仕事を終えて部屋に入っても、洗いもせずベッドに腰を下ろした。
ぼんやり壁を見つめていると、今日一日が何度も巻き戻されるみたいに思い出された。
所長は朝、書類を振りながら締め切りが前倒しになったと言った。口調も、手振りも昨日と同じだった。支援姉さんはキンパを買うと言っていて、そこまでも予想どおりだった。
でもそのあと、姉さんが私の顔がどうしてこんなに白いのかと聞いたのは、予想外だった。所長の台詞は一字一句違わず繰り返されたのに、その一言だけは初めて聞くものだった。考えてみれば当然だった。たった今死んで生き返った顔がまともなわけがない。だからそれは繰り返しの台詞じゃなく、今の私の様子を見てその場で出た言葉だった。
ということは、決まっていることはそのまま来て、私が何をするかで変わるものもあるという意味だった。
怖くもあったし、同時にほっともした。すべてが決まっているなら、私は指一本動かせなかっただろうから。
その考えの果てに、あの夜が自然と思い浮かんだ。
何の問題もなかったブレーキが、突然あんなふうに利かなくなる確率なんてどれくらいあるだろう。ドンミンが最後に漏らすように言った言葉が、耳に残っていた。
「…この車、ソンホ実長が配属したやつなんですけど。」
単なる事故じゃないのかもしれなかった。今すぐ確かめる方法はなかったけれど。
それよりもっと気になってしまうのは、別のことだった。私たちはどうして、あそこまで行ってしまったのだろう。
手の甲に貼ってくれた絆創膏一枚。粉食店で並んで食べたラーメン。誕生日だと無理やり押し付けられたケーキ。雨の日にかぶせてくれた傘。そんな些細なことが積み重なって、いつの間にか好きになって、付き合うようになって、そして同じ車の中で一緒に死んだ。
二人ともいたから二人とも死んだのなら、今度は片方だけいればいい。
『近づかない。彼の仕事に関わらない。絶対に、もう好きにならない。』
三つで十分だった。守るだけでよかった。
手首の時計をいじった。ガラスに入ったひびが指先に引っかかった。
*
翌朝、エレベーターのドアが開いたとき、ドンミンはもう中にいた。
私は挨拶もせず、静かに隅に立った。ドアが閉まった。本来なら私が先に「おはようございます」と言っていたタイミングなのに、そのままやり過ごした。
ドンミンがちらりとこちらを見た。
「…今日は挨拶しないんですか?」
敬語だった。なのに声に何か引っかかるものがあった。真正面から聞かれると、最後まで無視はできなかった。
「…おはようございます。」.
しぶしぶ出た挨拶だった。彼は少しだけうなずいて、また前を向いた。
4階に着くまで、誰も口を開かなかった。こんなに静かなのは初めてだった。ドアが開くと私は先に降りて廊下を歩いた。背後でドンミンが少し遅れて降りてくる音がした。いつもなら並んで歩く距離なのに、今日は二歩ほど空いていた。
*
午前十時ごろ、事務所のドアが開いた。
ドンミンだった。手には小さな箱を一つ持っていた。
「…これ、ここに届くものを間違えたみたいなんですけど。」
宅配の箱だった。住所はうちの事務所で合っているのに、受取人欄にはBNDリサーチの職員の名前が書かれていた。隣の事務所同士で、たまにこういう間違いがあった。
過去にもこういうことがあった。
そのときはドンミンが箱を振ってみては 「これ何ですか、こんなに重いなんて、レンガでも入ってるんですか」 なんてくだらないことを言っていた。私も一緒に笑っていた。それから箱を全部片づけたあと、私は何気ないふりをして聞いた。
「…今日、仕事が終わったら夕飯を食べに行きませんか?」
何気なくなんてなかった。返事を待つその数秒が、やけに長かった。ドンミンはしばらく間を置いて、いいよと言った。そこから始まった。
「これ何ですか、こんなに重いなんて、レンガでも入ってるんですか」
見慣れた台詞だった。
「…あ、はい。ありがとうございます。」
私は短く受け取って、それ以上は言葉を続けなかった。ドンミンは少し立っていて、何か別のことを言いかけたような顔のまま、結局こちらを向き直った。
ドアが閉まるやいなや、支援姉さんが椅子を引いて近づいてきた。
「二人で何かあるの? でもあの人、あんなのでわざわざ来たことあったっけ? ふだんは顔を見るのも難しい人なのに」
「いえ。宅配が間違って来ただけです。」
過去には夕飯の約束をして浮かれていた気がするのに、
今回は何でもないふりをして話した。
*
昼休み、私はわざと階段で下りた。エレベーターでまた顔を合わせたくなかったからだ。
建物を出ると、いつも行く粉食店の前にドンミンが立っているのが見えた。入るかどうか迷っているみたいに、ガラスドアの前で足踏みしていた。本来なら、あそこで私が先に手を振るはずだった。
『…本当はあそこで、私に最初に自分の話をしてくれたんだ。』
トッポッキの汁が冷めていく匂い、プラスチックの椅子に座っていた彼の横顔。全部覚えているのに、もうその話は二度と聞けない。どうしてこんなに惜しいのか、自分でもわからなかった。
そのとき見知らぬ顔が一人、走ってきてドンミンを捕まえた。
「兄さん! 今日遅番に当たって死ぬかと思いましたよ。夕飯おごってくれるって言ったの、忘れてないですよね?」
あどけない顔の男の子だった。ドンミンとはもう知り合いらしい。夕飯を食べようという言葉は、今回は私に向けられたものじゃなかった。ドンミンは返事の代わりに短くうなずくだけで、先にガラスドアを押して入っていった。男の子は弾む足取りでそのあとに続いた。
私は見なかったふりをして反対側へ回って歩いた。
数歩歩いてこらえきれず、後ろを振り返った。ガラスドアはすでに閉まっていた。中で二人が席につくのが、かすかに見えた。
近づかないと決めていたのに、今日は一日中、彼の一日だけを目で追っていた。
事務所に戻って手首の時計を見た。ガラスのひびはそのままだった。この一日が本物だった証拠みたいに、曇ることもなく鮮明に残っていた。
