「責任を取ってください。あなたの子どもですから。」
「どうしてそんなことを信じろと言うんですか?」
予想していた答えではなかった。「えっ?」と聞き返されるとか、「騙されません」と冷たく拒絶されるかと思っていた。けれど、まさかこんなにも失礼な言い方をされるなんて思いもしなかった。
「なんですって?」

「どうしてあなたの言葉を信じろっていうんですか。一ヶ月前に俺以外の誰かと寝た可能性だってあるでしょう?」
「……ありません……」
「え?」
「……だから、いないって言ってるの……」
「なんですか? よく聞こえませんけど。」
「あなた以外と寝た人なんていないって言ってるの!!」
そうして私は、温かいお茶を手にしながら広いソファに座った。
この後、彼がどんなことを言うのか少し怖くなった。
もし「中絶しろ」と言われたらどうしよう。自信はないけど……でもお腹の中には命がある。
「……産みます。」
「えっ?」
知らないうちに涙がこぼれていた。
妊娠するとホルモンバランスが乱れるって聞いたけど、もうそのせいなのかな。
まだ膨らんでもいないお腹に手を当てて言った。
「ひっく……わたし……赤ちゃん……赤ちゃん、ひっ……産みます……堕ろせなんて言わないでください……」
彼は慌てた様子で、自分のハンカチを差し出してきた。
私はそのハンカチで涙を拭いて、手の中にぎゅっと握った。
「一緒に育ててほしいなんて言いません……でも、私はまだ新入社員で……赤ちゃんを産んだら会社を辞めさせられるかもしれなくて……そしたら、お金が……だから、せめて、支援だけでも……」

「誰がひとりで育てろと言いましたか?」
「え……?」
「責任は取ります。」
まさか、そんなふうになるなんて……。
「結婚しましょう。」
「えっ!?!?」
「結婚って……でも私は……」
「俺だって驚いてますよ。でも、これは俺の責任です。」
そう言って、彼は話を始めた。
話を聞けば聞くほど、私は小さくなっていった。
「ご存知かもしれませんが、私はAJグループの本部長です。父はグループの副会長を務めています。」
「財閥の……三世……」
「まあ、皆さんそう呼びますけど……」
27歳にして財閥三世と結婚することになるなんて。
いや、これ……本当に結婚していいのかな……?
「私は、えっと……H社で働いています。入社してまだ間もない社員で、両親はごく普通の人たちです……」
「ご自宅はどこですか?」
気がつくと、ふかふかの車内にいた。
妊婦だから送ると言われたけど、まだそんな状態でもないのに……
「あの、あそこの角で降ろしてもらっても大丈夫です。」

「ご自宅はどこですか? 今後来ることがあっても、ここで待ちますか?」
「いえ……あの、コンビニを二つ先に行ったところで……」
送るだけなのに、どうしてそんなに冷たいんだろう。
「明日また来ます。結婚するなら、ご両親に挨拶しないといけませんからね。」
「あの……本当に結婚するつもりなんですか……?」
「はい。」
。
。
。
家に戻り、ソファにどさっと腰を下ろして、まだ膨らんでいないお腹に手を置いた。
そして少し震える声で話しかけた。
「赤ちゃん……こんにちは……。今日ね、あなたのお父さんに会ってきたの。すごく冷たい人だった。でもね、私はあなたを不自由なく育てたくて……ちゃんと言ってよかったって、思いたいな。ね?」
ゆっくりお腹を撫でながら、そっと微笑んだ。
「絶対に産むよ。産んで、絶対に幸せに育ててみせるから。赤ちゃん……たくさんたくさん、愛してあげるからね。赤ちゃん……」
そして夜が明けた。
外に出ると、黒いセダンが停まっていた。
あれが彼の車かな。
「乗ってください。」
窓が下がり、運転席には彼の姿が。
運転手がいると思ってたけど……
「おはようございます……」
「おはようございます。」
「あの、これからどこへ……」

「言ったでしょう。ご両親に会いに行くって。」
「ほんとに……!?」
「はい。では、出発し――」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
