1年間、私の妻になってください。
EP.19

쿠닉
2026.08.09閲覧数 39
車内は妙に静かだった。
ヒロインは窓の外を見ていて、ソンホはハンドルを握ったまま前だけを見ていた。
だが、二人の表情には妙に笑みが浮かんでいた。
契約結婚は終わった。
そしてこれからは本当の夫婦だった。
しばらく走ったあと、ヒロインがおそるおそる口を開いた。
ヒロイン「…社長。」
ソンホ「はい。」
ヒロイン「呼び方は、これからも社長って呼ばなきゃだめですか?」
ソンホの口元がわずかに上がった。
ソンホ「嫌でしたら、そう呼ばなくてもかまいません。」
ヒロイン「…じゃあ、何て呼べばいいんですか?」
しばらく考えていたヒロインが、いたずらっぽく言った。
ヒロイン「ソンホさん?」
「…」
ソンホの表情が微妙になった。
ヒロイン「どうしたんですか?」
ソンホ「…ぎこちないです。」
ヒロイン「じゃあソンホお兄さん?」
その瞬間、ソンホが咳払いした。
ソンホ「…それはもっとぎこちないです。」
ヒロインはついに笑い出した。
ヒロイン「じゃあ、やっぱり社長って呼びます。」
ソンホも小さく笑った。
しばらくして。
ソンホ「…家では。」
ヒロイン「え?」
ソンホ「ソンホと呼んでもいいです。」
ヒロインの顔が少し赤くなった。
ヒロイン「…努力してみます。」
---
夕方。
家に着くと、ソンホはいつもよりずっと楽そうな表情でネクタイを緩めた。
ヒロインがリビングを見回した。
同じ家なのに、今日だけはまったく違って感じられた。
契約で入ってきた家ではなく。
今では二人が一緒に暮らしていく家だった。
ヒロインはソファに座り、婚姻関係証明書を見つめた。
ソンホが隣に座った。
ソンホ「まだ信じられませんか?」
ヒロイン「少しだけ。」
「…」
「最初は一年だけ一緒に暮らせばいいと思っていたのに。」
ソンホが彼女を見つめた。
ヒロイン「こんなふうになるなんて、思わなかったです。」
ソンホ「私も知りませんでした。」
「…」
「初めて会ったときは。」
「こんなに長く見ていたい人になるとは、思いませんでした。」
ヒロインの心臓が一瞬、大きく跳ねた。
ヒロイン「…そんなことも言えるんですね。」
ソンホ「練習しました。」
ヒロイン「またですか?」
ソンホ「はい。」
ヒロインは笑った。
だが、ソンホは笑わなかった。
ただ彼女を見つめていた。
その視線があまりにも真剣で、ヒロインの笑みも徐々に消えていった。
---
しばらくして。
ソンホがおそるおそる言った。
ソンホ「…ヒロインさん。」
ヒロイン「はい。」
ソンホ「一つ聞いてもいいですか?」
ヒロイン「…何ですか?」
ソンホは少しためらってから、口を開いた。
「…キスしてもいいですか?」
ヒロインの目が見開かれた。
しばらく何も言えなかった。
それから、ごく小さくうなずいた。
ヒロイン「…はい。」
ソンホは急がなかった。
ただゆっくり近づいてきた。
そしてほんの短く。
そっと口づけた。
二人の初めてのキスだった。
契約もなく。
誰かに見せるための行動でもなかった。
ただ互いに望んでしたことだった。
ソンホはすぐに距離を取った。
ソンホ「…大丈夫ですか?」
ヒロインは赤くなった顔でうなずいた。
ヒロイン「…はい。」
しばらくして、ヒロインが小さく笑った。
ヒロイン「社長。」
ソンホ「はい。」
ヒロイン「緊張しすぎじゃないですか?」
ソンホが一瞬、固まった。
ソンホ「…バレましたか?」
ヒロイン「かなり。」
「…」
ヒロインが吹き出すと、ソンホもついに笑った。
そしてしばらくして。
ソンホが彼女の手を取った。
今度は、離さなかった。
---
その夜。
二人はリビングのソファに並んで座り、映画を見ていた。
だが、映画の内容はどちらもまともに見ていなかった。
ヒロインは何度もあの瞬間を思い出していて。
ソンホも画面より、隣に座るヒロインへと視線が向いていた。
するとヒロインが言った。
スユン「…ソンホさん。」
ソンホが振り向いた。
ソンホ「はい。」
ヒロイン「もう本当の夫婦なんだから。」
「…」
「これからよろしくね。」
ソンホはしばらく彼女を見つめてから、ぎゅっと手を握った。
ソンホ「はい。」
そして静かに付け加えた。
「一生。」
ヒロインが彼の手を握り返して微笑んだ。
二人はもう、契約で縛られた関係ではなかった。
互いを選んだ夫婦だった。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。
翌朝。
ソンホのもとに、一通の古い手紙が届いた。
差出人は、すでにこの世を去った彼の父親だった。
そして手紙の最初の一文には、こう書かれていた。
「ソンホよ。この手紙を読んでいるなら、ウナクを信じてはいけない。」
ソンホの表情がこわばった。
ついに最後の秘密が、姿を現し始めた。