやすいけど、
「仲のいい友達は?」なんて…
今日、初めて学校に行く私にとっては、あまりにも酷な質問だった。
沈黙が続いたところで、ナムジュンがまた口を開いた。
「……寂しくない?」
「ちょっとだけ……かな」
私が答えに詰まったのを察してか、彼はすぐに話題を変えてくれた。
今回の質問は簡単だったので、素直に答えた。
もしかしたら、教室に行けば前からの知り合いがいるかもしれないけど、
それは確実じゃない。
だから、最悪を想定して“ちょっと寂しい”と答えた。
「休み時間に会いに行くから、待ってて」
「うん!」
•
歩いているうちに、いつの間にか学校の正門が見えてきた。
もうすぐ学校に着くと思うと、言葉では表せない緊張感がじわじわと押し寄せてくる。
その緊張に耐えきれず、小さく「ふぅ」とため息をつくと、
隣にいたキム・ナムジュンの視線がこちらに向けられるのを感じた。
私は彼に向かって、ぎこちない笑顔を浮かべながら足を速めた。
「終礼が終わったらすぐ来るから、一緒に帰ろう」
「うんうん! 行ってらっしゃい、ナムジュン!」
「授業ちゃんと聞いて、あとでね」
自分のクラスの場所なんて知らなかったけど、ナムジュンが親切に案内してくれたおかげで、特に問題もなく無事に辿り着けた。
けれど、本当の問題はその後だった。
あれ? 私、どこに座ればいいの…?
教室の後ろのドアに立ったまましばらく悩んだ末、私は窓側の一番後ろの席を選んだ。
重いカバンを机に置き、朝早起きしたせいで眠くなった目を閉じかけた、そのとき――
「……あの」
肩を軽くトントンと叩かれ、誰かに呼ばれた気がして、半分閉じかけた目を開けた。
声の主を確認しようと顔を上げた瞬間、私は確信した。
あ、この子が二番目の男主人公だ。
見た瞬間にわかるほど、びっくりするくらい美形だった。
目鼻立ちは全部完璧で、特に鼻がやばかった。
あれって人間の鼻? 何であんなに高いの?
やっぱり“男主人公”って次元が違うんだな…

「……あの、君」
「え、えっと!? な、何?」
「ここ、僕の席なんだけど……」
やばい。自分の席どこか知らないんだよね…。
でも、ちょうどいいチャンスだし、名前も知りたいし、聞いてみようかな?
「ねえ、イケメンくん。君、名前は?」
「あ、俺はチョン・ホソクだよ」
「わぁ、名前まで可愛い! 私はユ・ジヨンっていうの!」
「えっ…ジヨンも、名前かわいいね」
「ホソク、もしかして私の席、どこか知ってたりする?」
「たしか、俺の隣だったと思うけど」
「ほんと? ありがとう! 席も近いし、仲良くしよ~!」
小説の中で悪女モブキャラのユ・ジヨンが本格的に“悪役”として動き出すのは、
ヒロインが男主人公たちと仲良くなった後の話。
つまり、今はまだ悪女じゃないってこと!
ヒロインが登場する前に、男主人公たちと仲良くなって、
一緒に遊びに行ったりして青春を楽しもう~~~!!!
でも、それを実現させるには――
原作みたいに男主人公たちに恋してヒロインを妬んだり、いじめたりしちゃ絶対ダメ。
そこは完全に改変して、ヒロインとも男主人公たちとも、
一番の仲良しポジションを目指す!
そう固く決意したのだった。
•
ついに3時間目の休み時間、ホソクと気軽に話せるほど仲良くなった私は、
おやつも買いたいし、もっと仲良くなりたいという口実で一緒に購買部へ向かうことにした。
でも正直に言えば、購買部に行きたかった本当の理由は――
小説の中で購買部に頻繁に立ち寄ると書かれていた第3の男主人公、キム・ソクジンに会いたかったから。
「ホソクは何が好きなの?」
「んー、俺は特に苦手なものないから、何でも好きだよ」
「ほんとに?」
「うん、ほんと」
「うそ、私と一緒だ! 私も何でもよく食べるんだ〜!」
「それが一番いいよね」
やばい。
ホソクが私の顔見て笑ったんだけど。
笑顔までそんなに綺麗とか、どうすればいいの…?!
あの笑顔を見たあとから、頭の中がホソクの顔でいっぱいになっちゃって、
購買部に向かってる間も、ずーっとホソクのことしか考えてなかった気がする。
ずっとぼんやり歩いていた私を止めてくれたのは、案の定ホソクだった。
「ジヨン、購買部はこっちだよ」
「え、あ… うん!」
ホソクがそっと私の手首を取って引っ張ってくれたんだけど、
その動作があまりにも自然すぎて、私はただ顔を赤くするしかなかった。
そのままホソクに導かれるように購買部に入ると、
ちょうどバナナ牛乳を取っているキム・ソクジンの姿が見えた。
……やっぱり、私の予想は当たってた。
満足げな顔をしながら自然に近づこうとしたそのとき――
あれ? ソクジンの隣にいる、猫みたいな顔立ちの人は…誰?
どう見てもイケメンだし、この人も間違いなく男主人公に違いない。
その場に立ち止まって、小説の内容を必死に思い出す。
どれくらい立ち尽くしてたかな。
「はっ」と短く息を吐いた瞬間、思い出した。
「えっ…ミン・ユンギ!?」
やばっ。
声に出すつもりなんてなかったのに……!
「ジ、ジヨン! 先輩だよ…!」
「えっ、あぁああああ……」

「誰だよ、初対面でタメ口とか。名札見たら2年じゃん」
「う、うん……」
「すみません、先輩。こいつ、まだ寝ぼけてて……」
「言い訳はいらない。クラス、言ってみ?」
やばい、完全に目をつけられたっぽい。
憑依してからたった一日で先輩に睨まれた話、書くことになりそう。
「……2組です」
「おい、ソクジン。2組って何階?」
「ユンギ、お前マジで行く気?」
「いいから黙って教えろ」
「2階……」
「サンキュー」
ホソク……
君、本当に空気読まないよね? 優しすぎるのも問題なんだから!
「あ、あのっ、じゃあ、失礼しますっ!!」
これ以上いたらマジで息苦しくなりそうで、
ありったけの力を振り絞って購買部を全力で飛び出した。
なのに後ろからホソクが「ジヨン!」って呼びながらついてくるし!!
その声と行動が可愛すぎて、思わず笑みがこぼれて、
私はそのまま前に走り出した。
「なあユンギ、あの子…何者?」
「は?」
「なんであんなに可愛いんだよ」
「……バカか」
「えー、可愛いって言っちゃダメ?」
「俺もう行くから、ついてくんな」
「なあ、ユンギ。後で2組行くんだろ?」
「めんどくさくなければな」
「一緒に行こ」
「お前、まさか気になってんのか?」
「は? ちげーし。心配だから行くだけだっつーの、バカ」
「くだらねぇこと言ってねぇで黙れ」
ふう、私のクラスが2階で本当に良かった……
全力疾走して教室にたどり着いた私は、
力尽きて机とイスと一体化してしまった。
「はぁっ…はあっ…ジヨン!」
「……ホソク?」
「お前、なんでいきなり走ってったんだよ~」
「はは…いや、なんとなく? ホソクはなんで追いかけてきたの?」
「お前が突然走り出すから、何かあったのかと思って心配になって…」
ホソクくん……
君、今とんでもないこと言ってるって自覚、ある?!
このセリフ聞いて私が顔赤くしてドキドキしてたら、
変な奴扱いされるのかな……
でも、ホソクはそんな意味なさそうに言ってるし、
私だけなんでこんなに心臓バクバクしてるの……?
そんなことをぐるぐる考えてると、
ちょうど授業のチャイムが鳴った。
「よし、朝早くて寝不足だったし、
この授業中にちょっと寝とこう…」
私は机に腕を乗せて、その上にそっと頭を置いた。
