森の守護神

エピソード01

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01




この村には、守護神がいると言われている。

水の守護神、森の守護神、そして火の守護神。
この三柱は特に大切にされてきた。

きれいな水は命に不可欠なものだから、
人々は水を飲むたびに感謝の気持ちを忘れなかった。
豊かで深い森は、生活と清らかな空気を与えてくれる。
だから森の守護神にも日々感謝していた。

火の守護神だけは、ほかの二柱と違って少し離れた場所に住んでいた。
火は下手をすれば水や森をすべて焼き尽くしてしまうからだ。

だから、森に霧がかかったり、水の色が濁ったり、
火が異常に強く燃えたりすると、
人々は「守護神が怒っている」「機嫌が悪い」と感じ取り、
その前で静かに頭を下げ、祈った。

だが、水・森・火の守護神を実際に見た者は、
この村には一人もいない。

ただ噂だけが残っている。

人間と同じ姿をしていて、
森の守護神は真っ白な天使のような衣を纏い、
水の守護神は深い青の、水のような衣を、
火の守護神は燃えるような赤い衣を着ていたそうだ。

しかも、この守護神たちは
動物の姿にもなれるらしい。

これだけ聞けば、信じるのも無理はない。

ただし——
守護神の領域に足を踏み入れたら、
祝福されるか、罰を受けるかは誰にもわからない。

ある若者が無謀にもその地に入ったが、
二度と戻ってくることはなかった。

以来、誰もその境界を越えようとはしない。

この物語は、そんな村のある家で起きた出来事だ。

——聞いてみる?

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日が沈み、三日月が浮かぶ夜。
ひとつの家からは、叫び声が響いていた。
それは出産のため、女性が必死に力んでいる声だった。

そして、長い長い時を経て
ようやく赤ん坊の産声が村に鳴り響いた。

産婦の顔には汗とも涙とも言えない滴が流れ、
息は荒く、胸が激しく上下していた。

「…わたしも…赤ちゃんを見たいです…」

重たいまぶたを必死に開けながら、
母親はそう願った。

だが、父親の顔は険しかった。
まるで「こんな子を望んだわけじゃない」とでも言いたげに。

「何かあったの…? どうしたの…?」
不安そうに母親が尋ねると、
父親は短く「異常ない」と答えた。

「…よかった…。赤ちゃんの名前、どうしようか…」

母親は息を切らしながらも微笑み、
空を見上げた。

「三日月…今夜は三日月ですね…。
じゃあ、とりあえず仮の名前として『チョスン』にしましょうか。」

「チョスン」。
柔らかくて、綺麗な響きだった。

母親はその名を優しく口にしながら、
赤ん坊を抱きしめようと手を伸ばした。

だが父親は、その手に赤ん坊を渡さず、
立ち上がった。

「どうして…?」

そう問う母親に、父親は顔を歪めて叫んだ。

「俺が欲しかったのは男の子だ!
女なんて望んでないんだよ!」

そう言って、赤ん坊を抱えて家を飛び出した。

母親は見なくてもわかった。
あの小さな命に、何をしようとしているのか。

「ダメ…チョスン……」
全身の力を振り絞って叫んでも、
体は言うことを聞いてくれなかった。

そして彼女は、子の名を呼びながら、意識を失った。

父親が向かった先は、
彼らが信仰する「守護神の森」だった。

わかるよね?もう、展開が。

彼は境界線を越えることなく、
腕だけを伸ばして赤ん坊を森に置き去りにした。

そして一言。

「…この子の仮の名前は、チョスンです。」

そう言って、逃げるように立ち去った。

当然、赤ん坊は泣き叫んだ。
寒さで体温はどんどん下がり、
火も、布団もない場所で
命の灯火が消えかけていた。

——そのとき。

「チョスン、か……」

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「赤ん坊のくせにうるさいな。」

森の守護神が、姿を現した。

……終わり。

何をそんなに見つめてる?

続きを知りたいって?

ここまでしか書かないよ。

気になる?

——私も気になるよ。
森の守護神が、赤ん坊をどうするのか。

助けると思う?
それとも、見捨てる?

みんなは「絶対助ける」って思うだろうけど…

私は作家だからね。
例え殺したって、物語は続けられるの。

どうなるかは——

あなたの想像に任せるよ。