ジョングクが目の前で泣きじゃくりながら、「後で話す」と言った。
だけど、一日が過ぎても、二日が過ぎても、彼は何も話してくれなかった。
「きっと、話しづらい理由があるんだろうな」
私はそう思った。
あの日以来、ジョングクは「ちょっと出かけてくる」と言って外に出ることが増えた。
でも、どこへ行って、何をしてきたのか、一言も話してくれなかった。
「まさか…体の具合が悪いんじゃないよね?」
何があったのか言わないのは仕方ないとして、
その日以降、彼は私を避けるようになり、スキンシップもしなくなった。
「いや、でも…私、何か悪いことした…?」
「なんでスキンシップもしてくれないの…?」
その頃、ジョングクは友人であり、自分と同じく幽霊が見えるテヒョンに会っていた。

「お前、大丈夫か?」

「いや…全然、大丈夫じゃない」
今にも弾けそうな顔をしたジョングクは、
アイスアメリカーノを一気に飲み干しながら、低い声で言った。

「…だって、愛する人が幽霊になって彷徨ってるんだぞ」
「大丈夫なわけ、ないだろ」
「お前の顔を見れば分かる。生きた心地がしないってこと」
ジョングクとテヒョンが知り合って、もう4年が経つ。
大学生の頃、互いに幽霊が見えることを知り、自然と仲良くなった。

「俺…どうしたらいいんだよ…」
「ヨジュに『お前は幽霊だ』って、どうやって伝えろっていうんだ」
「もし驚いて消えてしまったら…」
「俺、ヨジュなしじゃ生きていけない…」
未練のある幽霊は、大きなショックを受けると完全に消えてしまうことがある。
もしヨジュが消えれば、彼女の意識不明の体もそのまま死んでしまう。

「だから、なるべくショックを与えないようにしないと…」
「…俺のせいだ。全部、俺のせいで…」
「そして、お前のせいだなんて思うなよ」
「そんなふうに考えてたら、ヨジュの方がもっと辛くなる」

ジョングクは黙り込んだ。
頭の中には、あの日の出来事が鮮明に蘇る。
それは、すべての始まりだった。
事故が起きた日。
6年付き合っても相変わらずラブラブなジョングクとヨジュは、
いつもと変わらずデートを楽しんでいた。
仕事が忙しかったジョングクのために、久しぶりのデート。
だからこそ、ヨジュはいつもよりおしゃれをして、
いつ振りかも分からない香水までつけていた。
彼女があまりにも綺麗だったから、
他の男が目をつけるのではと、ジョングクは小さな言い合いをしてしまった。
だけど、結局いつも通り、最後にはジョングクが折れることになった。
「私、可愛い? だからこの服、着せたくないの?」
「知らない…」
「また拗ねてるね?」
「ちょっと、ジョングクさん? 私はあんたに可愛く見てもらいたくて、こういう服を着てるの! 他の人に見せるためじゃないの!」

「でも…俺の言うこと、全然聞かないし…」
「よしよし、それで拗ねちゃったの?」
「拗ねてない…」
「いや、どう見ても拗ねてるじゃん」
ジョングクが拗ねると、
ヨジュには"必殺技"があった。
それは 「愛嬌」 だった。
普段はサバサバした性格のヨジュ。
でも、ジョングクの機嫌を直すためだけに愛嬌を振りまくことがあった。
「ククちゃん~ ヨジュはククちゃんに許してほしいなぁ~」
「許してくれないの~?」
笑うまいと必死に我慢しても、
口元が勝手に緩んでしまう。
ヨジュの愛嬌は 百発百中。
ジョングクは、絶対に勝てなかった。
だから時々、彼女の愛嬌が見たくて、わざと拗ねてみたりもした。
もちろん、察しのいいヨジュが気づかないはずもない。
でも、そんなジョングクが可愛くて、彼女は許してあげていた。

そんなふうにふざけ合いながらも、
二人は思う存分デートを楽しんだ。
「久しぶりに君と出かけられて、すごく楽しい」
「たまにチラチラ見てくる男どもを除けば、な」
「ちょっと、どの口が言ってるの? 男なんて、チラッと見るくらいでしょ?」
「女の子たちは、あんたのことガン見してたけど?」
「誰が私の男を狙ってるって…?」
そんな風にジョングクを独占したいヨジュだったが、
彼女のかかとはすでに靴擦れで痛々しくなっていた。

「ほら、やっぱり」
「だから、言ったじゃん。楽な靴履けって」
「ちょっと、かかとが擦れたくらいで、大げさよ」
彼とデートしているなら、靴擦れくらいどうでもいいと笑うヨジュに、
ジョングクは少し切なくなった。
「ちょっと待ってて」
道の向こうにある薬局を見つけたジョングクは、
「すぐ戻るから」と言って信号が青に変わると同時に走り出した。
でも、青信号にも関わらず、
猛スピードで突っ込んでくる車があった。
それを見たヨジュは、
痛むかかとも、履いていたヒールも気にせず、
ジョングクに向かって走り出した。
"じ、ジョングク…!!"
彼女の叫び声に、振り向くジョングク。
そして次の瞬間、
彼を全力で突き飛ばすヨジュ。
ドンッ—!!!
気が遠くなりそうな意識の中、
ジョングクの目に映ったのは——
血まみれで倒れているヨジュの姿だった。
ジョングクは、震える手で彼女を抱きしめた。

"ヨジュ…ヨジュ…!!"
。
。
。
"は、はぁっ…"
「おい、ジョングク。大丈夫か?」

"ヨジュ…"
ジョングクの瞳から、
大粒の涙がこぼれ落ちた。
