ある日、獣を拾った

エピソード01

Gravatarある日、獣を拾ってしまった
W. ヨンタニごはん

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01
どこかから、かすかな獣の鳴き声が聞こえてくる。
本当に哀しそうに鳴いていた。
土の道を歩いているうちにドレスは泥だらけになったが、そんなことはどうでもよかった。
音のする方へ急いで向かうと、足に大きな傷を負った一匹の猫が目に飛び込んできた。
大量に血を流しながら周囲を舐めている姿が、なんとも痛々しい。
すべては家の裏手にある深い森を歩いていた時に起こったことだった。

警戒心を抱いたのか、少女を見つけた猫の目が鋭く光った。
誰かに引っ張られるかのように尾と毛を逆立て、鋭い爪を見せて完全に警戒している。

「グルル…」

「こっちにおいで。痛くないように治してあげるから。」

できるだけ低く構え、威圧感を与えないように優しい笑顔で手を伸ばす。
少女の優しい雰囲気のおかげか、逆立っていた毛は次第に落ち着いていった。

「よしよし、おいで。」

乾ききった葉が絡まり合いながら土の上に散らばっている。
そんなものなど気にせず、少女はどさっと腰を下ろし、警戒を解いた猫をそっと抱き上げた。

世界でたった一着、少女のためだけに仕立てられたこのドレスは、傷ついた猫のために犠牲になった。
高級な白いシルクの袖をビリっと破り、そのまま猫の傷口に巻き付けた。

「私の部屋に行こう。すぐだから。」

少女を気に入ったのか、猫は一切抵抗せず、すっぽりと彼女の胸に収まった。

「ゴロゴロ…」

「ふふ、撫でられるのが好きなのね。」

怖がらないように、安心してもらうための少女の配慮だった。
何度か頭を撫でると、満足そうに顔を擦り寄せてきた。

猫を抱いたまま森を降りてきた少女。
『…ちょっと待って、今の私の姿って』
玄関のガラスに映る自分の姿を見て、少女は思った。
社交界に出たばかりの貴族令嬢とはとても思えない。
泥だらけのドレスにボサボサの髪、耳には乾いた葉っぱが引っかかっている。
ルシアがこれを見たら腰を抜かすに違いない。くすくす。

「ルシア、ただいま…」

「お嬢様!!! どこに行っていたのですか、このお姿は一体…! 奥様がお知りになったら大変なことになります!」

ルシアは相変わらずだった。
社交界の息苦しさに疲れた少女の小さな反抗とでも思ってくれればいいのに。
ルシアは少女が幼い頃から仕えていた特別な存在だった。
同い年であり、唯一の話し相手でもあった彼女との絆は深い。

「ところでお嬢様、その猫は?」

「ああ、ルシア。この子、怪我をしているから手当してあげて。足をひどく痛めているみたい。」

「わぁ、こんなに真っ黒な猫、初めて見ました!」

「とりあえず傷口はこれで応急処置しておいたわ。薬とご飯もお願い。」

「お嬢様…まさか袖をお破りになったのですか…?」

「…他のメイドたちにお風呂の準備を頼んで。」

「お嬢様ーー!!」

これ以上小言を聞く前に、少女はさっさと部屋に駆け込んだ。
ルシアの小言は一度始まると半日は止まらないから。

「お嬢様、お風呂の準備ができましたー」

数人のメイドが少女の服を脱がせ、清潔な大判の布を身体に巻き付けた。
そのまま湯船に足を入れ、静かに座り込むと、タオルで身体を優しく洗ってくれる。

ギィッ

ドアが開く音に、メイドたちは慌てて振り向いた。
入ってきたのは、さっき怪我を手当てしたあの黒猫だった。

「みんな、出て行って。猫は私に渡して。」

「お嬢様、お湯に長く浸かりすぎると体に悪いですよー」

「時間になったら自分で出るから。おいで、いい子だねー」

手招きしながら猫を呼び寄せる。
足を引きずりながら近づいてくる猫があまりにも健気で、少女は思わず抱き上げた。

「すぐ良くなるからね。我慢してね。」

「ゴロゴロ…」

「お顔が見たいな。どうしてそんなに目をそらすの?」

肌に当たる柔らかな毛がくすぐったくて、少女は笑いながら顔を近づけた。
でも、猫はなかなか顔を見せてくれない。
仕方ないと諦めた少女は、猫の額にちゅっとキスをした。

ポンッ

腕に抱いていた感覚が消えた。
柔らかい毛の感触はなくなり、人間の肌の感触が…!

「きゃああああああああ!!!」

そこには、立派な男性の身体があった。

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「…なぜそんな格好で私の目を覗き込もうとされるのですか。」

少女の腕に抱かれていたはずの黒猫が、今は逞しい男に変わっていた。

「だ、誰なのあなた!な、なんで一緒にお風呂に…!」

「我慢していたのですが、お嬢様に刺激されて…意図せず人間の姿に変わってしまいました。」

「人間の姿…って、あなたがあの猫だっていうの?」

「はい、お嬢様。体温が上がると、人間の姿になってしまうのです。」

近すぎる。
耳元で優しく囁くような声に少女は真っ赤になった。

彼の足元を見れば、ルシアが巻いた包帯がしっかりと確認できた。
嘘ではない…?

「傷を見た限り、嘘ではないようね。それで、あなたの正体は?」

「ブルジュア帝国を守護する神獣です。半分は人間、半分は獣。」

「この国に神がいるなんて、噂話だと思っていたわ。」

「ですが、お嬢様…」

「な、なに?」

「この浴槽、少し狭いですね。」

「……!」

その言葉に、少女は彼の胸を押しのけ、慌てて湯船から飛び出した。
急いでシルクガウンを羽織り、胸元をきゅっと締めた。

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「そんなにじっと見ないでください、お嬢様。」

彼の体格にしばし呆然とした少女。
水滴が滴る引き締まった上半身に、無防備な下半身。
その姿に顔を真っ赤にした。

「は、早く服を着なさい!」

「服は持っていませんが…お嬢様と一緒に着るというのはいかがでしょう。」

「こ、この無礼者っ!」

じりじりと距離を詰めてくる彼に、少女はまた真っ赤になった。

彼は少女の腰に腕を回すと、もう片方の手で少女の肩にかけられたローブをそっと引き下ろそうとした。
白く滑らかな肩が露わになり、少女は慌てて彼の手を振り払った。
その様子を見て、彼は楽しいものを見つけたように、うつむきながら小さく笑った。

Gravatar

「浴槽に呼んだのも、私を抱きしめたのも、キスをしたのも、すべてお嬢様ですよ。」

「そ、それは...お前の正体を知らなかった時で、今とは状況が違うだろう!」

「気持ち良かったですけどね。もう一度試してみませんか?」

「この変態が!!」

まだ腰に回された腕が、じわじわと少女を自分の方へ引き寄せた。
彼の顔がゆっくりと少女に近づいてきたその時、少女はふと重要な事を思い出した。

「お嬢様、何かありましたか? 大きな音が聞こえたので…」

ドアの外から、心配そうなメイドたちの声とノックが聞こえてきた。