俺たちは一線を越えないことにした(シーズン1)
第122話。信号音

sophie97
2026.08.16閲覧数 27
私たちは4日間の旅を終えて
フリヒリアナに戻ってきた。
忘れられない素敵な旅だったけれど
フンジさんの質問を受けて、
まだ答えられない私は
大きな荷物を抱えているようだった。
旅から戻る車の中で
彼が言った。
「選択を強要したくはありません。
私は自分の選択をしました。今度はあなたの番です。
どんな選択をしても……それはあなたの責任です。」
私はまだ彼の人生に飛び込む覚悟がなかった。
彼を好きでいる代わりに
背負わなければならない多くのことが怖かった。
私たちはそのことは棚上げにしたまま
旅に出る前の日常を送っていた。
フンジさんは運動に出かけて
私は家に残って掃除をしていた
週末の午後だった。
携帯が鳴って確認すると
キム代表だった。
「ああ。テヒョンさん。」
「旅行はうまくいった?」
「うん。」
「もしかして、隣にフンジはいる?」
「いや。運動しに出かけた。
私ひとりだよ。」
「フンジに映画の話は聞いた?」
「詳しい話はしてない。
撮影が早く始まるからできないって
言ったってことだけ知ってる。」
「制作会社も大手だし、
監督も以前フンジと一緒に仕事をした方なんだ。
脚本もしっかりしてるし、逃す理由がないだろ。
むしろこんなチャンスを逃したらバカだよ。」
「……」
「俺の話、聞いてる?」
「ああ、聞いてる。
俺にフンジさんを説得しろって電話したんだろ?」
「1年をわざわざきっちり埋める必要はないだろ。
必要に応じて早く戻ってくることもあるってことだ。
そうだろ?」
「それはそうだけど……
問題は、その映画を撮らせるために
私にも決断しろって言われることなんだ……」
「お前に何の決断をしろって?」
「一緒に韓国へ戻ろうって……」
「あ……
君はまだ、ふたりのことを決めきれてないのか?」
「うん……」
「それなら君の立場では
積極的には説得できないな。」
「私もフンジさんがそんな良いチャンスを
逃すのは望んでないけど……
今すぐフンジさんについて決断するのも
重荷で……」
「わかった。そんな状況なら……
俺から君に頼むのも難しいな。
俺の立場からフンジをもっと説得するしかない。」
「力になれなくてごめん……」
「いや……
君の立場では仕方ない状況だから。」
キム代表との電話を切って
私は何を選べばいいのか
途方に暮れていた。
映画を選べとまでは言えず、
かといって彼と一緒に韓国へ戻るとも
言えなかった。
家にいると
ずっとそのことばかり考えてしまいそうで
本を1冊持って外に出た。
公園へ行こうかと思ったが
ミゲルのカフェへ向かった。
彼とあれこれ話したかった。
週末の午後、
カフェの中にはすでに何人か客が座っていた。
「ソフィ。週末にどうしたんですか?
週末は翻訳の仕事、しないでしょう?」
「ただ本でも読もうと思って出てきただけです。」
「あ……じゃあ……
ちょっと私を手伝ってもらえますか?」
「何を……?」
「豆の配達が予定より
少し遅れるみたいで、
私が行って直接受け取ってこようと思って。
少しの間、カフェを見ていてもらえますか?」
「私はコーヒーを淹れられないんですけど?」
「いいえ。作る必要はなくて、
ここのお客さんだけ少し見ていてくれればいいんです。
誰もいなければ鍵をかけて行って戻ってくるんですけど、
そうできないので。」
「あ……そういうことなら私がいますよ。
心配しないで行ってきてください。」
「ありがとうございます。
その代わり、戻ったら
おいしいコーヒーを淹れますね。」
「楽しみにしてます。」
私はミゲルを見送って
ひとつのテーブルに座った。
本を読んでいるうちに
客はひとり、またひとりと帰っていき
結局、私ひとりだけが残った。
『もうこの場所での暮らしを
整理して韓国へ行かなきゃいけないのに……
いつ頃がいいんだろう……』
本が目に入らなかった。
その時カフェのドアが開いて
ミゲルが入ってきた。
彼の腕には
豆袋が1袋抱えられていた。
「新しく来たお客さんはいましたか?」
「はい。ミゲルが出たあと
入ってきたお客さんはいませんでした。」
「ちょうど受け取ってきたばかりの新鮮な豆で
コーヒーを淹れるから飲んでみてください。」
「期待してもいいですか?」
「もちろんです!」
豆袋をほどいていたミゲルが
こちらを見て言った。
「さっき街中で交通事故があったそうです。
東洋人の男性が1人、車にはねられて
病院に運ばれたらしいですよ。」
「東洋人ですか?」
「はい。
観光客かもしれないし……」
その瞬間、
フンジさんの顔が頭をよぎった。
『運動に出てからかなり時間がたってるのに
どうして私に電話がないんだろう……?』
私はあわてて携帯を取り出し
彼の番号を押した。
呼び出し音が長く続いた。
でも
彼は電話に出なかった。
「フンジさん!!!」 <123話より>