短編です。

ハンターランキング1位は死ぬことにした。 <イ・サンヒョク>

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ハンターランキング1位は

死ぬことにした。


<イ・サンヒョク>
短編ですが
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昔、世界に亀裂が生じ始めた。世界中で、亀裂によって生まれたホール。始まりは、空に穴が開いた時だった。人類はあちこちに現れたホールの中で何かと対峙した。それは、到底どんな形にも定義できない怪物だった。すなわち未確認生命体。人々はそれを総じて怪物と呼んだ。


そうして怪物の出現により、人類は滅亡の危機に瀕した。無差別に攻撃性を見せる怪物。怪物の凶暴さは、人間を狩って楽しむために生まれたかのようだった。ホールの出現と同時に、人間と怪物の戦争が始まった。戦争と言っても、実態は災害だった。怪物の力は、武力のない人間を壊滅へと追い込んだ。


そうして人類滅亡が目前に迫る中、人間たちの間からいくつかの覚醒者が現れ始めた。怪物に対抗できる力が生まれたのだ。映画や漫画で見るような超能力という、ありえないことが起きたのである。人類学の一部では、それを人間の第2の進化と見ているという。覚醒者、彼らは人類の希望だった。


世の中はその小さな希望を素早く機会に変えた。ホールが生じて以来、初めて体系が整い始めたのである。怪物と覚醒者ごとに能力値を分析した。怪物と覚醒者はA〜F等級に  レベル分けされた。怪物の等級ごとに付く覚醒者の等級は、確率を高めた。人類が生き残る確率を。1級災害級のS等級が出現しない限り、このような体系は国家の人員で賄えた。その日が来るまでは。


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「社長、ここにリモコンありませんか?」


ピッ. -


[ソウルS級ホールゲート惨事が10年を迎えました。死傷者1,028名と行方不明ハンターのうち、ランキング1位の生存確認不能は全国的な大混乱を...]


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この時期になると、ニュースを含めた報道が騒がしくなる。10年前のソウルS級惨事の話だ。どうやらこの惨事が国民の記憶に刻まれた理由は、当時支援に向かったランキング1位の[生存確認不能]という結果が、少なからず衝撃を与えたからだ。ホールゲートを最後まで守り抜いた英雄の称号を得て、水蒸気のように消えてしまったハンター。彼のフルネームはリウ。



「アサリ鍋2人前です」


「ありがとうございます、社長^^」



そんな彼がアサリ鍋屋の店主になっていた確率はどれほどだろう。これもかなり衝撃的な話だった。



「社長、恋人いる?」


「...え?」


困惑した顔のサンヒョクはヨジュをちらりと見て、間の抜けた目を瞬かせた。


「いないの?」


つまり、私がここに来た理由は、あのイ・サンヒョクという男のせいだ。私、キム・ヨジュが私設ハンター本部長を務めながらアサリ鍋屋に住み着いた理由。イ・サンヒョク、この男が、かつて世界から身を潜めていた10年前のハンターランキング1位のリウだと知ってから、ずっとここに根を下ろしていた。何のために?


まあ...


彼は国家が喉から手が出るほど欲しがった逸材ではないか?


欲しいものは手に入れないと気が済まない人だから...


私はこの男が必要だった。


ホールゲートの真実と、ハンター人材の採用で私に利益をもたらしてくれる男だと間違いなく思った。


...


でも、この男、簡単じゃないな。









-


「いない上に、そんな気もありません」


きっぱりした口調で無愛想に背を向けるサンヒョクの後頭部を、呆然と見つめた。『そっけないったら...』


まあ、期待もしていなかった。


どうせ締切まで粘るつもりだったし。


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「締め切りました」


サンヒョクは私のテーブルの前に雑巾を突き出した。面倒そうな顔で、もう帰れと顎をしゃくった。


「私とちょっと話してください」


無茶苦茶押し切るのは私の得意分野だと笑いながら、テーブルの前に顎を乗せて座った。


「...いったい何なんですか」


サンヒョクは大きくため息をつき、少し悟り切った顔をした。そりゃあ何ヶ月も執拗に彼の店の前に居座っていれば、うんざりもするだろう。


「あなた、うちの本部に来てほしいの。スカウト? まあ、そんな感じㅎㅎ」


「俺が?」


「私、全部分かって来たの」


気だるげなサンヒョクの神経を逆なでするように挑発的な姿勢をとった。その言葉に首をかしげていたサンヒョクの前で、私は真実を吐いた。


「あなたがリウでしょ、10年前のランキング1位ハンター」


「...」


しかし彼は簡単には動揺しなかった。むしろ落ち着いて手に持っていた雑巾を壁に立てかけると、私に近づいてきた。


「それで?」


問い返す彼の顔は冷たかった。まだ何を知っているのかという顔で淡々と押しつけてくる圧が重い。元ランキング1位だけあるというか...ものすごいオーラだ。


「私はあなたが必要なの」


「引退してもう長い。大した収穫もないだろうから帰れ」


「引退じゃなくて、逃げただけでしょう」


「...は?」


サンヒョクは眉間を寄せた。不快でも仕方ない。あなたに何の言い訳ができるというのか。[生存確認不能] ではなく、行方不明を装った潜伏だったのだから。私は、なぜ彼がそんな選択をしたのか分からない。ずっと聞きたかった。どうして世の中から姿を消すことを選んだのかを。


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『何の関係があるんだ...』


私が消えた理由について尋ねるやつが現れた。  しつこくまとわりついて離れなかったその質問は、私を貫いた。


そう、私がソウルS級ホール惨事の後、姿を隠したのは私の臆病さのせいだった。10年前のあの日は、悲惨という言葉では足りない惨事だった。ソウルS級ホールゲートは、対処が全くできない状態だった。これまでの長年の体系が揺らいだのは、確認できない未確認怪物と、正体の知れない突然変異体の出現だった。怪物と突然変異体は区別がつかないほど深刻だった。数でも等級でも、到底人手が足りなかった。


そしてそれ以上に私を絶望させたのは、突然変異体が人間だったという事実だった。私はそれに耐えられなかった。戦場の前で共に戦っていた仲間が私に刃を向けるというのは、大きな変数だった。目の前で突然変異体として発現する仲間と、私を攻撃する彼らを見た。そうして互いが互いを殺し合う結果を招いた。


私の目の前で首を飛ばされた者は、昨夜まで二日酔いでぐったりしながら冗談を交わしていた仲間だった。多くの犠牲者。その中には、妻の出産を目前にした未来の子の父親もいれば、もうすぐ結婚を控えた先輩、ひとり親の母親を支えていた真面目な後輩もいた。


彼らを私の手で殺すしかなかったと言ったら、信じられるだろうか。


地獄以外の何物でもなかった。到底耐えられない罪悪感と絶望感が私を飲み込んだ。やがてS級ホールゲートは閉じたが、そこで多くのものを失った。私はその記憶であの日の惨事に呑み込まれた。得たものより失ったものの方が多いという結果は、私を世間の前で恥ずべき存在にした。そうして私はゲートが閉じると同時に世の中から逃げた。生死も確認できないまま、蒸発するように姿を消した。


笑えるだろう、こんな私が平凡を夢見ていたなんて..




私はずっと、平凡な人生を送りたかった。


しかし、

16歳でS級覚醒者として発現して以来、私の人生は一変した。国は16歳の幼い私を戦場に駆り出し、人手不足のため私を含むハンターたちを亀裂の中へと押し込め始めた。そのせいで、私は1年のうちにランキング1位ハンターの座につき、いつも怪物を討伐することに人生を費やした。


忙しく生きていたから鈍くなったのだと思っていた。時折、仲間の訃報が届くのも受け止めなければならなかった。いつかこの重みが私を締めつけてくるのだろうかと、聞きたかったのに...


結局、すべてを失ってみると、耐えるべき重みだけがさらに増えた。


ああ...そうだ、無駄な考えだった。私は死ぬまでこの災厄から逃れられなかった。だから逃げることを決めたのだ。


臆病さに怯えて。


。

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ハンターとして稼いだ金で路地の小さなアサリ鍋屋を開き、商売をしながら暮らした。そうして10年間静かに生きてきたと思っていたのに


ある日、私の穏やかな日常にこいつが突然現れてしまった。


「ハンターを探してるなら他を当たって」


「私はあなたが必要なの」


「...だから私は..!」


もうハンターなんてやりたくない、という言葉を飲み込んだ。どうしてよりによって自分なのか。自分以外にも有能なハンターはたくさんいる。1級災害級のホールゲートも10年前のあの日以来、現れていない。まさに安定期を迎えた世界で、私にこれ以上何をしろというのか。私が何をもっと...



「不規則な亀裂が生じている」


ヨジュはひどく真剣な顔で言った。彼女の言葉にサンヒョクははっとし、10年前のあの日の前兆が思い浮かんだ。


ソウルS級ホールゲートが生じる前、規則的だった亀裂が不規則になり始めて数週間後、惨事が起きた。ある種の号砲のようなものだった。災厄を告げるように。



「そんなはずは...」


サンヒョクの顔色が徐々に暗くなった。ヨジュはそんなサンヒョクの様子をうかがいながら、落ち着いて言葉を続けた。


「信じられないなら、あなたが直接確認して」


ヨジュはサンヒョクに、住所が書かれたメモを一枚テーブルの上に置いた。そして選択はあなた次第だと言わんばかりに消えた。


「...」


サンヒョクはメモをじっと見つめた。あの日の記憶が頭をよぎった。


本当に...またあの日のように...


。

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-


彼女の言う亀裂は嘘ではなかった。ソウル近郊の小さな亀裂を、この目で直接見てようやく悟った。


「見たでしょ? 出てきてから数日だよ」


ヨジュは肩をすくめながら、あの亀裂について説明した。すべてがあの日以前の前兆と重なっていた。


「...」


これは私が予想していなかった、もうひとつの変数だ。再びS級ホールゲート惨事が起きれば、本当に耐えられないほど崩れ落ちるだろう。


「深刻さが分かったでしょ?」


「...でも、俺は今、国法上は行方不明死亡扱いなんだ。どうやって...」


「それは問題ない、私が何とかする」


ヨジュは任せてと言わんばかりに鼻をちょこんと鳴らした。サンヒョクはそんな彼女をじっと見た。本当にこの女は何者なんだ、という目だった。怪しい点がひとつやふたつじゃないのに、いきなり現れて自分の本部に入れという提案を、何を信じて受け入れるというのか。


その時だった。グギッ. -


破裂音と同時に、小さな亀裂の外から怪物が出現した。8本の脚に毒針を持つ巨大な蜘蛛型の怪物だった。


「..やばい」


サンヒョクは久しぶりに見る巨大な生命体の出現に、鋭い緊張が走った。周囲に砂埃が舞い、怪物の咆哮が響いた。サンヒョクとヨジュに毒針が飛んできた。


「...危ない!」


サンヒョクはヨジュを自分の後ろへ押し込んだ。その時


[防御壁が形成されます。]


という文句とともに、サンヒョクとヨジュの周囲に防壁が張られた。


「...?」


サンヒョクは防壁に戸惑った顔だった。防御壁スキルを使った張本人のヨジュは、何事もないように微笑んでいた。サンヒョクはそんな彼女を見て、またしても呆然とした。いったい何なんだ...覚醒者なのか?


「武器はこれでいいかな」


ヨジュはポケットから剣を一つ取り出し、サンヒョクに渡した。サンヒョクは戸惑いながら剣を受け取り、怪物に向かって飛び込んだ。よく討伐していた怪物の一種だった。目玉が急所なので、そこを一突きした。プシュッという音とともに、怪物は溶けるように崩れ落ちた。鼻をつく悪臭を放ちながら死にゆく怪物を見て、サンヒョクは顔をしかめた。


『慣れないのは相変わらずだな』


「この程度の等級、もう何匹目だ?」


サンヒョクは平然と、目玉に刺さった剣を引き抜きながら尋ねた。


「今のところ5匹」


「...進行が早いね」


その時だった。ピシュン- まだ溶けきる直前の蜘蛛型怪物の体から毒針がサンヒョクに飛んできた。


「あ、痛っ..」


「...!? 大丈夫?」


「...毒の解毒バフがあるから、死にはしないよ」


サンヒョクは淡々と答えた。ヨジュはそんなサンヒョクをひょいと持ち上げた。


「ちょ、ちょっと」


「正気なの? 治療しなきゃ」


ひょいと持ち上げられたサンヒョクは、ヨジュの腕の中でもがいた。なんでそこまでするんだ、という顔で彼女を見た。いや、それよりどんな力だ...


...




ヨジュが言っていた本部の治療室に着いた時、サンヒョクはすっかり力尽きていた。ベッドにぐったりと伸び、力を失った。怪物との戦いは10年ぶりで、体力がすっかり落ちていた。しかも毒針を受けた後だから、ぼんやりするような気もして、バフ能力が久しぶりにちゃんと効いているのか...その時、気力なく横たわるサンヒョクのもとへ白衣の男とヨジュが近づいてきた。


「本当だったんだ、生きてたんですねランキング1位ハンター..」


白衣の男はサンヒョクを診察しながら、珍しそうに目を輝かせた。白衣の横の名札に見えるキム・ドンヒョンという三文字が見えた。


「異常はない?」


「まあ、丈夫ですね」


「...」


動物園の檻の中の猿になった気分だ。サンヒョクは面倒くさそうに彼らの話を聞き流し、横に置いてあったお菓子をつまんで食べた。ああ...糖分が足りない...


「本部長は大丈夫ですか? 現場にいらしたと..」


「私もまあ、丈夫だよㅎㅎ」


朗らかに笑う彼女の微笑みに疑問が湧いた。つまり...そっちも...


「覚醒者なの?」


サンヒョクはヨジュに尋ねた。ヨジュはサンヒョクの質問に、またもよく分からない微笑を浮かべて笑った。そして、予想外の答えだった。


「いいえ? 普通の人だけど?」


「...は?」


じゃあ、どうやって自在に覚醒者のスキルを使えたんだ? 明らかに防御壁だのステータスウィンドウだのを取り出す行為は、一般人にはできないことだった。覚醒者でないなら...不可能なはずなのに。


「うーん、ちゃんと自己紹介できてなかったみたいね」


ヨジュはポケットの中をごそごそ探ると、サンヒョクに名刺を一枚差し出した。名刺を受け取ったサンヒョクは、名刺に書かれたキム・ヨジュの名前と[ハンター私設本部R]という文字を確認した。


「Rはハンターを育成する場所でもあるけど、私みたいな普通の人間に覚醒者の力の代わりになる道具も作ってくれるところなの。国の外にある私設企業って感じ?」


「ハンター事業はダメだと聞いてたけど」


「私設で運営できるよう、国から最初に認可を受けた場所でもあるの。そもそも覚醒者不足だから、私は物資を作ってるの。普通の人間でも覚醒者の力を使える道具とか」


「...じゃあさっきの、」


「そう、私が作った道具だよ。使い方さえ覚えれば簡単に使える。もちろん本物の覚醒者よりは能力値が落ちるけど、それも研究中だし^^」


「...そうだったんだ」


世の中は大きく変わった。少数の覚醒者に頼る戦略ではなく、皆が自分を守れる方向へと流れていた。


「...じゃあ、俺はなぜ」


「必要なのかって聞きたいの?」


サンヒョクはうなずいた。


「さっき言った通り、私の道具は覚醒者を模倣した力を道具の中に入れたものなの。だから覚醒者の元々の能力値よりずっと落ちる」


「ちゃんと活用できる人間も少ないですし」


ヨジュの言葉にドンヒョンが付け加えた。


「だから、あなたの力が必要なの。あなたみたいに等級の高いハンターの能力をコピーする標本が必要。ちょうど初代S級ハンターのリウ。あなたがうってつけなの」


「俺が生きてるって、どうして分かった?」


「最初は分からなかった、本当に死んだと思ってた」


「...?」


「偶然、アサリ鍋屋でハンターらしき怪しい人物の報告が入ってきて、そこでようやく見に行ったの。そしたら一目であなただと分かった。イ・サンヒョク」


ヨジュは確信に満ちた表情でサンヒョクを見下ろした。サンヒョクにはどうしても理解できない確信だった。ハンター活動中はスキルの一つである[隠された顔]で、自分の顔は人々に見えなかった。その状態で活動していたため、自分の顔を知るハンターは少ないうえ、知っていた者たちの大半は10年前の惨事で亡くなっていた。しかも国もイ・サンヒョクの身元を把握できず、行方不明死亡扱いと決定していたのに...どうしてあの女は、私がリウだと一目で見抜いたのか。


...



「だから、私と協力して」


ヨジュはサンヒョクに手を差し出した。彼女の顔は決意に満ちていた。サンヒョクはしばらく考え込んでから口を開いた。


「報酬は」


「言って、何でも聞いてあげる。お金なら腐るほどあるんだから」


そう自信満々に言ったのに...


。

。

。










...


「たかがクイーンサイズのベッド1つだけ?」


「こちらへどうぞ」


サンヒョクは寝具サービスセンターから来た配達員に、食堂の中の小さな部屋を指さした。


どうしてこんな所で暮らしているんだ、食堂の中にある一部屋で10年も住んでいたのか? ヨジュは驚きを隠せなかった。10年前のソウルS級ホールゲートを閉じた国民的英雄が、こんな一部屋で暮らしていると知れたら、全国がひっくり返るだろう。



「今まで稼いだお金はどうしたの」


「この建物を買って、残りは老後資金に入れておいた。年を取ったら働き続けるわけにはいかないから」


「...いや、それでも食べて余るくらいはありそうだけど」


サンヒョクはふっと笑った。たしかにその通りだが、自分も特にお金の使い方を知らないのだと分かっている。生涯ずっと怪物を殺しに行っていただけで、お金は普通じゃない額を超えてからは余分に考えていた。特に物質的な欲もないし...別に構わなかった。まあ、あえて言うならベッドが一つあればいいとは思っていた。もう少しふかふかなベッドで眠れたらいいなと...


「...理解できないな」


ヨジュはちぇっと舌打ちした。あんな質素な人間がランキング1位ハンターだなんて。まるで噛み合わない。


「でも、なんでアサリ屋なの?」


「...え?」


「ハンターを引退して、好き放題使って暮らせるはずなのに、わざわざ商売をする必要があるのかってこと」


「うちの看板、見てないの?」


「...何が?」


[ダーリングの貝焼き] がどうして...


「ラッコって貝を食べるんじゃないか..?」


サンヒョクは、違うのかと問う顔で何か思い出したようだった。ダーリングは10年前に流行していた子ども向けアニメに出てくるラッコのキャラクターだ。かつてヨジュ自身も子どもの頃によく見ていたアニメだった。なのに、どうして?


「ダーリングが好きだから」


と答えるサンヒョクの顔に、懐かしさが差した。低く笑う顔の奥に、苦い表情が見えた。その表情に、ヨジュは何かを思い出した。その時、あの日を。


...しばらく忘れていたのに、思い出させるね。


...


「ついてきて。金の使い方、教えてあげるから」


「..?」


。

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。









ヨジュはサンヒョクを連れてショッピングをした。両手いっぱいにショッピングバッグをぶら下げ、デパートを出た。


「そこまで必要ないんだけど」


「服くらいはサービスだと思って」


「...;」


サンヒョクは照れくさそうにショッピングバッグを持った。金の使い方を教えてやると言いながら買い込んだ服や雑貨を持って家へ向かった。金が余るほどあるという言葉は嘘じゃなかったんだな... まあ、あの若さで本部長を務めているのを見ると、家柄そのものが...


「でも、何歳だったっけ」


「私? えっと、今年で20歳になるはず?」


「...は?」


若いとは思ったが、思った以上に青臭く若いやつだった。なんと7歳差だ。7歳って;; 今までずっとタメ口を吐いていたヨジュに呆れた。サンヒョクは呟いた。


「最近の子は礼儀がないな」


「へえ? なにそれ、イ・サンヒョクって老害?」


ヨジュはぎょっとして、今さらそれを言うのかとでも言うように難癖をつけた。サンヒョクは言葉も出ず、口だけもぐもぐさせた。相手にするにも幼すぎる子に何をしろというのか、という気持ちだった。


...


思えば、そんな幼い子に金額も分からない服や物を、やたらと受け取っていた自分を思い出した。少し自己嫌悪が湧いた。はあ...なんという...




「イ・サンヒョク! ワッフル食べる?」


ヨジュはいつの間にかワッフル店の前でイ・サンヒョクに向かって手を上げていた。


「...俺がおごる」


いや、俺に奢らせてくれ... あんな幼い子に奢ってもらうのも妙な格好だ。俺だって金がないわけじゃないし;;


結局、イ・サンヒョクが買ったワッフルを手に、二人はベンチに座った。久しぶりに甘いものを食べて、気分が変だった。ハンター生活の中では時々お菓子を食べていたが、この10年間は甘い味を忘れて生きてきた。普通に働きながら、ハンターだった頃の自分を思い出すのをすべて避けていたからだ。食べ物であれ何であれ、ハンター・リウに関するすべてを消していた。そのほうが心が楽だった。そうして私は生きられた。


「うーん、おいしい〜」


ヨジュはこの世の幸せを全部抱えたような顔で、ワッフルクリームを顔につけているのも気づかずに食べた。こういう時を見ると、やっぱり年相応の子どもっぽさがあって笑いがこみ上げた。


スッ-


サンヒョクは手でヨジュの頬についた生クリームを拭った。ヨジュはそんなサンヒョクの仕草にびくっと驚いたようだ。予想外に差し出された手が、繊細に生クリームをぬぐっていく。やわらかくて繊細で、ヨジュはつい顔を赤くした。


「...何、ついてた..?」


平気なふりをしていたが、顔はもう熟れたトマトだ。『急にこんなの、あり?..』 震えながら、その震えがまるでイ・サンヒョクに向いているみたいで、言葉を失った。


「子どもは子どもだな、つけて食べるのを見ると」


「あ、ち、違うし!!」


ヨジュはサンヒョクの言葉にむきになった。子ども扱いに腹を立てたのだ。自分のどこが子どもなのかと、わあわあと怒った。その様子が面白くて、もっとからかいたくなった。


...



「私は普通の覚醒者より強いって..-」


ヨジュは自分の作った武器について延々と語った。自慢するように得意げだった。あの歳でその成果は、立派だと言っていい。現実はもっと過酷だろうが…


覚醒者たちの現実を知れば、少なからず衝撃を受けるだろう。戦場は命がけのデスゲームだったのだから。


...




「俺が逃げた理由、知りたい?」


「...え?」


サンヒョクは初めて、自分の口であの日のことを語り始めた。初めてで最後になるだろう。もう思い出したくなかったから。


「10年前のあの日、ホールゲートの前で多くの仲間を失った。」


「...うん、知ってる」


「その仲間を、誰が殺したか知ってるか?」


「...え?」


「俺だ。...ほとんど虐殺だった。突然変異体の出現は予想していなかったんだ」


サンヒョクの表情が暗くなった。まるであの日を思い出すようだった。『突然変異体』...そう、そうだった。世界中に混乱をもたらしたのは突然変異体だった。人間が怪物化するような、そんなおぞましいことが10年前の惨事で起きていた。


「夢に、今でもあの時死んだ仲間たちが出てくる。無残に首を斬られた姿で」


「あなたのせいじゃない..」


「ああ..分かってる..」


それでも、耐えるのはつらかっただろう。ひとりで生き残った重みは、計り知れない罪悪感だったはずだ。彼は10年間、その罪悪感を抱えて生きてきた。死んだ仲間を思いながら。


「あの時ゲートが閉じて、最後に見た子どもがいたんだけど、コンクリートの下敷きになって、ほとんど息絶える寸前だった」


「...助けたの?」


「ああ、それが俺が救えた最後の命だった」


「...そうなんだ」


「すごく幼い子だったのに、俺の顔が怖かったのか...俺を見て泣いてたんだ..あの時、周りにあった仮面で顔を隠した。あの時は[隠された顔]スキルが削られた状態だったから、かなり醜く見えたはずだ」


「...」


醜いなんて、絶対にそんなことはなかった、あなたは。


。

。

。








[10年前、あの日]



私は大亀裂に巻き込まれた。10歳だった当時、大亀裂で都市が崩壊した時、崩れた建物が私を押しつぶした。かろうじて意識だけが覚めたまま、コンクリートの壁の下敷きになっていた。周囲には怪物の咆哮と人間の悲鳴が飛び交っていた。都市の地面が揺れ、コンクリートが私を押し潰していく中、私は大亀裂の被害をこの両目でまざまざと見つめた。惨たらしく、無力な災害を。まるで人間に下された罪と罰のように、神は人間にあまりにも冷酷だった。何日が過ぎただろうか...


大亀裂のホールゲートが閉じた。何日も食べも飲みもしないまま生き延びたという自覚だけがあった。その時、誰かが私に近づいた。コンクリートに埋もれた私を地上へ引き上げたのだ。彼こそがランキング1位ハンター、イ・サンヒョクだった。大亀裂の被害がどれほど悲惨だったか、彼のあちこちに傷のない場所はなかった。裂けた服の隙間から黒ずんだ血がぽたぽたと流れ落ち、立っているだけでも奇跡のようにやつれていた。いちばんひどかったのは、隠された顔の隙間から見える若い顔だった。額に血が流れて固まったのか、血のかさぶたと充血した片目が見えた。片方は見えない黒い下地なのに、顔と推測されるもう片方に、割れた仮面の中の本当の顔があった。せいぜい10代後半ほどに見える、あまりにも幼い少年の顔だった。


その瞬間、私は思わず涙が出た。生きていた安堵だったのか、初めて見るその少年への哀れみだったのか分からない涙だった。私があまりにも泣くものだから、彼は戸惑ったように見えた。しばらく周囲を探ると、どこからか仮面を一つ持ってきて自分の顔につけて現れた。その時流行っていた『ダーリング』というラッコのキャラクターの仮面だった。優しい彼は、幼い私を落ち着かせようと仮面で自分の顔を隠した。そして私が救出される安全な場所まで連れていってくれた。私がお礼を言おうと振り返った時には、彼はもういなかった。



それが彼との最初で最後だった。その後ニュースでは、彼の行方不明、死亡の報せに報道が沸いた。私も彼は死んだものだと思っていた。あの時の彼の様子は、息があるのが不思議なほどだったのだから、無理もない。


10年後、あなたに会うまでは。


。

。

。










-


チーィン..-


「はい、スキャン完了しました」


ドンヒョンは、スキャン台の前のサンヒョクにもう降りていいと手招きした。サンヒョクはぎこちなく機械の前から降りた。世の中の変化に10年も遅れていたせいで、いろんな面白いものが増えたんだなと、あらためて感じた。


「気分はどうですか」


ヨジュはサンヒョクに尋ねた。


「別に...、音がちょっと派手なだけ」


「ㅋㅋㅋㅋ」


「でも、なんで敬語なの?」


「礼儀がないって言うから、嫌..ですか?」


ヨジュはちらりとサンヒョクの顔色をうかがった。


「別に...」


「じゃあタメ口にする。イ・サンヒョクって名前、すごく口に馴染むんだもん」


「...はあ、」


あきれて言葉が出ない。子犬が虎を怖がらないというが... イ・サンヒョクは口にしやすいらしい。サンヒョクはどれぶりのイ・サンヒョクだろうか、自分の名前が妙に他人のようだった。


覚醒してからハンター生活の間ずっとハンターネーム『リウ』で呼ばれてきたのに、10年経ってようやく本当の名前であるイ・サンヒョクと呼ばれ始めた。あなたの前の私は、ハンター・リウではなく人間イ・サンヒョクだった。


慣れないものは、ひどく違和感があって...




「イ・サンヒョク!!」


考え込んでいたサンヒョクを呼ぶヨジュの声に、はっとした。屈託のない笑顔で呼ばれる自分の名前は、なんだか気恥ずかしかった。


「大亀裂について知ってること、全部話して」


ヨジュはチャートを整理しながら尋ねた。あの日の話で暗くなるサンヒョクの表情を察しながらも、彼に聞くしかなかった。


「思い出すのは簡単じゃないだろうけど、あなたしかいないの..」


「...」


サンヒョクはあの日の出来事を細かく語り出した。悲惨で絶望的だったあの日の記憶を。


突然変異体の出現。大亀裂区域で起こる人間の突然変異発現を止めなければならない。怪物を滅する前に、人間の突然変異を止めることが先だろう。当時、大亀裂区域でひとり突然変異を起こさなかった人間はイ・サンヒョクだけだった。彼のDNAを分析して原因を探ったが、特別な異常は見つからなかった。だが、彼のスキルの一つが、突然変異発現から彼を守っていることを発見した。[隠された顔]


イ・サンヒョクの能力をスキャンしながら、[隠された顔]の能力値をコピーすることにした。この能力値を抽出した道具は、ハンターたちにスキルとして防壁を与えることになる。突然変異を防げる方法だ。まずは覚醒者たちを守ること。それが私の戦略だ。私のコピー技術とS級覚醒者イ・サンヒョクの能力が合わされば、再び訪れる大亀裂を防げるかもしれない。


。

。

。

















そうして、


望まなかった大亀裂が始まった。10年前のソウルS級ホールゲートと似たと推定される亀裂が生じた。全国にS級ホールゲート発令が下され、周辺の市民たちは避難所へ向かった。10年前とは違い、対応は迅速にできた。今の私たちはあの日の結果を知っていたからだ。対処は順調に進んでいた。そうして、始まりの幕を告げるように  亀裂の外から怪物たちが這い出し始めた。


バリケードを張り、制御可能な範囲内に防壁を形成した。二次被害を防ぐためだ。ヨジュの道具のおかげだ。すべて彼女の戦略の中で行われた。


「気をつけて」


ヨジュは大亀裂へ向かうサンヒョクに言った。ヨジュを振り返ったサンヒョクの顔には笑みが見えた。心配するなという挨拶のような、優しい笑みだった。




「...イ・サンヒョク!!」


サンヒョクを引き止めるヨジュの手に、何かが握られていた。それをサンヒョクに差し出すヨジュは、恥ずかしそうに彼を見つめた。それは『ダーリング』の仮面だった。彼のために特別に作った仮面だ。


...


『あなただったんだ、あの時の幼い子は。』 サンヒョクは10年前のヨジュの顔を思い出した。あの時助けた少女がヨジュだったと気づいた。こんなに近くにいたのか。遅れて、嬉しい気持ちが込み上げた。『生きていてよかった』 生涯で初めて抱いた考えだった。


「行ってくる」


サンヒョクはにっこり笑って振り返り、ヨジュに向かって手を振った。戻るという約束を残して。


「私も頑張る」


ヨジュは小さく呟いた。彼に向けた祈りだった。無事でいてほしいという願いと、もうひとりで戦わせないという約束だった。私はあなたと一緒に戦う。あなたのために。


あなたが10年前のあの日から世界を救ったように、イ・サンヒョク、あなたが最後に救った命が、また多くの人々を救うはず。ひとりで戦ってきたあなたの努力は無駄ではなかったと、証明してみせる。

。

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+) ハンターとしてのイ・サンヒョクは、ひとりで背負うには重すぎる人生だった。けれど 数多くの犠牲の中で挫折したあなたの努力は、否定されなかった。あなたが救った最後の命が、その証明だ。彼女があなたと世界を救うだろう。 이제彼女の前で、人間イ・サンヒョクとして生きてほしい。 どうか幸福を 迎える準備を。







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短編は久しぶりですね

長い文章を書かなくなって久しいので、慣れませんね


本当はもっと長く続けるつもりだったのですが、短編なので急いで締めた気もしますね,,ㅎㅎ


たまにネタが思いついたら、また書きに来ます😊


購読、コメント、応援が力になります..🫪ふふ🫪

ありがとうございましゅ🙇🏻‍♀️





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