付き合い始めてから数日が過ぎた。私たちの間には、小さいけれど大きな変化が生まれていた。
私はハミンの部屋で過ごす時間が増え、毎晩眠る前には私の部屋まで見送ってくれた。それから私を見下ろし、額に短く口づけを落としてから自分の部屋へ戻っていった。
初日は、突然のことにぽかんと立ち尽くしていた。
二日目には、今日もしてくれるかな、なんて期待で少し浮き立っていて、
三日目からは私の日常の一つになった。
絶対に待っているなんて素振りは見せなかった。ハミニは私がどうであろうと気にせず、いつも軽く額にキスをしてくれた。
「おやすみ、ヌナ。」
大きな手が私の両頬を包み、厚みのある唇が額に触れてはゆっくり離れる。ほんの短く触れただけなのに、唇が留まっていた場所はいつも熱かった。ハミニが部屋へ戻ったあとも、その熱はなかなか冷めなかった。
私はベッドに横になるたび、手で額を撫でた。
やわらかくて、ふっくらしていて。
触れるたび熱かった唇。
その感触を何度も思い返しているうちに、自然と別の考えもついてきた。
あの唇が額じゃない場所に触れたら、どんな感じなんだろう。
「……。」
やばい、ほんと。
布団を頭の先までかぶった。高鳴る心臓の音が布団の外へ、部屋の向こうへ聞こえてしまわないかと心配になるほど大きかった。
*
いつものように、学生らしく真面目に過ごしていなかった日。やっと担任の先生の終礼まで終わった。
先生が教室を出るやいなや、みんな待っていましたとばかりに席を立った。私も机の上に広げていた本を閉じてバッグをまとめていると、隣の席の友達が腕を小突いた。
「おい、お前のワンちゃん来たぞ」
友達が顎で教室の後ろのドアを指す。振り向くと、ハミニが後ろのドアの外側に立っていた。
今日も私を迎えに来たらしい。いや、あいつら終礼早すぎない? サボってるのかな、もしかして?
ハミニは壁にもたれて、スマホを見ていた。片足を少し曲げて立つ姿がずいぶん自然だった。
「お前ら、ほんとに付き合ってんじゃないの?」
「おい、何言ってんの」
ドキッとして、胸の片隅がちくちく刺された。これが良心のある場所か。友達はバッグを肩にかけながら、もう一度ハミニを見た。
「犬でもないのに、ちゃんと主人を待ってるじゃん」
「誰が主人よ」
「毎日、お前を迎えに来るし」
「家に帰る方向が同じだからそうしてるだけだってば」
間違いではない。同じ家に帰る仲だから。
友達は信じていない顔で笑うと、先に教室を出ていった。
男子たちは後ろのドアを通りながら、ハミニと自然に挨拶を交わしていった。何度か顔を合わせただけなのに、ずいぶん慣れたものらしかった。
「今日も来たのか?」
「はい」
「先行くわ」
「お疲れさまです」
それなりに先輩たちとうまくやっているらしかった。その中にはイェジュンもいた。イェジュンはハミニの頭を一度撫でて通り過ぎた。ハミニの横を通る子たちは、みんな一言ずつ声をかけていく。ひとり、またひとりと、生徒たちが教室を出ていった。
私はわざとゆっくりバッグのファスナーを閉めた。最後に残っていた子が正面のドアから出ていってから、やっとハミニが教室に入ってきた。
「来た?」
「うん」
ハミニは開いた後ろのドアの内側で立ち止まった。引き戸に隠れた場所は、廊下から教室をのぞいてもよく見えない死角だった。やっぱり目立つから、隠れたほうがいいよね。
バッグを持って席を立った。「行こ。」そう言って、ハミニのほうへ少しずつ歩いていく。なんだかこんなふうに言うと、本当にワンちゃんみたいじゃん。
まあ、かわいい気もするけど。
「ん?」
近づくと、ネクタイが片方に曲がっているのが目に入った。結び目もゆるく下がっている。
「ネクタイ、なんでこんなに曲がってるの」
ハミニは顔を下げ、自分のネクタイを見た。
「あ、今日は体育…」
「もうぐちゃぐちゃじゃん。じっとしてて」
私はバッグを隣の机に少し置いて、ハミニのネクタイをつかんだ。顔は見えなかったけれど、ハミニの目が一瞬大きくなった。
片方にずれた結び目を真ん中へ戻し、ゆるんだネクタイを上へ引き上げる。指先に力を入れるたび、ハミニの首が少しずつ動いた。ごくりと、つばを飲み込む喉仏が見えた。
「おい、緊張してんの? 変なの」
ネクタイからはまだ手を離さないまま、ハミニを見た。かなり戸惑った顔をしているのがかわいかった。どう? 私だってこう見えてお姉さんっぽい彼女なんだから。えへん!
整えられたネクタイの上に、すっかり緊張してこわばった首と鋭いあごのラインが見えた。そして視線をさらに上げたとき、目に入ったのは、毎晩私の額に触れては離れていった、赤くてふっくらした唇だった。
私はネクタイを握ったまま、その唇から目を離せなかった。あの唇が別の場所に触れたら……なんて想像したことがあった。ちょっと待って。そういえば今のこの状況、雰囲気。少し変じゃない? まるで誘惑してるみたいじゃん。ハミニも何も言わなかった。
どういうわけか、熱い視線が降り注いでいる気がした。なんだか気まずくなって、私は唇をぱくりと開いた。
私の視線が釘付けになっていた唇もほんの少し開き、やがて私を呼んだ。
「ヌナ」
顔を上げると、私を見下ろしているハミニと目が合った。戸惑っていた顔はどこへ行ったのか、熱のこもった目をしていた。
私がどこを見ていたのか気づかれたみたいだった。あわてて手を離そうとすると、ハミニが低い声で尋ねた。
「してもいい?」
何を言っているのか、聞かなくてもわかった。どきん、どきんと心臓が速く打ち始めた。
ネクタイを握る手に力が入った。私の肩にハミニの大きな手が下りる。どうしよう、やる気だ!
……でも、今回もリードされるのは嫌……! 私がお姉さんなんだから!
そう思うと、私は少し迷ってからネクタイを強くこちらへ引いた。それからぎゅっと目を閉じ、つま先立ちになって唇をぶつけた。
「キスは私が先にリードした……!」
「……。」
「どう? 大したことないでしょ?」
こういうときじゃないと大人っぽさを見せられない。私はなかなか堂々とした顔でハミニを見た。ハミニは目を大きく開き、手の甲で唇を隠しながら私を見下ろしていた。
私もあんなに赤い顔してるのかな? なんて思っていると、私の言葉を聞いたハミニは目尻を少し寄せ、手を下ろして口を開いた。
「大したことないって?」
「うん」
「……。」
「まあ、ただのキスだし」
ハッタリたっぷりの私の言葉を聞いたハミニは、かなり頭に来たのか、もう一度顔を近づけてきた。
「じゃあ、もう一回やってみるか」
「……いや、」
「今度は俺が」
いつの間にか近づいてきた両手が、私の頬を包んでいた。逃げることも、視線をそらすこともできないまま、唇が触れ合った。目を閉じる暇さえなかった。
ちゅ。
やわらかい唇が私の唇に触れては、少し離れた。
ちゅ。
それからまた近づいてきた。短い口づけが何度も繰り返される。回数が増えるほど、唇はだんだん湿っていった。さっきとは違う、未知の感触と音に、私はぎゅっと目を閉じた。
何度も唇を重ねて、ちゅ、という音がだんだん濃くなっていったころ、ハミニは私の下唇を少し噛んでから離した。
「……!」
驚いて目を開けると、ハミニが私をじっと見ていた。それも、ものすごく集中した顔で。悪戯っぽさなんてひとかけらもない顔には、むしろ眉間にしわが寄っていた。
どきん。
どきん。
私は息もできずにハミニを見つめた。やがて震える息が歯の間をすり抜けて出たとき、つかんでいたハミニの袖に、さらに力を込めた。
そのときになって、ハミニがまた唇を重ねてきた。少し離れていたせいで冷めていた口元は、すぐに熱を取り戻した。熱い唇は離れる気配もなく、そのまま私の下唇を飲み込んだ。一度唇を奪われると、思わず口元が開く。その隙間に、熱いハミニの舌が入り込んできた。
「んっ…!」
唇と、舌と舌が、唾液が混じり合ってねっとりする音が耳元で鳴った。あ、誰も通らないよね。見つかったらだめなのに。そんな背徳感が、かえって心をふわりと浮かせた。
やわらかいのに強く押し込まれるキスに、どう息をすればいいのかもわからなかった。だから少しおかしな声が、重なった唇の間から漏れ出た。
「うぅっ…。」
私はさらにぎゅっと目を閉じ、もうぶら下がるようにハミニの腕をつかんだ。体が少しずつこちらへ傾き、息も上がっていく。大したことないなんて言ったのがばからしくなるほど心臓は激しく打ち、足に力が少しずつ抜けていった。そのたびにハミニは、容赦なく唇をこすり合わせながら私の腰を支えて抱き寄せてくれた。
頭の中がだんだん真っ白になっていく。
まるで互いを渇望するみたいな長いキスが過ぎ去り、腰が折れそうな痛みを感じ始めたころ、ハミニは私から離れた。
目尻に小さく涙がにじんだ。かすんだ視界の向こうに、ハミニの甘く腫れた唇が、赤い唇が見えた。唾液でつやのあるその唇を見つめた。
私の唇もハミニみたいに赤くなっているのかな。
思わず手を上げて口元を隠した。
「……。」
「は、チャン・ヨジュ…。」
私を見下ろす視線が感じられた。さっきよりさらに熱を帯びたような視線が。少し弾んだ声で私の名前を呼んだ。キスをしたのに、耳まで熱くなっていく気がした。ほんとに大したことないって言い返してくるかと思ったのに、顔を上げてみると予想に反してハミニのほうがむしろ私と目を合わせられずにいた。
ハミニは私の握力でくしゃくしゃになった自分のネクタイをきっちり整えて結び直し、私の乱れた髪と服装まで整えてくれた。それから机の上に置いていた私のバッグを持ち上げた。
「行こう」
「あ、う、うん…。」
「…これからは挑発するな」
ハミニはそう言うと、早足で歩き出して先に後ろのドアを出ていった。
どういう意味? 私は…よかったのに。
唇に残った感触の記憶と熱がよみがえって、指でそっと押してみた。なんだか熱い気がする。
大したことないどころか。
しばらくは、この感覚のことしか思い出せなさそうだった。
久しぶりですよね、はは... ちょっと忙しかったです(遊ぶのに)
