「밤美、今夜時間ある? この前のこと、埋め合わせしたくて。」
出勤すると、フリが近づいてきて、両手に持っていたコーヒーのうち一杯を差し出しながら聞いてきた。
「うん、何もないよ。でも今日も約束がキャンセルになったら、私すねちゃうかも。」
コーヒーを受け取りながら、バンビが意地悪そうに笑った。
「本当にごめん、今日は事前にあの人にちゃんと言っておいたから。」
今度こそ本当にデートだ。勤務時間中ずっと、バンビの心はもう一度幸せでいっぱいだった。
退勤時間を過ぎて二人でオフィスを出ると、空は水色とピンクのグラデーションを作りながら、あたり一面を染め上げていた。
「きれい。」
ここで何も考えずに愛を伝えられたら、どれだけいいだろう。
口にしてしまったら、この関係は終わってしまうだろう。
そんなことくらい分かっている。お前にはあいつがいるし、恋人にはなれないから。
でも、こんなふうに気持ちを隠さなければそばにいられないこの関係は、一体何なのだろう。
友達なんて言葉は嫌だ、どんな言葉でも表したくない。
じゃあ一体何者なんだって聞かれたら分からないけど……。
「あなたはきれいだ。」
気づかないうちにバンビがつぶやいた。
「あ、いや、フリが私のことをよくかわいいって言ってくれるから、そのお返しというか。」
あわてて言い訳を付け足した。
「ありがとう、お世辞でもうれしいよ。」
フリがぱっと花開くように微笑んだ。
風がそよぎ、フリの髪を揺らした。
バンビの顔は真っ赤に染まっていたが、夕焼けの赤みがそれを隠してくれたおかげで、フリが気づくことはなかった。
