チェボングはオフィスで働く会社員だ。
みんなからはバンビと呼ばれている。
今日も仕事を終えて席を片づけるプリのデスクへ急いで向かう。
プリとは同い年で、3年ほど前からの知り合いだ。
特に残業がない限り、途中まで一緒に帰ることが多い。
オフィスの外に出ると、桜が満開だった。
思わず見とれていると、少し強い風が吹く。
無意識に閉じていた目を開けると、プリの髪に桜の花びらがついていた。
「プリ、桜の花びらついてる。今取ってあげるね。」
そっと手を伸ばすと、プリの髪はやわらかかった。
「桜の妖精みたい。」
そう言うとプリは、
「バンビのほうが、髪もピンクでふわふわしてて可愛いから、もっと桜の妖精みたいだよ。」
と言って笑いながら答えてくる。
ふいにバイクのエンジン音が響き渡る。
「プリ、仕事終わった?」
バイクに乗って現れたのは、プリの恋人のウンホだった。
「ウンホ! うん、今ちょうど終わったところ。バンビ、取れた?」
二人は学生の頃から付き合っていて、最近婚約したらしい。
二人より1歳年下だ。彼が迎えに来ると、そこで別れることになる。
「あ、うん。全部取れた。」
少しぼんやりした目でバンビが答えると、プリはウンホのいるほうへ駆け寄る。
バンビの指先からプリの髪がするりと抜けていく。
気のせいか、プリの頬は桜のようにピンク色に染まっている。
「バンビ、また明日!」
「うん、また明日。」
ウンホはバンビと目が合うと軽く頭を下げ、バンビもつられるように頭を下げた。
バイクは二人を乗せて遠ざかっていく。
ついさっきまで一番近くにいたのは私だったのに、どうして今はあいつがいるんだろう。
どれだけ仲良くしていても、あいつが来ると、君の隣の席は奪われてしまう。
あいつより私が先に出会っていたら……そんなことを考えても、何の意味もないのに。
