1年間、私の妻になってください。
EP.16

쿠닉
2026.08.06閲覧数 70
新婚の家は、息遣いだけが聞こえるほど静かだった。
食卓には2人分として置かれていたカップが1つだけ使われ、リビングのソファにはヒロインがよくかけていた毛布がそのまま置かれていた。
ソンホは出勤の支度をしていて足を止めた。
食卓の上に、自分が何気なく卵を2個取り出して置いていたことに気づいたのだ。
ソンホ「...」
しばらく卵を見つめていた彼は、静かに1つを冷蔵庫に戻した。
ひとりで朝ごはんを食べるのが初めてだったわけではない。
それなのに、不思議と今日はやけに寂しかった。
---
会議室。
会議はちょうど進行中だったが、ソンホの集中力はいつもと違っていた。
人事部長「社長、この案件はどう...」
「...社長?」
ソンホは遅れて我に返った。
ソンホ「...申し訳ありません。」
会議室の中が静かになった。
会議で一度も集中を切らしたことのない彼だった。
会議が終わったあと、キム室長が慎重に近づいてきた。
キム室長「...ヒロインさんの消息は聞かれましたか?」
ソンホは首を振った。
キム室長「...ご友人の家にいらっしゃるそうです。」
その言葉を聞いたソンホは、椅子からゆっくり立ち上がった。
キム室長「...社長?」
ソンホ「今日の予定。」
「...」
「全部キャンセルしてください。」
「ヒロインさんに会わなければなりません。」
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午後。
ソウルのある小さなカフェ。
窓際に座っていたヒロインは、温かいお茶を見つめていた。
友人の家で過ごして2日目。
友人は出勤していて、カフェにひとりで出てきたところだった。
『こうして出てきてよかったのかな...』
そんなふうに考えがぐるぐる回っていた、その時。
チリン。
カフェのドアが開いた。
聞き慣れた足音が近づいてきた。
ヒロインは顔を上げた。
ヒロイン「...社長?」
黒いシャツ姿のソンホが彼女の前に立っていた。
彼は黙ったまま向かいの椅子に座った。
しばらく気まずい沈黙。
先に口を開いたのはソンホだった。
ソンホ「...お元気でしたか?」
ヒロインは苦く笑った。
ヒロイン「そんなことを言いに来たわけじゃないでしょう。」
「...」
「どうしたんですか?」
ソンホは彼女を見つめた。
目の下には濃いクマがあった。
ヒロインが家を出て、ろくに眠れていなかったせいだった。
いつも通り無表情だったが、目つきはまるで違っていた。
彼はゆっくり口を開いた。
ソンホ「...家に戻ってください。」
ヒロインは首を振った。
ヒロイン「...契約を終わらせたいって言ってたじゃないですか。」
その言葉に、ソンホは長く息を吐いた。
そして初めて。
自分の気持ちをありのまま口にした。
ソンホ「...あの日。」
「...」
「私の話を最後まで聞くべきでした。」
ヒロインの瞳が揺れた。
ソンホ「私が終わらせたかったのは。」
「...」
「結婚ではありません。」
「...」
「契約です。」
しばらくカフェの中が静かになった。
ソンホは手を強く握ったまま言葉を続けた。
ソンホ「...もう契約夫婦のままでいたくありませんでした。」
「...」
「本当の。」
「...」
「夫になりたかったんです。」
ヒロインは息を止めた。
信じられなかった。
今、彼の口から本当の夫婦になりたいという言葉が出ていた。
けれど心の中に残っていた不安は、簡単には消えなかった。
ヒロイン「...それって。」
「...」
「同情じゃないんですか?」
ソンホはすぐに首を振った。
ソンホ「違います。」
「...」
「責任感でもありません。」
「...」
「最初は契約でした。」
「でも。」
「...」
「仕事が終わると真っ先にあなたのことを考えていました。」
「おいしいものを食べると、一緒に食べたいと思いました。」
「けがをしたら心配でした。」
「...」
「あなたが笑うと、私もつられて笑っていました。」
彼は少し言葉を切った。
そしてゆっくり、しかしはっきりと言った。
「...愛していました。」
「...」
「キム・ヒロインさんを。」
ヒロインの目に涙がたまった。
こらえようとしたが、結局1滴が頬を伝って落ちた。
ソンホは席を立ち、彼女の前に立った。
ハンカチを取り出し、そっと涙を拭ってやった。
ソンホ「...泣かせたくはなかったのに。」
ヒロインは涙をこらえながら笑った。
ヒロイン「...遅すぎます。」
「...」
「私がどれだけ寂しかったと思うんですか?」
ソンホは静かに頭を下げた。
ソンホ「...すみません。」
「...」
「一生後悔するところでした。」
しばらく沈黙が流れた。
カフェの外には、やわらかな日差しが差していた。
ソンホは勇気を出して彼女の手を握った。
今度は、手放したくなかったからだ。
ソンホ「...契約は終わらせましょう。」
「...」
「その代わり。」
彼は彼女の目を見つめて微笑んだ。
ソンホ「...今度こそ、本当の私の妻になってください。」
ヒロインは涙をぬぐいながら、ゆっくり笑った。
そして静かに彼の手を握り返した。
ヒロイン「...返事は。」
「...」
「家に帰ってからします。」
ソンホはその意味がわかった。
彼女が戻るという意味だった。
初めて彼の顔に明るい笑みが広がった。
だが2人はまだ知らなかった。
遠く離れたテーブルから、この場面をカメラに収めている人物がいることを。
キム・ウンハクの手先だった。
ウンハクはすでに最後の一手を用意していた。