翌朝。
SHグループ本社には、いつもより多くの記者たちが集まっていた。
ウンハクの指示で広まった契約結婚の疑惑は、一日で大きな波紋を呼んだ。
しかし、ソンホは揺るがなかった。
代表室でキム室長から報告を受けているところだった。
キム室長「代表、警察から連絡がありました」
ソンホ「ウンハクは?」
キム室長「まだ直接的な容疑は確認されていませんが、写真を撮った人物がウンハクさんの指示を受けたと供述しました」
ソンホはしばらく窓の外を見た。
ソンホ「…それで十分です」
キム室長「それと、もう一つあります」
「…」
キム室長は書類封筒を一つ差し出した。
キム室長「ウンハクさんが確保したと主張している資料です」
ソンホが封筒を開けた。
中には結婚契約書のコピーが入っていた。
そして最後のページ。
『双方の合意により、契約期間終了前でも契約を解除できる。』
ソンホの表情が固まった。
キム室長「ウンハクさんがこの条項を利用して、ヨジュさんが先に契約を破棄したという形で報道発表しようとしているようです」
ソンホは契約書をゆっくり畳んだ。
ソンホ「何があっても、絶対にだめです」
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一方。
新婚の家。
ヨジュはリビングのソファに座り、スマホを見つめていた。
ネットにはありとあらゆる憶測があふれていた。
『財閥家のイメージ戦略?』
『突然の結婚の真実?』
『パク・ソンホ代表の妻、その正体は?』
ヨジュはスマホを置いた。
そのとき、玄関のドアが開いた。
ソンホが入ってきた。
ヨジュが席を立った。
ヨジュ「…帰ったんですか?」
ソンホ「はい」
彼は彼女に近づいた。
そして手に持っていた書類を差し出した。
ソンホ「まずこれを見てください」
ヨジュは契約書を広げた。
確認した瞬間、目を見開いた。
ヨジュ「…これをウンハクさんが持っているんですか?」
ソンホ「はい」
ヨジュ「…じゃあ私は」
ソンホはきっぱりと首を振った。
ソンホ「何も心配しないでください」
ヨジュ「でも、このままだと私が契約を破棄したように…」
ソンホ「そうはさせません」
「…」
ソンホはしばらく言葉を止めた。
そして静かにヨジュの目を見つめた。
ソンホ「実は今日、これを解決する方法を見つけました」
ヨジュ「何ですか?」
ソンホは別の書類を一枚取り出した。
読み進めるヨジュの目が、だんだん大きくなった。
ヨジュ「…これは何ですか?」
ソンホ「離婚合意書です」
「…」
「それから、これは」
ソンホが二枚目の書類を差し出した。
「契約解除合意書」
ヨジュは理解できないという顔で彼を見た。
目に不安がよぎった。
ソンホ「今日、契約を終わらせます」
「僕たちが結んだ契約結婚は、今日で終了です」
「…」
「そしてそのあと」
「…」
「新しく婚姻届を出します」
ソンホが三枚目の書類を差し出した。
婚姻届だった。
ヨジュは言葉を失った。
ソンホは最初よりずっと落ち着いた顔をしていた。
ソンホ「今回は契約書もありません」
「…」
「条件もなく」
「…」
「期限もありません」
ヨジュの目元が赤くなった。
ソンホ「ただ、一生」
「…」
「僕の妻でいてください」
ヨジュはついに吹き出した。
涙と一緒にこぼれた笑いだった。
ヨジュ「…代表」
ソンホ「はい」
ヨジュ「どうしてこんな言葉を、こんなに平然と言えるんですか?」
ソンホは少し考えてから言った。
「…たくさん練習しました」
ヨジュは涙を拭いながら笑った。
ヨジュ「いつからですか?」
ソンホ「昨日から」
「…」
「だいたい二十回くらい」
ヨジュは笑いをこらえきれずに笑った。
そしてソンホもつられて笑った。
しばらくして、ヨジュが静かに尋ねた。
ヨジュ「…後悔しないですよね?」
ソンホは迷わなかった。
ソンホ「後悔しません」
「…」
「もし後悔することがあるとしたら」
ソンホはヨジュを見つめて言った。
「あなたを失うことだけです」
ヨジュはゆっくりうなずいた。
ヨジュ「…じゃあ、私もします」
「新しい婚姻届」
ソンホのまなざしがやわらかくほどけた。
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そしてその日の午後。
二人は一緒に市役所へ向かった。
今回は契約書もなかった。
相続目的のようなものもなかった。
誰かに見せるための結婚でもなかった。
ただ、お互いが望んで選んだものだった。
書類に並んで署名したあと。
ヨジュがペンを置いた。
ヨジュ「…終わりましたね」
ソンホが彼女を見た。
ソンホ「いいえ」
ヨジュ「…?」
ソンホは薄く笑った。
ソンホ「ここから始まります」
二人は並んで建物の外へ歩き出した。
そして遠くからその様子を見ていたウンハクは、拳をぎゅっと握りしめた。
ウンハク「…ありえない」
ウンハクはまだ知らなかった。
自分が用意した最後のカードが、かえってソンホとヨジュを完全に一つにしてしまったことを。
だが、ウンハクは諦めなかった。
彼にはまだ隠しておいた秘密がもう一つあった。
そしてその秘密は、ソンホのメンタルを揺さぶるには十分だった。
