1年間、私の妻になってください。

EP.12

イベント会場で事故が起きてから一週間。

ソンホの腕の傷は幸い深くなく、順調に回復していた。

でもユジュは、あの日以来ソンホの右腕を見るたび、なんだか気になってしまった。


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朝。

キッチン。

ソンホはいつものようにシャツの袖をまくり、コーヒーを淹れていた。

その姿を見たユジュが急いで近づいた。

ユジュ「……代表さん。」

ソンホが顔を向けた。

ソンホ「はい。」

ユジュ「傷、まだ完全には治ってないじゃないですか。」

ソンホ「……大丈夫です。」

ユジュ「また大丈夫って言った。」

ユジュは少し眉をひそめ、彼の腕をつかんだ。

包帯は外してあったが、まだ赤い傷が残っていた。

ユジュ「重い物は持たないでください。」

ソンホ「……」

ユジュ「今朝は私がやります。」

ソンホはしばらく彼女を見つめた。

ソンホ「……できますか?」

「……」

ユジュ「……その顔は何ですか?」

ソンホ「少し心配だったので。」

ユジュ「代表さん!」

ユジュが唇を尖らせると、ソンホの口元がほんの少しだけ上がった。

ソンホ「……お手伝いします。」

結局、二人は並んでキッチンに立った。


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ユジュ「わっ!」

フライパンを返していたユジュが慌てて声を上げた。

卵が半分折れかけたまま、ぐちゃぐちゃになってしまったのだ。

それを見たソンホは、黙って後ろからフライパンの取っ手をつかんだ。

ソンホ「……手首をもう少しこう。」

その瞬間。

ユジュは、彼の声があまりにも近くから聞こえてきて驚いた。

振り向くと、ソンホとの距離はわずか数センチ。

なんだか顔が熱くなった。

ユジュ「……あ、わかりました。」

ソンホも遅れて、距離が近すぎることに気づいた。

彼はすぐに一歩下がった。

ソンホ「……すみません。」

ユジュ「いえ。」

少しの沈黙。

二人とも、なんとなく別の方ばかり見ていた。


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昼ごろ。

二人はリビングで一緒に食事をした。

気まずい沈黙を破って、ユジュが先に口を開いた。

ユジュ「……代表さん。」

ソンホ「はい。」

ユジュ「ちょっと気になることがあるんですけど。」

ソンホ「……おっしゃってください。」

ユジュ「どうしてそんなに一人でいるのが好きなんですか?」

ソンホの箸が一瞬止まった。

彼はすぐには答えられなかった。

しばらくして。

静かに口を開いた。

ソンホ「……好きなわけではありません。」

「……」

「慣れていて、楽なんです。」

彼は水を一口飲んだ。

「幼い頃、両親が事故で亡くなりました。」

ユジュの表情が固まった。

初めて聞く話だった。

ソンホ「その後は祖父に育てられましたが。」

「……」

「いつも会社が最優先でした。」

「……」

「私もいつか会社を継がなければならなかったので、」

「……」

「だから仕事ばかりしていました。」

ソンホは淡々と話していたが、その淡々さがかえって物寂しく感じられた。

ユジュは黙って彼の話を聞いていた。

ソンホは続けた。

「友達も多くありませんでした。」

「……」

「誰かを信じる方法も、学べなかったんです。」

「……」

「そうしているうちに、一人が楽になりました。」

食卓の上に、静かな沈黙が降りた。


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今度はソンホが慎重に尋ねた。

ソンホ「……ユジュさんは?」

「どうしてそこまでお父さんを一人で支えようとしたんですか?」

ユジュは小さく笑った。

でもその笑みには苦さが混じっていた。

ユジュ「……うちは裕福じゃなかったんです。」

「……」

「母は私が小さい頃に亡くなって。」

「父が一人で私を育ててくれました。」

「……」

「明け方から夜まで働きながら。」

「……」

「だから今度は私が父を支えてあげたかったんです。」

彼女は笑って話したが、目元は少し赤くなっていた。

「……私にとって家族は、お父さん一人だけなんです。」

ソンホは何も言えなかった。

初めてだった。

ユジュがこんなふうに自分の話をしてくれたのは。


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夕方。

リビングの窓の外で、夕焼けが赤く染まっていた。

二人はソファに並んで座り、温かいお茶を飲んでいた。

わざわざ言葉を交わさなくても、気まずくはなかった。

しばらくして。

ソンホが静かに言った。

ソンホ「……ありがとうございます。」

ユジュが顔を向けた。

ユジュ「何がですか?」

ソンホ「……話してくださって。」

ユジュがにっこり笑った。

ユジュ「……代表さんも。」

ソンホ「それに……」

「家族は父親一人だけだ、っていうのは違う気がしますけど……」

ユジュ「え?」

ソンホ「契約上でも……今は私もユジュさんの家族です。」

「……」

しばらく視線が重なった。

初めて会った時は、ただ冷たいだけだった瞳。

でも今は少し違っていた。

そこには以前よりずっと柔らかな温もりが宿っていた。

ソンホはふと気づいた。

いつからだろう。

退勤すると、どこにも寄らずに早くこの家へ帰りたくなっていたことに。

この家に入ると、まず最初にユジュを探していることに。

そしてユジュもまた、気づいていた。

最初は契約相手だった男が。

いつの間にか、一番気楽に自分の話を打ち明けられる人になりつつあるということに。

二人の距離は。

とてもゆっくり。

でも確かに近づいていた。

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