ホテルへ戻る道。
夜の街は、
昼間より少しだけ静かだった。
さっきまで歩いていた通りを離れると、
聞こえてくるのは車の音と、
遠くから聞こえる人の話し声くらい。
隣を歩く奕翔が、
ふいに足を止めた。
「……あ。」
「どうしたの?」
「写真。」

そう言って、
奕翔がスマートフォンを取り出す。
「今日、撮ったやつ見る?」
「うん。」
画面を覗き込むと、
そこには今日一日の写真が並んでいた。
朝ごはんの店。
街の景色。
さっき立ち寄ったお店。
そして、
私が知らないうちに撮られていた写真。
「これ、いつのまに撮ったの?」
奕翔が、ふふふ、と笑う。
画面には、
真剣な顔でメニューを見ている私が写っていた。
「いい写真でしょ。」
「悪くないね。」
「でしょ?」
奕翔が笑う。
その笑顔を見ていると、
なんだかこちらまで笑ってしまった。
「今日、いっぱい撮ったね。」
「うん。」
「明日も撮る?」
「明日は……」
奕翔が少し考える。
「撮る。」
「じゃあ、私も撮ろうかな。」
「俺を?」
「景色を。」
「えーーー、そこは俺でしょう。」
そんなやり取りをしながら、
ホテルまでの道を歩いた。
しばらくして、
ふと手元を見る。
街灯の下で、
ブレスレットが小さく光っていた。
隣を見る。
奕翔の手首にも、
同じものがある。
「……ねえ。」
「ん?」
「これ、明日もつける?」
奕翔が自分の手首を見る。
「つけるよ。」
「じゃあ、私も。」
「うん。」

それだけの会話だった。
なのに、
なぜか少し嬉しかった。
ホテルが見えてくる。
もうすぐ、
今日も終わる。
そう思うと、
急に時間が惜しくなった。
「明日、何時に来る?」
「……9時くらい。」
「寝坊しないでね。」
「寝坊したら、連絡する。」
「朝、弱いの?」
「ふふ、夜更かしは得意なんだけどね。」
「じゃあ次来た時は、夜市に連れてって。」
「いいよ。」
そんなことを話しているうちに、
ホテルの前に着いてしまった。
「じゃあ、また明日ね。」
「うん。」
一歩進んで、
ふと振り返る。
「……おやすみ。」
「おやすみ。」

エレベーターの中で、
私は自分の手首を見る。
小さなブレスレット。
明日は帰国の日。
寂しい。
でも、
明日も会える。
そんな嬉しさもあって、
自分でもよく分からない気持ちだった。
