カフェを出て歩いている途中、ヒロインの携帯がまた鳴った。
[テサン] どこ?
[テサン] さっきから返事ないね
[テサン] 電話出てよ
ヒロインが画面を確認すると、ジェヒョンもそっと目をやった。
「またテサンだね。」
「うん。なんでこんなに連絡してくるんだろう?」
ヒロインはふっと笑って携帯を裏返した。
でも、隣を歩いていたジェヒョンが静かになった。
「どうしたの?」
「なんでもない。」
「何それ。」
「ただの。」
「また拗ねた?」
「拗ねてない。」
ヒロインはジェヒョンの表情をうかがった。
確かにいつもよりこわばっていた。
「いや、顔に全部出てるじゃん?」
「大丈夫。」
「大丈夫じゃなさそうだけど。」
ジェヒョンは答えなかった。
ヒロインは最初、冗談っぽく笑った。
「まさかまたテサンのせい?」
「……。」
「本当に?」
ジェヒョンは短くため息をついた。
「ずっと連絡来てるから、ちょっとね。」
「でも、私が連絡したわけじゃないじゃん。」
「分かってる。」
「じゃあ、なんで私に当たるの?」
「君に文句を言ってるわけじゃない。」
「でも顔は私に文句言ってるみたいだけど?」
ジェヒョンが足を止めた。
「今はただ、気分が良くないだけだ。」
「だから私は何をすればいいの?」
「何もしないで。」
「じゃあ、私はただテサンから連絡来るのを見てるだけ?」
「そういう意味じゃない。」
「じゃあ、どういう意味?」
ヒロインの声が少しずつ大きくなった。
最初は冗談だったのに、ジェヒョンが短く返すたび、ヒロインもだんだん悔しくなっていった。
「いつもこうじゃん。」
ジェヒョンの眉がわずかに動いた。
「何が。」
「機嫌が悪いと、何も言わずに一人で静かになる。私が何を悪くしたのかも分からないのに、気を遣わせて。」
「……ムン・ハナ-」
「テサンはただの友達だよ。私があの子と何かあるわけでもないのに、なんでいつもそうなの?」
「ムン・ハナ。」
「いや、本当にそうじゃん。」
「もうやめよう。」
「なんで? 言いたいことがあるなら言えって言ったじゃん。」
ジェヒョンはしばらくヒロインを見つめていた。
「今は君が僕の話を聞こうとしてないみたいだ。」
「私だって、私の言うことも聞いてほしいんだけど?」
その瞬間だった。
ジェヒョンの表情から、最後に残っていた感情まで一気に消えた。
怒ってる気配すら大きく出さなかった。
ただ、冷たく冷え切った。
「そう。」
「……。」
「じゃあ、ここまでにしよう。」
「え?」
「今これ以上話しても、お互い余計に気分を悪くするだけだと思う。」
ジェヒョンの声は低く、落ち着いていた。
でもヒロインはそこでようやく違和感を覚えた。
さっきまでは、少なくとも寂しそうな表情くらいはあったのに、
今は本当に何の表情もなかった。
「ジェヒョン……」
「何。」
ヒロインの声が小さくなった。
「本当に怒ってるの?」
ジェヒョンは少しの間ヒロインを見てから答えた。
「うん。」
短かった。
その一言で、ヒロインの顔が強ばった。
そこでやっと、さっきまで自分が言っていた言葉が一つずつ思い浮かんだ。
『私が何を悪くしたの?』
『じゃあ私は何をすればいいの?』
『テサンはただの友達だよ。』
『私だって、私の言うことも聞いてほしいんだけど?』
最初は悔しくて言った言葉だった。
でもジェヒョンは、ずっと我慢していたのだ。
ヒロインは唇をぎゅっと結んだ。
「……ごめん。」
ジェヒョンはすぐには返事をしなかった。
「私、言い方きつかった。」
しばらくして、ジェヒョンが静かに言った。
「分かった。」
「もう怒ってない……?」
ジェヒョンは首を振った。
「さあ。」
ヒロインはもう何も言えなかった。
ジェヒョンは先に視線をそらした。
「少し落ち着く。」
そう言い残して、ゆっくり先へ歩いていった。
ヒロインはしばらくその場に立ち尽くしてから、静かに後を追った。
今度は言い訳も、言い返しもしなかった。
そこでようやく、ヒロインは状況をちゃんと理解した。
ジェヒョンが望んでいたのは、テサンと連絡するなということじゃなかった。
ただ、自分が寂しかったんだと分かってほしかっただけだった。
