[투바투 범규] ひりひりする

第6話。身を投げる

その夜も範規は人の気配を殺しながら私道の門を出た。

女主人公は布団の中でその足音を聞いても、目を閉じたままじっとしていた。

毎晩繰り返されるその足音が、今日はとりわけ慎重だった。

記憶がないと言っていた人が、一体どこへ、何のために、毎回この時間に出ていくのだろう。

ここ数日、玉佩を隠す仕草と眠れずにいるような眼差しが、何度も心に引っかかっていた。

尋ねても彼は笑ってごまかすばかりだった。その笑みの裏に何か隠していることだけは明らかだった。

今日だけは、待つ代わりに自分の目で確かめたかった。

 

彼が塀を越えて姿を消すと、女主人公は静かに起き上がって上着を羽織り、あとを追った。

 

 

 

*

 

 

 

心臓がやけに大きく打った。怖いというより、もう知らないふりはできないという思いが先に立った。

 

夜道は思った以上に暗かった。

範規は慣れた足取りで山道を上り、女主人公は足音を殺してその後を追った。

草をかすめる衣擦れの音さえ大きく感じられ、何度も息を止めなければならなかった。

足元は何度も滑ったが、彼との距離を見失わないよう歯を食いしばった。

しばらく歩いた彼は、ある古びたソナン堂の前で立ち止まった。

やがて闇の中で低い声が交わされた。相手の顔は見えなかった。

 

"…まだ確かではありません。もう少しだけ時間を。"

"時間がない。向こうももうこの辺りを洗っている。"

 

女主人公は木の後ろに身を隠したまま、息を殺した。

 

知らない話だった。見知らぬ範規だった。

この人は本当に記憶をなくした客なのか、ふと背筋がぞくりとした。

だとしたら、今まで見てきた不器用な笑みも、ぎこちない仕草も全部嘘だったというのか。

やがて相手は挨拶もなしに身を翻して闇の中へ消え、踏みしめる足音は次第に遠ざかっていった。

 

 

 

*

 

 

 

その足音が完全に消えてから、ようやく範規はゆっくりと体を向けた。

そしてその場で凍りついている女主人公と目が合った。

 

"…お嬢さん?"

 

もう隠れる場所はなかった。

 

"お客さまこそ、ここで何をしていらっしゃるんですか。今の人は誰ですか。"

"…ついて来られたんですか。"

"答えが先でしょう。時間がないってどういう意味ですか。お客さま、一体何者なんですか。"

 

範規の顔が闇の中で一瞬揺れた。

 

"…今はお話しできません。ひとまずお戻りください。"

"そうはいきません。今日はちゃんと聞くまでは……"

 

言い終えるより先に、範規の表情が一瞬で変わった。

さっきまでの困った顔は消え、冷ややかにすら見える見慣れない眼差しだけが残った。

 

"静かに。"

 

低く、きっぱりした声だった。これまで一度も聞いたことのない声だった。

彼は女主人公の腕をつかんで引き寄せ、もう片方の手で自分の唇の前に指を立てて見せた。

瞬間、女主人公の全身がこわばった。知っている人の手つきなのに、まるでまったく知らない人に捕まったようでぞくりとした。

この人は本当にあの客なのか。恐怖が喉元までせり上がった。

 

驚いて後ずさった足先が、乾いた枝を踏んだ。

折れる音が息を潜めた山の静けさを裂いた。

 

 

"あっちだ!"

 

鋭い怒号がこだました。

下の方で揺れていた松明が一斉にこちらへ向きを変えた。

範規の顔がもう一度こわばった。今度はさっきの冷たさではなく、切迫した表情だった。

 

"…申し訳ありません。今はこれを。"

 

低くつぶやいた彼は、女主人公の手を強く握った。その手だけはさっきとは違って優しかった。

隠れている暇もなかった。男たちがあっという間に距離を詰めてきた。

手にした刃が松明にきらりと光った。普通の連中ではなかった。

女主人公は脚が震えてまともに立つこともつらかったが、握り合った手の温もりだけは手放すまいと必死だった。

 

"走ってください!"

 

範規は女主人公の手をつかんだまま山道を駆け下りた。

背後で矢がかすめる音が何度も耳を打った。

木の枝に頬を擦られ、裾は引っかかって破れたが、振り返る余裕はなかった。

その時、一本の矢が女主人公の二の腕をかすめていった。

 

"あっ……!"

 

短い悲鳴とともに女主人公の足が大きくよろめいた。

 

"お嬢さん!"

 

範規が振り向くより先に、女主人公の脚から力が抜け、そのまま崩れ落ちた。

 

彼はためらいなく彼女をひょいと抱き上げた。

 

"少しだけ耐えてください。もうすぐです。"

 

息が上がる中でも、女主人公を抱えたまま死力を尽くして走った。

背後から何度も矢がかすめたが、彼の足は止まらなかった。

腕の中で女主人公の二の腕を伝って流れた血が、彼の衣の前合わせまで赤く染めた。

 

 

 

*

 

 

 

村はずれが見えると、追跡の気配が少しずつ遠のいた。

範規は家の前に着いてから、ようやく女主人公を慎重に下ろした。

驚いた使用人たちの悲鳴に、金有形と丹二が飛び出してきた。

 

"お嬢さん! 一体これはどういうことだ!"

 

人々は気を失った女主人公を急いで部屋の中へ運んだ。

その後ろ姿が完全に消えるのを見届けてから、ようやく範規の膝が力なく折れた。

 

"…お客さま!"

 

丹二の切迫した叫びに人々が振り向いた時、彼の衣の前合わせはすでに赤く濡れていた。

もう塞がったと思っていた昔の傷が、その間にまた開き、血を流していた。

 

倒れ込む彼を支えようとする手の中で、襟元がはだけ、玉佩がすっと滑り出た。

 

それを拾い上げた金有形の手が、瞬時に氷のように固まった。

 

見覚えのある文様だった。十年前、決して忘れられなかったあの日の文様だった。

まさか、という考えが頭をよぎったが、最後まで続けることはできなかった。

震える指先で玉佩を握りしめたまま、金有形は担がれていく男の顔をもう一度見つめた。

 

 

 

部屋へ運ばれた女主人公は、丹二が傷を拭ってくれている間じゅう、ぼんやりしたり意識を取り戻したりしていた。

朦朧とする中でも、耳元にはさっき彼が叫んだ切迫した声だけが残っていた。

 

"…少しだけ耐えてください。もうすぐです。"というその言葉が、ずっと耳に残っていた。

 

隣の部屋では医者を呼ぶ騒ぎが夜通し収まらなかった。

女主人公は、二人とも家に無事たどり着けたという安堵とともに、再び深い眠りへ沈んでいった。

腕から流れた血が多かったせいか熱が出始め、その夜以後、女主人公はなかなか目を開けられなかった。

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