
望まない引っ越しをした後、急に大人びた。溢れていた虚勢も抜け、語尾につけていた悪口もやめた。全然かっこよくなかった。殴れば強そうに見えるという勘違いも捨てた。今では何もかもが意味をなさなかった。両親の願い通りに転校した学校では、息をひそめて過ごした。誰かに話しかけられたら、適当に返すだけだった。高校に行っても、きっとこうやって生きていくんだろうなと思った。とても退屈だった。それでも仕方がなかった。怪物だなんて指さされたくなかったから。ヒーロー映画は二度と見なかった。部屋中に貼っていたポスターも、ぎっしり飾っていたフィギュアも、全部捨てた。もう見たくなかった。ヒーローはもう憧れの存在じゃなかった。
そんなふうに中学時代は過ぎていった。高校生になった僕は、中学の友達が見たらびっくりするくらいに成長していた。身長も、心も。傷と怒りに満ちていた日々を越えて、だいぶ落ち着いた。ちょっとやそっとのことじゃ怒らなくなったし、感情の起伏もなかった。ただ「そんなもんか」「そういうこともある」と思うようになった。人間なんてみんなそんなもんだ。高校では中学の時よりは友達とも話すようになった。冗談も言い合って、一緒にご飯も食べて、一緒に帰ったりもした。ただ、誰にも自分の話はしなかった。話すと面倒になるから。話すのも嫌な両親のことから、なぜ引っ越すことになったのか、なぜ一人暮らしなのか、なぜ中学の友達が一人もいないのか――全部話したくなかった。面倒な状況は作りたくなかった。退屈なほうがまだマシだった。寂しかったけど、悪くはなかった。
学校が終わると、近くのビルの屋上に上って時間を過ごした。学校の近くに、今にも崩れそうな建物がひとつあって、誰も入らなかったから、ひとりで過ごすのにちょうどよかった。家にはなるべく早く帰らないようにした。気分が悪くなったから。ひとりでいるのも嫌で。なんとなく寂しくなって、わざと家を避けていた。その日もいつも通りだった。放課後、屋上に上がって寝転がった。かばんは遠くにポイと投げて。梅雨の時期だからか、空はどんよりしていた。僕の意思とは関係ない自然現象だった。今日は雨が降るかな。あくびをしながら空をぼんやりと見上げた。どうせ雨が降っても僕は濡れなかった。僕のまわりには膜があるみたいに、雨粒が弾かれていた。最初はそれも怪物みたいでイラついたけど、今はもう慣れた。濡れないのは、まあ、悪くない。
しばらくすると、予想通り空から雨が降ってきた。ぽつん。地面に落ちた雨が音を立てた。ぐっすり眠っていた僕は、その音で目を覚ました。うるさいな…止めてしまおうか。一瞬そう考えたが、すぐにまた目を閉じた。願い事をするのも面倒だった。なるべく能力は使いたくなかったし。すぐに止むだろうと思ってまた眠ろうとしたけど、無情にも雨はますます強く降り始めた。にわか雨じゃなかった。世界中を濡らしていた。不思議な感覚だった。世界がびしょぬれになる中、自分だけが濡れないこと。みんなが雨を避けて傘をさしているのに、自分は避けもせず黙ってその場にいること。雨を止められるのが自分ひとりだけということ。まるで自分が特別であるかのように。苦笑した。あれだけひどい目に遭っても、まだ懲りないんだな。どうせ人から見れば、僕はただの怪物なのに。
のんびりと瞬きをしながら、雨の降る世界を眺めた。突然の雨に慌てて駆け出す人たち、雨を吸い込む地面、水滴が宿った葉っぱ、一面に広がる灰色の空、そんなものたち。世界を見つめるのは楽しかった。見つめていると、自分が普通の人間のように思えて気持ちが楽になった。そのときだった。それまで一度も開いたことのなかった屋上の鉄の扉が、騒がしい音を立てて開いた。心臓が口から飛び出そうになった。なんだよ?びっくりした僕は、体を起こした。すると視界に、ひとりの女の子が入ってきた。茶色い髪の、丸い頭。それが最初に目に入った。女の子はつらそうに屋上に座り込んだ。手で耳をふさぎながら、体を震わせながら。
「……止めて。」
そして言った。止めてって。激しく降る雨のせいで、声がかき消された。僕は何を言ってるのか聞こうと感覚を集中させた。女の子は泣きじゃくりながら体を丸めた。その姿があまりにも痛ましくて、思わず胸が締めつけられた。小さな体が、今にも崩れてしまいそうなほど不安定だった。
「止めて。お願い…」
「……」
「雨を止めて……」
声に集中すると、一瞬で分かった。何を止めてほしいのか。雨だった。世界を濡らし続けるこの雨。彼女は耳をふさいでいた手を合わせ、必死に願っていた。体はまだ震えていた。その姿をじっと見つめていた僕は、まるで取り憑かれたように手を合わせた。止めてほしいなら、止めてあげなきゃ。なぜそうしたのかは分からない。誰かのために雨を止めたことなんてなかった。そもそも能力を使うのも久しぶりだった。もしかして、自分の声を忘れて止めてくれなかったらどうしよう、なんて考えも浮かんだ。それでも願うしかなかった。彼女を助けてあげたかった。方法はいつもと同じだった。目を閉じて、手を合わせて、唱える。
「雨を、止めて。」
僕の声を忘れていなかったのか、空は願いに応えてくれた。雨は一瞬で止み、太陽の光が差し込んだ。やっぱり、腕は鈍ってなかったな。僕は小さく笑った。雨が止まると、女の子の震えも止まった。荒く息を吐いた後、そっと顔を上げた。
わぁ、きれいだ。
顔を見た最初の感想はそれだった。とてもきれいだった。思わず見とれてしまった。太陽の光が反射したその顔は、何よりも明るく輝いていた。まばたきだけしていた女の子は、おそるおそる立ち上がった。体に力が入らないのか、ふらついていた。傍らに投げていたかばんを背負い、屋上をあとにした。全身がびしょ濡れだった。大丈夫かと声をかけたかったが、それどころではないのがすぐに分かった。また会えるだろうか。そんなことを、可笑しいくらいに思っていた。
女の子がいた場所に行ってみた。そこには名札が落ちていた。これ、うちの学校の名札じゃん。形を見てすぐに分かった。見覚えのない顔だったから、きっと後輩だろう。濡れた名札を服でゴシゴシと拭いた。指先で名前の三文字をなぞった。
「ユン・アルム(윤아름)」
名前はアルムっていうんだ。ユン・アルム……何度かその名前を呟いた僕は、ふとこんな思いにとらわれた。もしかしたら、彼女にとって僕は必要な存在なんじゃないかって。能力を明かしても僕を怪物とは思わない人。僕の力を必要としてくれる人。僕を必要としてくれる人。僕が――隣にいられる人。もしかしたら、終わらない孤独から抜け出せるかもしれない。空っぽの家に帰っても、安らかに眠れるかもしれない。彼女の痛みを利用しているようで申し訳なかったけど、きっとお互いにとってプラスになるはずだと思った。僕にはそばに人ができて、彼女は雨を避けられる。
名札をポケットにしまった。投げていたかばんを背負い、屋上をあとにした。久しぶりに心臓が高鳴っていた。新しい始まり。新しいスタート地点。僕は彼女と運命になろうと、しっかり心に決めた。
6.
あんなに行きたくなかった学校に、行きたくてたまらなくなって夜通し足をばたつかせていた。明日会えたら何を話そう。「こんにちは?」――あまりにも普通すぎる。「君、アルムだよね?」――まるでストーカーみたいじゃん。「噂で聞いてたよ?」――誰からって聞かれたらどうする。「すごく可愛いね?」――バカ、完全に変なやつじゃん。初めの挨拶をどうするかいくら考えても答えは出なかった。結局、散々悩んだあげく、明日は即興でなんとかしようという結論に達した。そして寝坊した。あまりにも遅くに寝たせいだった。制服もまともに着れず、息が切れるほど走った。それでも遅刻してしまった。生活指導で罰点ももらった。最悪のスタートだった。教室に入るなり机に突っ伏した。あまりにも走ったせいで、心臓がやけに高鳴っていた。
「チェ・ボムギュ、大丈夫?」
「寝坊して遅刻。」
「走ってきたの?」
「うん…死にそう。」
隣の席の子が笑いながら水を差し出した。ありがとうと言って水を飲んだ。ぼんやりしていた頭が少しは冴えた気がした。そうだ、今日は気を引き締めないと。休み時間に2年生の教室にも行ってみよう。会えるかな…。頬杖をついてじっと考えた。早く会いたくて、手足がずっと震えていた。そんな期待を見事に裏切るように、ユン・アルムの姿は見当たらなかった。1年生の教室を何十回と往復しても、似たような髪型すら見かけなかった。茶色くてまるい頭。見たらすぐわかるはずなのに。名札を見間違えたんだろうか? でもどう見ても、うちの学校の名札だった。昨日拾った名札をもう一度撫でた。名前の三文字をなぞるだけなのに、なぜか切ない気持ちになった。
昼休みにも探しに行ったけど、やっぱりダメだった。気づけばもう下校時間が迫っていた。本当に最後にもう一回だけ行ってみよう。今度こそ本当に最後。いなかったら…どうしよう。明日は来てくれるかな。たった一階降りるだけなのに、いろんなことが頭をよぎった。たかが運命のくせに。階段で転びかけた。ひねった足首がズキズキ痛んだ。はあ、ほんとにツイてない。2年生たちも下校の準備で騒がしかった。人混みの中で丸い頭を探したけど、今回も空振りだった。いったいどこに隠れてるんだよ。今日は雨も降ってないのに。ひとりぶつぶつと文句を言っていた。ちょうどそのとき、チャイムが鳴った。もう今日は諦めて明日また来よう。重い足取りで階段を上がろうと曲がり角を曲がったその瞬間――
「あ…」
「あっ。」
誰かとぶつかった。相手も僕も突然の衝突にバランスを崩して倒れた。さっきひねった足首がまたズキッと痛んだ。眉間にしわが寄った。今日の運勢、ほんとに最悪…。でも誰のせいでもない。ぶつかったのは僕にも非があるから。床には教科書やノート、筆記用具が転がっていた。ぶつかったときに相手が落としたものだった。急いで起き上がり、それらを拾った。相手も無言で拾い始めた。よれよれの僕の教科書とは違って、相手の教科書はホコリ一つないほどきれいだった。わぁ、ほんとに几帳面なんだな。ページ一つ折れもなくピシッとしていた。筆記用具も傷ひとつなく、まるで新品みたいだった。見なくても性格がわかる気がした。そうやってノートを拾っているとき、ふとノートの表紙に書かれた名前が目に入った。丁寧で整った文字。そして、その文字で書かれた名前は――
「…ユン・アルム?」
ユン・アルムだった。突然自分の名前を呼ばれて驚いたのか、ユン・アルムは僕の方を見た。目が合った。大きくて、綺麗な目だった。体中がビリッとした。
「本当に…本人だ。」
「…私のこと、知ってるんですか?」
しまった。つい心の声が漏れてしまった。こんな出会い方、想定してなかったのに。何か話さなきゃと頭をフル回転させたが、真っ白だった。目だけがキョロキョロ動いた。ユン・アルムはそんな僕を無表情で見つめたあと、再び無言で物を拾い始めた。
「…僕が拾うよ。ぶつかってごめん。」
「いえ。大丈夫です。」
「でも、僕のせいで転んだんだから。」
「気にしないでください。」
そう言って、僕の手に持っていた荷物を取っていった。一瞬だったけど、手が触れた。その触れた場所が妙にくすぐったくて、お腹の奥がムズムズした。自分でも理由が分からなかった。
「私も、すみません。」
「いや、君は謝る必要ないよ…」
「もう、言いたいことは終わりですか?」
「え?」
「それじゃあ、失礼します。」
問題が発生した。ユン・アルムは、とてつもなくガードが堅かった。初めて目が合ってから、一度もちゃんと僕を見てくれなかった。無感情な目つきと素っ気ない表情。昨日見たあの子と同じ人とは思えないくらいだった。短く挨拶をすると、ユン・アルムは悠々と僕の横を通り過ぎていった。引き止めて何か言いたかった。でも、何を言えばいいんだ? 考えるよりも先に体が動いていた。気づいたときには、通り過ぎようとするユン・アルムの手首を思わず掴んでいた。温かい体温が伝わってきた。急に掴まれて驚いたのか、ユン・アルムの目がまん丸になった。リスみたいだ。昨日と同じように、やっぱり綺麗だった。その瞬間も――。
「ねえ。」
「……。」
「僕、チェ・ボムギュって言うんだ。」
せっかく引き止めて言えた言葉がこれだった。名前の自己紹介。恥ずかしすぎて舌を噛んで死にたくなった。バカなチェ・ボムギュ。意気込んで話す内容が、まさかの名前とは。ユン・アルムは「それで?」というような目で僕を見た。それでも、掴んだ手首は離せなかった。
「えっと、つまり…」
「……。」
「…僕の名前、覚えて。」
「え?」
「チェ・ボムギュ。僕の名前。覚えてほしいんだ。」
「…なんでですか?」
その声には微塵の揺れもなかった。次はなんて答えればいい? 大きくて透き通った目に見つめられて、冷や汗が止まらなかった。なんであんなに大きくて綺麗なんだよ。下手なことを言えば、始まる前にすべて終わる――そんな予感があった。でも他に手はなかった。ただぶつけるしかなかった。
「君と仲良くなりたいんだ。」
「……。」
「前から君のこと、知ってたんだ。」
「……。」
「仲良くなりたくて、名前も……」
「……。」
「変に思うかもしれないけど、本気なんだ。だから、覚えてほしい。」
とんでもない初対面だった。僕にとっても驚きだった。今まで誰かと仲良くなるときにこんなにオロオロしたことなんてなかった。緊張なんてしたことなかった。でも今は、背中が汗でびしょびしょになるほど緊張していた。僕とユン・アルムの間に、一瞬の沈黙が流れた。ごくりと乾いた唾を飲み込んだ。しばらく黙っていたユン・アルムは、僕の手を自分の手首からそっと外した。そして言った。
「私は、仲良くなりたくありません。」
「えっ?」
「仲良くなる気、ないです。」
「……。」
「無駄な労力は使わないでください。」
ぶつかったことはすみませんでした。拾ってくれてありがとう。それじゃあ、失礼します。今回は本当に、引き止められなかった。明確な拒絶だった。チャイムが鳴ってからかなり時間が経っていたけど、教室に戻ることができなかった。僕はその場で固まってしまった。……これって、振られたんだよな。始まる前から。ゆっくりと頭が回り始めた。状況が理解できた瞬間、不思議と涙よりも笑いがこみ上げてきた。スーパーマンの真似をして腕を折ったあのときみたいに。
「マジで笑える。」
話を聞いても、嫌いになるどころか、ますます好きになった。緊張でガチガチだった体が一気に緩み、気持ちも軽くなった。すごく、可愛かった。どこが?って聞かれるとうまく説明できない。ただ、可愛かった。目を大きく見開いて、はっきり言いたいことを言うその姿が。ユン・アルムは嫌だって言ったけど、僕の名前を忘れることはないだろうって確信があった。いきなり「名前を覚えて」なんて言うやつのことなんて、忘れるほうが難しい。むしろ、うまくいったのかも。簡単に諦めるつもりなら、あんなに一日中探したりしなかったはずだ。心臓がドキドキしていた。振られたくせに、めちゃくちゃ楽観的だった。でも、それでよかった。
運命はいつだって突然やってくる。予想もしなかった瞬間、思いもしなかったタイミングで、ひょっこり現れて日常をひっくり返していく。それを、僕はよく知っていた。そんなふうにやって来た運命が、人生をどう変えるのかも。教室へ戻りながら、心に誓った。ユン・アルムの「突然の運命」になろうって。彼女の人生をひっくり返すような存在になろうって。笑顔を届けられる人になろうって。歩くたびにポケットの中でユン・アルムの名札がカタカタと音を立てた。それすらも、嬉しかった。
空は雲ひとつない快晴。新しい始まりだった。
