【ご注意】
本作に登場する病気は架空のものであり、実在しません。
実際の医学とは関係ありませんので、誤解のないようお願いいたします。
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人は知っているのだろうか。
治らない病気を抱える者の、あのどうしようもないほどの絶望を――。
私が言うその“どうしようもない病”とは、
「スローク」という名の病気だ。
ゆっくりと、そして確実に人を闇へと追いやり、
最期は無残な姿で死に至らせる。
この病気は、人口の1%に発症する。
100人に1人という割合だ。
だが、さらに残酷なのは、
この病気が新生児――つまり生まれたばかりの赤ん坊にしか発症しないということ。
数えきれない赤ん坊の中で、
なぜよりによって私だったのか。
両親は私を見捨てなかった。
そのおかげで“生きる”というチャンスを与えられた。
……でも私は、そのチャンスが、
正直、嫌だった。
元々内気な性格だったのに、
この病気のせいで、ますます声を殺して生きるようになった。
小学校の6年間――
誰一人として「親友」と呼べる人に出会うことはなかった。
「ママ……学校、行きたくない……」
「え?どうして?誰かにいじめられてるの?」
「……ううん」
いっそ、いじめられていた方がマシだった。
その方がまだ、学校に行きたくない理由として納得がいく。
ただ“友達がいないから”なんて……
そんな情けない理由、誰にも言えない。
母は仕事で忙しく、
私の話にじっくり耳を傾けてくれる時間は少なかった。
それでも、私にとって両親は唯一の頼りだった。
頼れる存在はいたけれど、
隣には、いつだって“誰もいなかった”。
希望の欠片もない人生。
だからこそ、うつ病なんてもっと早く来るべきだったのに。
――いや、きっとすでに来ていたのかもしれない。
私が、それに気づかないほど“時間”に追われていたせいで。
薬をやみくもに飲み、
「もう長くはない」という不安に追い立てられながら、
私はいったい、何のために生きていたんだろう。
連絡を取る相手もいない。
Xトークの画面を見つめて、ようやく悟った。
私は……クズだ。
孤独な社会生活が教えてくれた。
私は、どうしようもないほどダメな人間だった。
そして、今――
24歳。
花のように咲き誇るはずのこの年齢で、
私は……花のように、静かに散った。
(1つ)
急に冷え込んできた気候のせいだろうか。
あるいは、それよりも冷え切った人間関係のせいか。
私の免疫は、そんなものにもう耐えきれず、
ドミノのように崩れ落ちていった。
それは、私にとって――
“チャンス”であり、“終わり”だった。
「ギル・アウォン様、診察室へどうぞ」
「……はい」
静まり返った病院内に、私の声が響いた。
「また来たんですね? 最近、体調が悪いんですか?」
「うん、寒くなってから、よく体調崩すみたいで……」
今年も、また“天気”に負けた。
変わるたびに私を追い詰めてくる、憎らしい天気。
去年の今ごろ――
「患者さん、暖かい服を着てくださいね。
今以上に体を壊さないように、薬もちゃんと飲んでください。」
そして現在――
「今日は精密検査をしておきましょうか」
「はい、お願いします」
私の病気を知っている医師は、心配そうな顔で言った。
私は検査服に着替え、無機質な診察室に戻る。
検査が始まった。
もう何年もこの病院に通っているせいで、
深刻な不治の病のおかげで、私はいつもすぐに結果をもらえる。
医師は画面を食い入るように見つめ、
しばらくの間、沈黙が続いた。
その気配で、私も心の準備を始めていた。
「……あの、ギルさん。残念ですが、そろそろ……心構えをしておいた方が良さそうです」
――よかったのかもしれない。
地獄よりも地獄のような、この世界を去る“チャンス”。
「去年から予想してはいたんですが……状況は、かなり悪化しています」
「……あと、どれくらいですか?」
「長くて1年、短くて……半年、というところでしょうか」
覚悟はしていたつもりだった。
それでも……現実に突きつけられると、
心は追いつかなかった。
私は本当に、この世界が嫌だったはずなのに。
……未練が、残っていたのかな。
「……もう、助からないんですよね?」
医師は無言でうなずくだけだった。
「ありがとうございます……失礼します」
ずっと想像していた“余命宣告”。
想像より、ずっとあっさりしていた。
たった一言で、
私の人生に幕が下りた。
「……ママ、もうすぐ行くね」
なぜだろう。
今日はいつにも増して、2年前に亡くなった両親のことを思い出した。
