私たちは一線を越えないことにした(1)

78話。フンジの電話



パリに住んでいる

ジュリアンと頻繁には会えなかったので、

主に電話とメッセージで連絡を取り合っていた。




パリでの初めての出会いのあと、

数か月が過ぎてから知ったことだったが、

彼は私より1歳年上で

一人っ子だった。




ボザール・ド・パリという美術大学で

絵画を専攻したと言っていた。




両親が韓国に帰ったあとには、

自分もいつか韓国の大学で学生たちを教えながら

暮らしてみたいと言ったことがある。




ときどき月曜日や金曜日に休みを取ると

週末まで続けてスペインへ来て私に会った。





その日も休みを取って、スペインへ来て

私と一緒に時間を過ごしていた金曜日だった。





一緒に夕食を食べたあと、

散歩をしていると

韓国から電話がかかってきた。





フンジさんの番号だった。




「あ...キム代表が知らせたんだ...」




この番号を待っていたようでもあり、

来てほしくなかったようでもあった。



出るべきかどうか分からず

携帯の画面だけを見つめていた。





「電話に出ないで、どうして見てるだけなんですか?」





「韓国からの番号です。」





「もしかして...元彼ですか?」





私はすぐには答えられなかった。





その短い沈黙だけでも

彼には答えが分かってしまったようだった。





「僕が席を外すから

 気楽に出てください。」




彼は私の返事も聞かずに、

肩を軽く叩くと席を外してくれた。





大きく深呼吸して、

通話ボタンを押した。





「もしもし?」





「私です。」




私はしばらく何も言えなかった。


「...はい。」





「携帯を作ったって、どうして言わなかったんですか?

 私に一度も電話もせずに...」





「キム代表から聞けなかったんですか?

 伝えてほしいとお願いしておいたのに...」





「何のことですか?

 あなたに恋人ができたって話ですか?

 僕は...あなたの言ったこと、信じません。」






「フンジさん...本当です。

 私、その人と真剣に付き合っているんです。

 その人に申し訳ないことは

 したくありません。

 だからこれから電話しないでください。

 出ません。」






「本当に僕以外の誰かと会ってるってことですか?

 それが本当だと?」





「...本当です。」





 「あなたが本当に僕に

 そんな残酷なことをしているって?」






「どうか私を揺さぶらないで、放っておいてください。

 あなたを思い出すたびに

 胸が引き裂かれそうなんです。

 もう私も楽になりたいんです。

 連絡しないでください...お願い。」





「あなたが僕を受け入れるまで

 待つって言ったじゃないですか。

 その約束を守ろうと

 必死なんですけど...」





「その必死さ...もうやめてください。

 難しいことをしようとするから。

 無理なことをしようとするから、そうなるんです。」






「僕だって自分の気持ちがどうにもならないのに

 どうしろっていうんですか...」






泣きじゃくる彼の声を

これ以上聞いていられなくて

電話を切り、電源を落とした。





そして、

その場にへたり込んで声を上げて泣いた。





遠くに立っていたジュリアンが駆け寄ってきて

座り込んだ私を抱きしめた。





「たまに私を揺さぶってくるこの人のせいで

 気が狂いそうです。本当に...

 手を離したいのに

 そうできなくて、頭がおかしくなりそうです。

 あなたが私をどうにかして。

 私がこれ以上揺れないようにして。お願い...」





すすり泣く私を抱きながら、

ジュリアンは何も言わずに

背中を撫でてくれた。





どれくらい時間が過ぎたのか分からなかった。

日は傾きかけていた。




私の泣き声が治まるまで、

彼はそのまま私を抱いていた。



ある程度落ち着きを取り戻したあと、

私たちはさらに少し歩いて

村全体を見下ろせる

丘の上に登った。





ベンチに座ると、

彼が私の手を温かく握った。




「両親が来週パリに来るんです。」




「本当ですか? ジュリアンに会いに来るんですか?」




「うーん...

 正確に言うと、あなたに会いに来るんです。」





「私に? ご両親に話したんですか?」





「うん。

 最初に私たちが会い始めたときから

 話してあったのでご存じです。」





「そうだったんだ...」




最初から私を隠さなかった人だった。

フンジさんとは違って

私を堂々と連れて会える人だった。




「来週の週末、うちの両親に会っても大丈夫ですか?」





あまりにも突然の彼の言葉に

どう答えればいいのか、すぐには言葉が出なかった。





ご両親に会うというのは、

単なる恋愛ではないという

意味でもあった。




彼が私の手を握る手にぎゅっと力を込めた。

その瞬間、はっと目が覚めたような気がした。




「はい。お会いします。」




「そうしてくれますか?」




「うん。もちろん。

 韓国から私に会いにパリまで来てくださるなんて

 感動です。」





「ありがとう。」





彼は私の目を見つめ、

額に唇を押し当てた。




ジュリアンと一緒にいると

フンジさんと一緒にいるときのようには胸が高鳴らなかった。

その代わり心は温かく、落ち着いていた。




その穏やかさが、

今の私には何より必要だった。

 



「今日はここで寝て。」 <79話より>

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