近寄りがたい彼

エピソード03

3. なんであんなに怒ってたんだろう


Gravatar

「また会えたらいいな。いや、絶対また会えるよ。」

……なにこれ。
スンアはその場面を33回目くらい反芻していた。
正確に言うと、今回は夢にまで出てきた。

髪をかきむしりそうになって、ギリギリで踏みとどまった。
……まあ、あの人がちょっと怖くて、そのせいで頭から離れないだけ。
そう言い訳してみたけど、最後に見たユンギの笑顔があまりにも強烈だった。

スンアは真剣に悩み出した。
私って、また顔から入ってる?しかも一目惚れ気味に?
……いやいや、違う。
怖い人があんなふうに笑うのを初めて見たから、びっくりしてるだけ。うん、それだけ。

自己合理化を終えて、スンアはベッドを適当に整えた。

「“また会える”って、どういう意味……?」

無意識に口からこぼれた独り言。
何事もなかったかのように日常を過ごそうとしても、ミン・ユンギという男が頭をかき乱してくる。

「面白い人ですね」と笑われたこと。
「また会いたい」と言われたこと。
思い出せば思い出すほど、スンアの顔にはどうしようもない笑みが浮かんでしまった。

「また会える」という彼の言葉には、妙な確信がこもっていた。
だからこそ、スンアは期待せずにはいられなかった。
本当に、また会える気がした。

でも、ふと我に返る。
名前しか知らないのに、どうやってまた会うの?

そんなことを考えながら、
「いやいや、一日中こんなバカみたいにしてちゃダメでしょ」と自分に言い聞かせて首を振った。

そもそも、家にこもってたって彼に会えるわけじゃないし……
ミン・ユンギ……名前まで綺麗なんだよね……

「……ほんとに、私どうかしてる」

気づけば、また会いたいと思っていた。
怖いと思っていたミン・ユンギは、今やスンアの頭の中で美しい笑顔を浮かべるだけの存在に変わっていた。

心の中で悪態をついたのは私だし、
あの人にもなにか事情があったのかもしれない。
悪い人には見えなかったし……
ライターを持ってるか聞いてきたのに、タバコは吸わないって言ってたし。

だから、彼に会いたいと思うのは……仕方ないよね。
だって、あんなふうに笑われたら。

スンアは人生で初めて、
どうしようもないほど強く誰かに振り回されていた。

こんなに自分と正反対の“チャラそうな人”に、
一日中思いを巡らせるなんて。
ただ、あの人が意外と礼儀正しかったから興味が湧いただけ。
そう、興味があるだけ。

……と、必死に自分に言い聞かせた。



──


Gravatar
「えっ……なに、あれ……!」

スンアは偶然ユンギを見かけて、思わず驚いた。
昨日よりもずっとチャラく見える。
昨日はただ第一印象がちょっと怖かっただけ。
でも今は、笑ってもいないし、明らかに不機嫌そうで、本当に怖い。

そう思いながらも、スンアはユンギから目を離せなかった。

気づけば、少しずつ彼の後をつけていた。
最初はただ見ていただけだったのに、
彼の周りをうろうろして、
ついには本格的に隠れながら尾行を始めてしまった。

もちろん、スンアの中では葛藤が渦巻いていた。

“なにしてんの私……?他人の後をこっそりつけるなんて……ダメに決まってるよね……”

けれど、その罪悪感は、
スンアの中でのユンギの存在感には勝てなかった。

「……なんであんなに怒ってたんだろう。」

それが、ただ気になっただけだった。