"だから、人を気にさせるな。"
テサンの小さな声は、眠っているミョン・ジェヒョンには届かなかった。
テサンはしばらく天井を見つめていた。

でも、不思議と眠気は来なかった。
頭の中では、さっき聞いた言葉だけがずっとぐるぐる回っていた。
君と一緒にいる方が、なんだか楽な気がする。
酒に酔って言った言葉だった。
それでも、何度も意味をつけたくなった。
テサンは結局、目を閉じた。
'酔って言っただけだ。'
そう考えれば、簡単だった。
でも心は不思議と納得しなかった。
翌朝。
"テサン。"
"..."
"起きて。"
テサンがゆっくり目を開けた。
目の前にはミョン・ジェヒョンが立っていた。
"何時?"
"8時。"
テサンはすぐ体を起こした。
"授業9時じゃん。"
"うん。"
"なのに、なんで起こさなかったの。"
ミョン・ジェヒョンは呆れた顔をした。
"起こしてるじゃん。"
"もっと早く。"
"なんで?"
"遅れたら..."
テサンは言葉を切った。
ミョン・ジェヒョンが笑った。
"遅れたら?"
"...知らない。"
"変なの。"
ミョン・ジェヒョンはしばらくテサンを見てから尋ねた。
"で、お前、昨日のこと覚えてる?"
テサンの表情が固まった。
"何を。"
"俺が何て言ったか。"
"..."
"俺、酒飲んで変なこと言ってないよな?"
テサンはしばらく考えた。
そしてわざと平然を装って言った。
"言った。"
"は?"
"いっぱい。"
ミョン・ジェヒョンの顔が一瞬で固まった。
"本当?"
"うん。"
"俺、何て言ったんだ?"
テサンはミョン・ジェヒョンを見た。
昨日の言葉がまた浮かんだ。
君と一緒にいる方が、なんだか楽な気がする。
そのまま伝えるには、妙に恥ずかしかった。
だからテサンは短く言った。
"俺といるのが楽だって。"
"..."
ミョン・ジェヒョンの耳が赤くなった。

"俺、本当にそんなこと言ったの?"
"うん。"
"やば。"
ミョン・ジェヒョンは両手で顔を隠した。
テサンはそんな様子を見て尋ねた。
"なんで。"
"そんなこと、なんで言ったんだ..."
"嫌だった?"
ミョン・ジェヒョンが手を下ろした。
"え?"
"俺といるのが楽だってこと。"
ミョン・ジェヒョンはしばらくテサンを見てから、小さく笑った。
"いや。"
そして何気なく言った。
"本当に楽だから、あんなこと言った気がするけど?"
テサンの心臓が一瞬、落ちた。
"本当?"
"うん。"
ミョン・ジェヒョンは服をまとめながら言った。
"俺たち、仲良くなったじゃん。"
その一言に、テサンは妙に安心した。
でも同時に、少しだけ物足りなかった。
仲がいいから楽。
それ以上じゃないという意味みたいに聞こえたからだ。
数日後。
祭りを前に、学校はさらに慌ただしくなった。
ミョン・ジェヒョンは学科の行事準備で、一日中学校に引き留められていた。
"ジェヒョン! これ持って!"
"ちょっと待って!"
"写真も撮って!"
"うん!"
テサンは講義が終わったあと、学生会館の前を通りかかってその様子を見つけた。
ミョン・ジェヒョンは目まぐるしく走り回っていた。
そしてその横にはソユンがいた。
"ジェヒョン、これ一緒に運ぼう。"
"ありがとう。"
"お前一人だったら、本当に大変なことになってたね。"
"そうだな。"
二人は笑った。
テサンは足を止めた。
まただ。
どうしてあの人ばかり目に入るのか分からない。
そのときミョン・ジェヒョンがテサンに気づいた。
"テサン!"
ミョン・ジェヒョンが嬉しそうに手を振った。
テサンも立ち止まった。
"何してるの?"
"祭りの準備。"
"大変そう。"
"うん。でも楽しい。"
ミョン・ジェヒョンが笑った。
その瞬間、ソユンが自然に言った。
"ジェヒョン、これも一緒に運ぼう。"
"あ、ちょっと待って。"
ミョン・ジェヒョンがテサンを振り返った。
"これだけやったら行く。"
"うん。"
テサンは短く答えた。
そしてそのまま背を向けた。
"テサン?"
ミョン・ジェヒョンが呼んだが、テサンは手を上げて見せるだけだった。
夕方になって寮に戻ったミョン・ジェヒョンは、テサンを見るなり尋ねた。
"今日、なんでそのまま行ったんだ?"
"何を。"

"学校で。"
"忙しそうだったから。"
"一緒に帰ろうって待ってたのに。"
テサンが顔を上げた。
"待ってたの?"
"うん。"
ミョン・ジェヒョンは何でもないように言った。
"一緒にご飯食べようと思って。"
テサンはしばらく言葉を失った。
"でも、お前がソユンと..."
"ソユン?"
ミョン・ジェヒョンが笑った。
"あいつはただの友達だよ。"
"知ってる。"
"なのに、なんで。"
テサンは答えなかった。
ミョン・ジェヒョンが一歩近づいた。
"もしかして..."
"何。"
"嫉妬した?"
テサンの表情が固まった。
"違う。"
"でも。"
"違うって。"
"耳、赤いけど?"
"暑い。"
"エアコンつけてるけど?"
結局、テサンは顔をそらした。
ミョン・ジェヒョンは吹き出した。
"お前、本当に変だな。"
"何が。"
"いつも平気なふりしてるのに、全部バレバレ。"
テサンは何も言わなかった。
その夜。
ミョン・ジェヒョンはベッドに横たわったまま、しばらく考えた。
'テサンはなんでソユンを気にするんだ?'
最初は、ただの冗談だと思っていた。
でも考えれば考えるほど、不思議だった。
テサンはもともと、他人にあまり関心のない人だった。
なのに、自分が誰といるかは気にしていた。
遅く帰った日は、待っていてくれた。
傘も自分の方に寄せてくれたし。
なくした物も代わりに拾ってくれた。
そして昨夜は、自分といると楽だと言ったら、嬉しそうだった。
ミョン・ジェヒョンは向かいのベッドを見た。
テサンはもう横になっていた。
"テサン。"
"...なんだ。"
"寝ないの?"
"寝ようとしてた。"
"昨日、俺が言ったこと。"
テサンの目が少し開いた。
"何が。"
"本当だった。"
テサンが体を向けた。
"何が。"
ミョン・ジェヒョンは少し迷った。
"お前といると楽だってこと。"
"..."
"酒のせいじゃない。"
テサンは何も言わなかった。
ミョン・ジェヒョンは小さく笑った。
"俺、ソウルに来たばっかで知り合いもいなくて、全部が知らないことだらけだっただろ。"
"うん。"
"でも、お前と一緒に過ごしてたら..."
少し言葉を選んでから、ミョン・ジェヒョンは言った。
"お前がいるから、少しは寂しくない気がする。"
テサンの目が少し大きくなった。
"だから。"
"ただ、ありがとなって。"
ミョン・ジェヒョンは布団を引き上げた。
"おやすみ。"
"...おやすみ。"
テサンはまた天井を見つめた。
今度ははっきり分かった。
昨日の言葉も。
今日の言葉も。
全部、本気だった。
ミョン・ジェヒョンは、自分と一緒にいるのが楽だと言った。
その事実ひとつだけで、心が妙に満たされた。
でも同時に、欲が出た。
自分だけが楽だったらいいのに。
他の誰より先に、自分を探してくれたらいいのに。
自分といるときが、一番たくさん笑ってくれたらいいのに。
テサンはその考えが浮かんで、自分でも戸惑った。
まだ名前のつけられない感情だった。
でも、確かに。
ただのルームメイトには抱かない感情だった。
