台湾に残る、あの日の約束

EP9 夢の続き

「この場所、どこだろう……。」


祖父のスケッチを机に広げる。


海でもない。

学校でもない。

描かれていたのは、小さな石橋と、

その先に続く坂道。


右端には、大きな木。

そして裏には、一言だけ。


『夢の続きは、ここで。』


「祖父も場所までは教えてくれませんでした。」


奕翔はスケッチを見つめながら言う。

「でも、この木には見覚えがあります。」


「本当に?」

「たぶん……台南です。」




翌朝。

二人は新幹線に乗り、台湾南部へ向かった。

車窓から見える景色は、台北とはどこか違う。


ゆっくりと流れる時間。

広い空。


「台湾って、こんなに表情が違うんだね。」


「僕も好きな街なんです。」


そう言って笑う奕翔の横顔を、

私は少しだけ長く見つめてしまった。



地図を片手に歩くこと一時間。

ようやくスケッチと同じ石橋を見つける。

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「ここだ……!」


思わず駆け出した、その時。

石畳に足を取られた。


「きゃっ……!」


身体が前へ傾く。


その瞬間。


ぎゅっ。


「危ない。」


奕翔が、私の手を掴んだ。

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強くもなく、弱くもない。

でも、離したくないと思ってしまうくらい温かい手。


「……ありがとう。」


「ごめん。」


「え?」


「びっくりさせましたよね。」


私は首を横に振った。

「ううん。」


本当は。

心臓がびっくりしていた。





橋を渡った先には、小さなアトリエがあった。

今は誰も住んでいないらしく、窓には「保存建築」の札が掛かっている。


中には昔の画材やイーゼル。

そして壁には、一枚の写真。


若い頃の二人の祖父が並んで立っていた。

その写真の裏には、日本語で書かれた一文。


「いつか、子どもたちが自由に絵を描ける場所をつくろう。」


私は思わず息をのんだ。

「ここが夢の場所……。」


奕翔が静かに呟く。

「誰でも絵を描ける場所をつくること。」


祖父たちは、そんな夢を抱いていた。

でも。


戦争が、その未来を奪ってしまった。


夕方。

アトリエを出ると、空は茜色に染まっていた。


私はさっきまで握られていた右手を見る、

もう手は離れている。

なのに。

まだ温もりだけが残っていた。


「どうしました?」

奕翔が不思議そうに聞く。


「え?」


「ずっと手を見てるから。」


私は慌てて笑う。

「ううん、なんでもない。」


すると奕翔も少しだけ耳を赤くして、小さく笑った。


「……僕もです。」


「?」

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「まだ、温かい。」


その一言だけで。


夕焼けよりも顔が熱くなった。



ホテルへ戻る途中。

二人は何も言わずに歩いた。


でも、不思議と沈黙は気まずくなかった。

言葉がなくても、一緒にいるだけで心地いい。


そんな距離に、いつの間にかなっていた。

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