1年間、私の妻になってください。

EP.8

会場の中は華やかだった。

何百ものシャンデリアが天井を照らし、スーツ姿の財界人たちがあちこちで集まって会話を交わしていた。

ソンホとヨジュが入場すると、あちこちから視線が注がれた。

「あの方がパク・ソンホ代表の奥さんだって。」

「思ったよりすごくきれいな方ね。」

「結婚の知らせも急に聞いて驚いたけど。」

小さく聞こえてくる会話に、ヨジュは肩を少しすくめた。

その瞬間。

とん。

ソンホが自分の腕を差し出した。

ソンホ「……腕。」

ヨジュ「……え?」

ソンホ「夫婦なら、こちらのほうが自然です。」

そこでようやくヨジュは彼の意図を理解した。

「あ……」

そっとソンホの腕に手を添えると、ソンホは何事もない顔でゆっくり歩き出した。

見た目には本物の夫婦のように自然だったが、肝心の二人の心臓はまったく自然ではなかった。


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しばらくして。

パク会長が近づいてきた。

パク会長「来たか。」

ソンホ「はい。」

パク会長はヨジュを見て、ぱっと笑った。

パク会長「うちの孫嫁。」

ヨジュ「……え?」

パク会長「うちのソンホと過ごしてみて、どうだ?」

突然の質問にヨジュは戸惑った。

『なんて答えれば……?』

彼女が答えあぐねていると、ソンホが代わりに口を開いた。

ソンホ「仲良くやっています。」

パク会長はくすっと笑った。

パク会長「私はヨジュに聞いたんだが。」

ソンホ「……」

パク会長「お前は黙っていろ。」

初めて見るソンホの困った顔に、ヨジュは吹き出しそうになった。

必死にこらえて答えた。

ヨジュ「……よくしてくださってます。」

パク会長「ん?」

ヨジュ「思ったより……気遣いもたくさんしてくださいますし。」

その瞬間、ソンホの視線がヨジュに向いた。

予想していなかった答えだったようだ。

パク会長は満足そうに笑った。

パク会長「そうでなくては。」

「あいつは口下手なだけで、根は悪くない。」

ソンホは小さく咳払いするだけだった。


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イベントが真っ最中のころ。

一人の女性が二人の前へ歩いてきた。

長いストレートヘアに上品なドレス。

モデルのようなプロポーション。

彼女はソンホを見ると、自然に微笑んだ。

???「お久しぶりですね。」

ソンホの表情がごくわずかに固まった。

ソンホ「……ム・ハナさん。」

ヨジュは初めて聞く名前だった。

ハナはヨジュを見つめながら手を差し出した。

ハナ「こんにちは。」

「ソンホさんの大学の同期です。」

ヨジュ「あ……こんにちは。」

握手を終えたハナは意味ありげに微笑んだ。

ハナ「ご結婚されたって聞いて、本当に驚きました。」

「……」

「ソンホさんが結婚だなんて。」

言葉は祝福だったが、どこか棘があった。

しばらく沈黙が流れると、ハナが再び口を開いた。

ハナ「私たち、昔は……」

ソンホ「ハナさん。」

ソンホが彼女の言葉を遮った。

低いが、きっぱりした声だった。

「……今日は私の妻と一緒にいる席です。」

ハナの笑みがほんの一瞬揺れた。

ハナ「……そうですね。」

彼女はまた笑って言った。

「お二人とも、お幸せに。」

そう言って背を向けたが、その表情は幸せを願う人の顔ではまったくなかった。


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イベントが終わった後。

駐車場へ向かう道。

ヨジュは静かに歩いた。

先に口を開いたのはソンホだった。

ソンホ「……気になることでもありますか?」

ヨジュは少し迷ってから尋ねた。

「……さっきの方。」

「……」

「ム・ハナさん。」

ソンホはしばらく沈黙した。

ソンホ「昔、政略結婚の話が出た相手です。」

「……!」

ヨジュの目が大きくなった。

ソンホ「結婚はしていません。」

ヨジュ「どうしてですか?」

ソンホ「考えが合いませんでした。」

短い答えだった。

それ以上説明する気はなさそうだった。

それでも不思議と、ヨジュの心は少し軽くなった。

『……よかった。』

その瞬間、彼女は自分の考えに自分で驚いた。

『何がよかったっていうの?』

『契約結婚なのに。』

ヨジュは気まずそうに首を振った。

そのときソンホが車のドアを開けながら言った。

ソンホ「今日はお疲れさまでした。」

ヨジュ「……代表님も。」

しばらく見つめ合っていた二人。

ソンホはふと思い出したように静かに言った。

ソンホ「……今日は。」

ヨジュ「え?」

ソンホ「よくしてくださりました。」

彼女はにこっと笑って答えた。

ヨジュ「……代表님も。」

その笑顔を見たソンホは、ほんの一瞬視線をそらした。

変だった。

記者たちの前でも何ともなかったのに。

明るく笑うヨジュの顔が、なぜか何度も目に入ってきた。

車は静かに新婚の家へ向かって走った。

そして二人とも、まだ知らなかった。

今日の会場で出会ったム・ハナが、これから契約結婚のいちばん大きな変数になるということを。

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