
愛の捕食者
すべてが崩れ落ちた日だった。
“…“
彼女が組織に戻ってきたのは、日が暮れる頃だった。数日間、外で片づけなければならない用事があったため、組織内部の事情はきちんと確認できていない状態だった。もちろんその間、特に心配はしていなかった。自分が席を外している間、組織を任せられる人がいたからだ。
チョン・ジョングク。
彼がいたからこそ、安心して席を外せた。
父がこの世を去って以来、組織の内側では大小さまざまな不協和音が絶えなかった。彼女の座を狙う者も、若い年齢で組織を継いだことが気に入らない者も少なくなかった。
そんな時、ジョングクはいつも彼女の味方をした。
彼女が気づけずにいたことを代わりに処理し、不満を抱いた幹部たちを静かに片づけることもあった。おかげで彼を疑う理由などなかった。
むしろ誰よりも信じていた。
“…”
車を降りた彼女は、建物の前に立って周囲を見回した。
おかしかった。
普段なら入口の時点で自分を見分けて頭を下げる組織員たちが見当たらなかった。建物の前には見慣れない車が数台停められていて、出入口を守る者たちの顔も知らない顔ばかりだった。
“……“
彼女は眉間にしわを寄せた。
だが、その時点ではまだ特に疑っていなかった。ジョングクが勝手に処理したのだろうと思ったからだ。
「おい。」
彼女は入口に立っていた男を呼んだ。
「ジョングクはどこ。」
男は彼女だと分かってもすぐには答えなかった。その短い沈黙が妙に引っかかった。
「聞こえなかったの?」
「……」
「チョン・ジョングクはどこだって聞いてるの。」
ようやく男は頭を下げた。
「中にいらっしゃいます。」
彼女はそれ以上聞かず、建物の中へ入った。
その時点でも、まだ知らなかった。
自分がいない間にここで何が起きたのか。そして、自分が最も信じていた人間が、そのすべてを企てていたという事実を。
“…”
組織内部はすでに片づけられていた。
反乱に加わらない者たちはほとんど追い出され、彼女の父の代から居場所を守ってきた幹部たちも姿を消していた。廊下を行き来する人間の大半はジョングクの指示に従っていたが、彼女はそのことを知らなかった。
ただ、何かおかしいとは思った。
見慣れているはずの空間が、知らない場所のように感じられた。
何年も出入りしていた廊下なのに、どういうわけか他人の建物に入ってきたような気分だった。
“…”
彼女は足を止めた。
普段ならありえないことだった。
「おい。」
男が振り返った。
「お前、私のこと知らないの?」
「……」
彼は答えなかった。彼女は呆れて苦笑した。
「私がいない間に、ずいぶん雰囲気が変わったのね。」
その時になって、彼女の表情から笑みが消えた。何かがおかしい。ただ組織内の空気が変わっただけではなかった。自分に対する人々の態度そのものが以前とは違っていた。
まるで、もう自分をこの場所の主とは思っていない人たちのように。
”…“
彼女は携帯電話を取り出した。
“…”
その時になって確認した画面には、数十件の不在着信と未読メッセージが溜まっていた。
ほとんどが同じ相手だった。
パク・ジミン。
組織内で情報収集と警備を担当していた人物だった。優れたハッキング能力で名を知られた彼は、組織内部でもごく一部しか触れられない情報まで扱えたし、彼女が個人的に信頼する数少ない人間の一人でもあった。
“…”
彼女は眉間にしわを寄せた。
何か急ぎの用でもできたのだろう。
そう思ってメッセージを確認しようとした、その瞬間。
ジーッ -
もう一度、携帯が鳴った。
パク・ジミンだった。
彼女は特に疑うこともなく電話に出た。
「どうしたの。何の用?」
「今どこにいる。」
「私? 組織に来てるけど。」
「何だって?」しばし沈黙が流れた。そしてすぐにジミンの声が低くなった。
「今すぐそこを出ろ。」
「何言ってるの。」
「説明してる時間はない。とにかく外に出ろ。」
「おい、パク・ジミン。」
「……」
「何があったんだよ。」
ジミンはすぐには答えられなかった。その短い沈黙が妙に不吉だった。
”…“
彼女はゆっくり顔を上げた。廊下の先で、いつの間にか組織員たちが自分を見ていた。
“…”
そこでようやく、言いようのない不安が押し寄せ始めた。そして少しして、受話器の向こうからジミンの声が聞こえた。
「そこ、もうお前の組織じゃない。」
”……“
”チョン・ジョングクが全部ひっくり返した。”
彼女は何も言えなかった。
聞き間違いだと思った。いや、そう信じたかった。
「何だって?」
「だから、頼むから。」
ジミンが焦った声で言葉を続けた。
「ジョングクに会う前に出て。」
彼女はゆっくり廊下の先へ視線を移した。
さっきまで何とも思わず通り過ぎていた人たちの視線が、今ではまったく違って感じられた。
“…”
自分がいない間に何かが大きく間違っていたことを。ようやく少しずつ実感し始めた。
だが、それでもなお理解できないことが一つあった。
チョン・ジョングク。
なぜ、よりによってその名前が出てくるのか。
彼女がここへ戻ってくる間、一度も疑ったことのない人間だった。
”……“
彼女はゆっくり携帯を下ろした。
チョン・ジョングク。
その名前が頭の中をぐるぐる回っていた。他の誰でもないジョングクが反乱を起こしたという事実が、どうしても信じられなかった。
“…”
7年だった。その長い間、一度も疑ったことのない人間だった。そんな人間が自分を裏切ったなんて。
「は…」
彼女は短く息を吐き、歩き出した。
自分の目で確かめなければならなかった。少なくともジョングクの口から聞くべきだった。
”…“
廊下を進む間、何人かの組織員は彼女だと分かっても視線を逸らした。だが彼女は気にしなかった。
今の頭の中は、ただ一人のことでいっぱいだった。
”チョン・ジョングク。”
彼女はまっすぐ彼の執務室へ向かった。
-
彼女はためらいなくドアを開けた。
“……”
ジョングクはソファに長々と横たわっていた。片腕で目元を隠したまま、誰かが入ってきたことにも大した反応を見せなかった。
「来たんですか?」
彼はのんびりと尋ねた。
“…”
いつもと変わらない声だった。いや、むしろいつもより余裕があるように聞こえた。
そうなってもおかしくはなかった。すでにすべては自分の思い通りに進んでいて、今さら彼女が戻ってきたところで何も変わらないのだから。
ジョングクはそこで初めて腕を下ろし、彼女を見た。
「なんだよ、どうしてそんな顔してるんです。」
彼女は答えなかった。
ただ目の前の男をじっと見つめた。ついさっきまで彼の裏切りを信じられなかった自分が馬鹿みたいになるほど、ジョングクは平然として見えた。
“…”
そんな彼女の視線を受けても、ジョングクは少しも動揺しなかった。むしろ、ふっと笑って体を起こした。
「もう聞いたみたいですね。」
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次話もヒロインのその日の視点で展開されます。










