(二)
胸の奥が詰まったように苦しかった。
確かに、私は望んでいたものを手に入れたはずなのに。
それなのに、なぜだか引っかかるものがある――そんな気がした。
翌日
アウォンは何事もなかったかのように、
昨日と同じように日常を送った。
表面上は、何も変わらないように見えた。
ただ、“表面上”だけ。
この日、アウォンはようやく気づいた。
もう、自分の身体は昔のままではないということに。
「アウォンさん、今日はなんだか具合が悪そうですね?」
「え? そう見えますか…?」
「ええ、すごく…」
「大丈夫ですよ、代理さん。心配してくださってありがとうございます」
アウォンは、またしても“平気なふり”をした。
またしても、自分の痛みを人前で隠した。
そんな苦しさを抱えた日々を続けていたある日、
病院から緊急の電話がかかってきた。
「もしもし? ギル・アウォンさんの携帯でしょうか?」
「はい、私がギル・アウォンです」
「至急ご来院いただきたいのですが」
「来院ですか?」
「はい、急いでご判断いただきたい件があります」
「わかりました。明日の午後1時に予約をお願いします。その時間に行きます」
「かしこまりました。その時間でお待ちしております」
「はい、お願いします」
アウォンは本能的に悟った。
――自分の人生が、さらに悪い結末へ向かっていると。
病院との約束の時間まで、あと1時間もなかった。
アウォンは何度も、何度も考え込んだ。
今まで、良いことなんて一度もなかった人生だったから。
『きっと、今回もまたそうなるんだろうな…』
「ギル・アウォン様、診察室へどうぞ」
「……はい」
今日のアウォンの声は、いつものような明るさはなかった。
状況に反して陽気な態度を取る、あの“演技”ではなかった。
「昨日は、あまり痛みはありませんでしたか?」
「……はい」
それは、口癖のように出た“嘘”だった。
「アウォンさんって、来るたびに嘘をつきますよね」
胸の奥に刺さるような、鋭い一言だった。
「……嘘?」
「ええ。これからもそんなふうに強がるなら、病院には来ないでください。
ここは、痛みを隠す場所じゃないんです」
傷だらけのアウォンに、
その言葉はまるで“絆創膏”のように優しく沁み込んだ。
「……本当は、すごく痛かったんです」
「それでいいんです。これからも、正直になってくださいね」
医師はそう言って、やさしく微笑んだ。
「それで…今日は、なぜ呼ばれたんでしょうか?」
不安と覚悟を抱えながら、アウォンは勇気を出して尋ねた。
医師は深刻な口調で語り始めた。
「アウォンさんの病気に、ついに治療薬が見つかりました」
「……えっ?!」
それは、信じられない知らせだった。
何十年経っても治療法が見つからなかった“不治の病・スローク”。
「薬は出ない、今の薬をきちんと飲むしかない」
そう何度も言われてきたのだから。
「ただし、大きな問題もあります」
アウォンは一瞬にして集中した。
「この薬は、まだ韓国では誰にも使われていません。
海外ではすでに使用されていますが、副作用が非常に強いです。
薬の成分もとても強力です。
……ですが、確実に効果はあるんです」
副作用が大きいという言葉に、
膨らんでいた希望が一気にしぼむ感覚だった。
「だから、これは患者さんの希望がある場合に限り、治療を進めます」
すでに“余命”を受け入れていたはずの自分。
それなのに、なぜ心が揺れるのか――
なぜこんなにも、生に未練が残っているのか。
しっかりしろ、ギル・アウォン。
これは、あんたの望んだことじゃなかったのか?
「簡単に決められないことだとは思います。
じっくり考えて、来週同じ時間にもう一度来てください」
「……ありがとうございます」
揺れる気持ちを抱えたまま、
アウォンは診察室を後にした。
何もない人生をそのまま続けるか。
すべてに幕を下ろすか。
そうして彼女は――動き出した。
病院から飛び出すように外へ出たアウォン。
通りすがる人々の中で、彼女は自分の理想の“タイプ”を探し出す。
「すみません、初対面なんですけど――
私、死んだほうがいいと思いますか?」
(つづく)
