半月あまりしか経っていないのに、ボムギュの傷は見違えるほど癒えていた。
最初に往診に来た医者でさえ、改めて立ち寄ると舌を巻いた。
「これほど深かった傷がこんなに早くふさがるとは、もともと身体が並外れて丈夫なんでしょうな」
「…そうみたいです」
ボムギュはただ気まずそうに笑ってごまかすだけだった。
生き延びるために鍛えられた身体だなんて、口が裂けても言えなかった。
*
「そこに座っていてもいいですよ。どうせ、たいしてやることもないでしょうし」
ヨジュは刺繍枠を取り出しながら言った。
ボムギュは断りきれないように、縁側の端に腰を下ろした。
静かに針を動かす手を眺めていたが、ふと口を開いた。
「梅ですね」
「まあ、ご存じなのですか?」
「…いいえ。ただ、そう見えただけです」
ヨジュはふっと笑った。
「記憶もない方が、花の名前はよくご存じなんですね」
「目で見て分かることと、知っていることは別ですから」
とぼけた返事にヨジュは言い返す言葉を失い、また針を動かした。
一針一針縫われるたび、ボムギュの視線もその指先を追った。
「そんなに見られると、手が震えて曲がってしまいます」
「見ないでほしいと言われれば見ませんが、特に他に見るものもないので」
「私をからかって楽しいですか?」
「お嬢さんの顔が赤くなるのを見るのは、なかなか楽しいです」
ヨジュはついに我慢できず、針を置いて睨んだ。
それでも腹が立つどころか、笑いがこぼれそうになるのをこらえるのに苦労した。
「もういいです、退屈ならあそこへ行って庭でも掃いていてください」
「お嬢さんのそばにいるのが私の役目だと思っていたのですが、違いましたか?」
「誰がそんなことをさせたんです」
「お嬢さんの顔です。さっき、とても満足そうでしたし」
ヨジュは呆れて、ふっと笑ってしまった。
口げんかで勝った試しがないのだと、最近になってひしひしと実感していた。
こんな時間が初めてというわけではなかった。いや、初めてであるべきなのに、そうではなかった。
*
その日の午後、ヨジュは風に当たりに庭を歩いた。
いつの間にかボムギュがそっと後ろからついてきて、一緒に歩いていた。
すると突然、にわか雨が降り出し、二人とも避ける間もなくずぶ濡れになってしまった。
ボムギュが急いで彼女の手を引き、軒下へ連れていった。
「大丈夫ですか?」
「…はい、急だったので」
息を整えながら向き合うと、思ったより距離が近かった。
雨粒が彼の額から顎へと流れ落ちた。
濡れた襟元の間から玉佩が少しのぞいたが、彼は手でさりげなく合わせて隠した。
ヨジュはその仕草を見ても知らないふりをして、視線をそらした。
「…かなり降ってますね」
「そうですね」
ありふれた言葉なのに、二人の間には妙な余韻が残った。
「お客さまは濡れても平気なのですか?」
「拙者はもう一度死んで生き返った身ですから、雨に少し濡れたくらいでどうにもなりません」
冗談めかして投げた言葉だったが、ヨジュはなぜか胸がちくりとした。
ただ雨音だけが、しばらく軒を打っていた。
*
愛人の部屋の戸の隙間からその様子を見ていたキム・ユヒョンは、思わず眉をひそめた。
娘があんなふうに気楽に笑う姿を見たのが、どれほど久しぶりか分からなかった。
帰郷してからというもの、いつも慎重で、どこか影のある子だった。
なのに、心のどこかがどうしても引っかかった。理由の分からない不快感だった。
あの男のどこがそんなに気に障るのか、自分でも分からなかった。
「何でもないだろう」
ひとり言のようにつぶやいて戸を閉めたが、そのもやもやはなかなか消えなかった。
ずっと昔になくした何かと再び向き合ったような、説明できない既視感だった。
*
夕方、雨が上がったあと、ヨジュは何気なく尋ねた。
「故郷が恋しくありませんか? 記憶がなくても、そういうのは心で分かるものだって言うでしょう」
深い意味のない問いだった。
ところがボムギュの顔から、ふいに笑みが消えた。
ほんの一瞬だったが、ヨジュにははっきり見えた。
あの空っぽの目を。
「…さあ。そんなものがあったのかどうかも分かりません」
声はいつもより低く沈んでいた。
ヨジュは余計なことを聞いたと思って、急いで話を逸らそうとしたが、ボムギュが先に薄く笑ってみせた。
「冗談です。記憶もないのに、恋しがるものがあるはずないでしょう」
その笑みでは、さっきの表情を消し去るには足りなかった。
ヨジュはそれ以上掘り下げなかった。その代わり、温かいお茶を一杯、黙って彼の手に渡した。
ボムギュはしばらくそのぬくもりをじっと見つめてから、低く礼を言った。
「不思議ですね」
「何がですか?」
「記憶もないやつに、どうしてそこまでよくしてくれるのか、です」
ヨジュは少しだけ答えを選んでから、正直に言った。
「ただ……お客さまがここにいるのが、私は好きなんです。なんだか、懐かしい気もして」
ヨジュは気恥ずかしそうに少し笑って付け加えた。
「理由はよく分かりませんけど」
ボムギュの目が揺れた。何か言おうとして、結局飲み込んだ。
「お嬢さんも、ほんとうに変わった方です」
「そうですね。私も、どうしてこんなことをしているのか分からないです」
二人は顔を見合わせて笑った。その笑みの中に隠されたものを、互いに知らないまま。
言葉にしなくてもいい慰めがあるのだと、ヨジュはその日初めて知った。
