問題がある場合は削除します。アーティストを貶める意図はありません。
すべての内容は現実と関係ありません。

卒業式の朝には、初めての梅雨の雨が降った。
鐘の音は雨音にかき消され、鈍く響いた。
窓の外の青々とした麦畑は、一夜のうちに灰色に濡れていた。
妙に静かな朝だった。
三度目の鐘が鳴り終わっても、部屋のドアは開かなかった。
ハナ '何だろう..? 静かだね..'
いつも朝になると元気に飛び起きていたウナクが来なかった。
制服を持って着替え、男子寮のほうの廊下へ行った。

ウナクの部屋のドアは半分開いていた。
ウナクは窓際で膝を抱えて座り、雨の降る海を見ていた。

ハナ "ウナク、今朝は肉が出るんだって。卒業式の日だから"
ウナク "ヌナ"
ウナクが顔も向けずに聞いた。
ウナク "ユリ姉さん、本当に外へ出るんだよね?"
ハナ "もちろん、どうして?"
ウナク "ただ... 夢でユリ姉さんが泣いてたんだ.. 声も出さずに。なんで泣くのって聞いたのに、答えてくれなかった"

私は笑って、ウナクの濡れた髪をくしゃっと乱した。
ハナ "あー、大丈夫だよ。夢は逆になるっていうし"

笑ったのに、背中がひやりとした。
昨夜、森の向こうでまたたいていた明かりを思い出した。
食堂では、卒業式の日にだけ出る朝の月明茶が、どの器からも湯気を立てていた。

いつもならおかわりをねだって大騒ぎするのに、今日は誰も口を開かなかった。
ソンホですら、器をいじっているだけだった。
私はお茶をひと口飲んだ。

いつもと同じように甘かった。
飲んでみると、妙に気持ちが落ち着いた。
さっきのウナクの夢の話が、たいしたことのない出来事みたいに思えた。
講堂には、年に一度島に来る院長先生が来ていた。
黒い傘を持った背の高い男

顔はいつものように、あまり記憶に残らなかった。
院長 "君たちはウンハ院の星だ。星はいつか空へ帰らなくてはならない"
毎年聞く祝辞だった。
毎年きれいだと思っていた言葉が、今日はどこか引っかかった。
院長 "チェ・ユリ。前へ"
ユリ姉さんが壇上に上がり、卒業証書を受け取った。
私たちは拍手をし、姉さんは手を振った。

その手首にいつも巻いていた星形の結び目のブレスレットはなかった。
式が終わると、子どもたちが順番に姉さんへ別れの挨拶をした。
私の番が来ると、姉さんは私をぎゅっと抱きしめた。

思ったより長く、思ったより強く。
ユリ "ハナ"
姉さんの唇が耳元に触れた。
ユリ "私の部屋の片づけ、絶対あなたがやって。あなただけ"
返事をする前に、姉さんは体を離し、ぱっと笑った。
何事もなかったかのように
ユン先生が姉さんの肩を抱き、傘の下へ連れて行った。
桟橋へ向かう道
私たちは玄関のひさしの下
に並んで立ち、二人の後ろ姿が雨の中にぼやけていくのを見ていた。

ひさしの端から落ちた雨水が、私の肩を濡らした。
ジェヒョンは黙って私のほうへ傘を傾けた。
でもその目は私を見ていなかった。

桟橋のほうを、何かを確かめるようにじっと見ていた。
イハン "船の音、聞こえる?"

イハンが小さく聞いた。
私は耳を澄ませた。
聞こえるのは雨音だけだった。

テサン "おかしいな"
テサンは眼鏡についた雨粒をぬぐいながら、つぶやいた。

テサン "桟橋へ行く道なのに、どうして足跡が森のほうへ曲がってるんだ?"
ソンホ "雨でそう見えるだけだろ"

ソンホが何でもないように言った。
テサンは答えなかった。
代わりに、ぬかるみの上の足跡を最後まで目で追っていた。
横を見ると、リウは笑っていなかった。
いつも笑っているリウが、先生たちの後ろ姿
を、妙に長く見つめていた。
午後の自習の時間、私はユン先生にユリ姉さんの部屋を片づけると言った。
先生は少し私を見て、それからうなずいた。

がらんとした部屋だった。
布団はきれいに畳まれ、机の引き出しも空っぽだった。
姉さんがこの部屋で七年も暮らしていたなんて信じられないほど、何もなかった。
ベッドの下を掃いていると、ほうきの先に何かが引っかかった。

星形の結び目のブレスレット
そして四つ折りの紙が一枚

記憶テストに使うざら紙だった。
開いてみると、ウンハ院の地図が描かれていた。
本館、寮、運動場、桟橋...
姉さんらしい几帳面な線だった。

けれど地図の上のほう、何もないはずの北の森に、小さな四角が一つ描かれていた。
その四角の中には一文字
門
地図の隅に姉さんの急いだ字があった。
ユリ 'ハナ、月明茶を飲まないで'
指先が冷たくなり、頭の中がごちゃごちゃになった。
そのとき、廊下から足音が聞こえた。
こつ、こつ
ゆっくり、この部屋へ向かって
私は息をのんで、紙を制服の内ポケットに押し込んだ。
ブレスレットは手首に押し込んだ。
ほうきを握り直した瞬間、ドアが開いた。
「終わったの、ハナ?」
ユン先生だった。
先生の目が部屋の中をゆっくり一周した。

ベッド、机、そして私
「はい、ほとんど」
「そうか。お疲れさま。夜には温かい月明茶を煮てあげるよ」
先生はやさしく笑って、背を向けた。
ドアが閉まってから、ようやく息ができた。
窓の外を見た。
桟橋に船はなかった。
最初からなかったみたいに
私は傘もささずに走った。
テサンの言葉が頭から離れなかった。
テサン '桟橋へ行く道なのに、どうして足跡が森のほうへ曲がってるんだ?'

足跡が森のほうへ曲がっていたって
運動場を横切って、青い麦畑を抜けて、入ってはいけない北の森へ
雨水が制服の中へ染み込んだ。
足元の土は滑りやすかった。
内ポケットの紙が濡れないように、胸に抱えて走った。
昨夜、明かりが点滅していた方向だけを考えた。
森の終わるところに丘があった。
そして丘の下に、
苔に半分覆われた巨大な鉄の門があった。
木の陰に身を隠した。
門の前に黒い傘が二本見えた。
院長先生と、ユン先生
ユリ姉さんはその間に立っていた。
雨に濡れたまま、妙なくらい静かに..
まるで眠っている人のように
ユン先生が鉄の門をたたいた。
トン、トン、トン
金属のこすれる音とともに、門は内側へゆっくり開いた。
門の向こうは真っ黒だった。
ただ暗いだけではなかった。
光が届くところでぷつりと切れたみたいに、敷居から一歩分の向こうは何も見えなかった。
壁も、床も、道も。降りしきる雨さえその前で止まったように、門の中へは一滴も入っていかなかった。
門のすき間から冷たい風が流れ出てきた。
真夏の梅雨の雨の中なのに、背筋が凍るほど冷たい風
濡れた鉄の匂いがした。
「ウンハ院は、お前の我が家だ」
ユン先生が姉さんの背中をやさしく押した。
「門の外へ出ても、忘れるな」
姉さんが一歩、敷居をまたごうとした瞬間だった。
姉さんの体が急にぐらついた。
糸の切れた人形のように膝が折れ、そのまま泥の地面に倒れた。

私は悲鳴を飲み込むために、自分の手の甲を噛んだ。
ユン先生は驚かなかった。
院長先生も
二人はまるでいつも
あったことのように、倒れた姉さんの両腕をつかんで起こした。
姉さんのつま先が泥の上に二筋の跡を引きずった。
敷居を越えた瞬間、姉さんの姿は墨に沈むように、あの黒い空間の中へ消えた。
そのときだった。門の内側から声が聞こえた。
「いや….」
姉さんだった。
「いや、放して! 助けて! 誰か… 助けて!」
私の知っているユリ姉さんの声じゃなかった。
いつも笑っていた姉さんが、泣き叫んでいた。
鉄の門が閉まった。
ドン
悲鳴がぷつりと途切れた。
雨音だけが残った。
まるで最初から誰もいなかったみたいに
私は動けなかった。
門の外へ出たら必ず手紙を書くと言っていた
昨夜、器をぶつけながら笑っていた姉さんの顔が、さっきの悲鳴に重なった。
これまで私たちが拍手で送り出した先輩たちは、みんな、あの門の中でああやって消えていたのだろうか
息が詰まった。
後ずさりした拍子に、足元の木の枝がぱきりと折れた。
ユン先生の顔がこちらを向いた瞬間、
後ろから誰かの手が私の口をふさいだ。
「しっ。ハナ、私だ」
耳元に触れた声は、あまりにも聞き覚えがあった。
始まります!
誰でしょう?
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