
闇に沈んだ禁忌の区域、3区域の空気は肺をねじ切るようにむっとして冷たかった。
スビンは手袋をはめた手で銀短刀の柄を強く握った。
関節が白くなるほど力を込めたが、小刻みに震える指先まで隠すことはできなかった。
刃に刻まれた一族の紋章が鈍い月明かりを受けて冷たくきらめいた。
『お前は一族の恥だよ、スビナ。』 『いっそハンターの血を受け継がなければよかったのに。
『ただでさえ体ばかり大きくて体も使えないし、感応力も底辺なんだから。』
耳元をさまよう一族の年長者たちの冷たい声が、鞭のようにスビンの顎下を締めつけてきた。
由緒ある吸血鬼ハンターの家系、チェ家の唯一の失敗作。
スビンについた修飾語はいつもそうだった。同年代より頭一つは大きいすらりとした体格をしていながら、肝心の吸血鬼の気配を察知する力も、彼らを斬り捨てる身体能力も散々だった。
今夜、この危険区域に一人で足を踏み入れたのは、ただの意地だった。
3区域に棲む下級吸血鬼の核を一つでも持ち帰れれば、少なくとも『飯の種にもならない獣』扱いは免れられると思った。
だが、その考えがどれほど傲慢で愚かだったかを悟るのに、そう長い時間はかからなかった。
ささっ。
森の奥で枝が折れる音がした。スビンは慌てて銀短刀を構え、息を殺した。
『下級か?』
瞳を開いて闇の中をうかがっていたスビンの体が、その瞬間、石のように固まった。
風が止まり、森全体の息遣いが消えた。下級吸血鬼が放つ血生臭さとは次元の違う、心地よい薔薇の香りと濃い夕焼けの匂い、そして全身の血を凍らせるような圧倒的な重圧が空気を満たした。
濃い闇の中からゆっくり歩み出てきたのは、奇怪な怪物ではなかった。
真っ白な肌に赤く輝く瞳。乱れのない端正な装いと、ゆるやかに弧を描く唇。月明かりを浴びて歩いてくる男の非現実的なビジュアルは、奇怪さではなく、背筋の凍る美しさそのものだった。
純血。夜の支配者。ハンターたちの書物でしか見たことのない最上位捕食者、チェ・ヨンジュンだった。
「...あ。」
スビンの唇の間から、息の抜けるような音が漏れた。頭の中が真っ白に空っぽになった。
逃げなければ。今すぐ、振り返りもせずに走って逃げなければならなかった。
だが脚から力が抜け、指一本さえ動かせなかった。圧倒的な捕食者を前にした獲物の、本能的な恐怖だった。
ヨンジュンは、面白い見世物でも見つけたかのように、長く優雅な足取りでスビンの前まで近づいてきた。
二人の身長がほぼ同じだったため、ヨンジュンの赤い瞳はスビンの目をまっすぐ見据えた。
「虎を捕まえに来たのかと思ったのに。」
ヨンジュンが気だるげな声でつぶやいた。その低く響く声だけで、スビンの耳元には総毛立つような鳥肌が立った。
「迷子の鹿が一頭、立ってるだけだな。」
ヨンジュンの視線が、震えるスビンの手に握られた銀短刀へ向かった。
嘲りさえ混じらない、純粋な好奇心の宿った眼差しだった。
「その小さなナイフで俺を斬るつもり?」
「...お、来ないで。」
スビンはどうにか声を絞り出したが、震えを隠すことはできなかった。ヨンジュンはその様子が、刺激的なほど哀れで可愛いとでも言うように、くす、と声を立てて笑った。
次の瞬間、ヨンジュンの姿が残像のように消えた。
「ひっ...!」
一度まばたきするより先に、ヨンジュンはすでにスビンの顎下までぴたりと迫っていた。冷たい指がスビンのうなじをやわらかく包み込む。その温もりのない感触に、スビンの体は痙攣するように固まった。
ヨンジュンはもう片方の手で、スビンが握っていた銀短刀をあまりにもあっさり奪い取り、床へ放り投げた。
カラン-という音とともに、スビンの最後の武器は闇の中へ消えた。
「手がこんなに震えてて、剣なんて振れるのか?」
ヨンジュンは首を傾げながら、スビンのうなじに鼻先を寄せた。
深く息を吸い込む音がスビンの耳を打った。
スビンの耳の先からうなじまで、あっという間に朱色に染まっていった。恐怖と見知らぬ刺激が混ざった、苦しい反射反応だった。
「変だな。」
ヨンジュンの指がスビンの耳たぶをかすめ、やがて赤く熱を帯びたうなじをするりと撫で下ろした。
「ハンターどもの血からは、いつもじめじめした銀の臭いしかしないのに。」 「......!」
「お前からは、どうしてこんなに甘い匂いがするんだ?」
ヨンジュンの赤い瞳が深く沈んだ。気だるげだった態度が一瞬で捕食者の執着へと変わる瞬間だった。ヨンジュンは、血を欲する吸血鬼の本能ではなく、この大きく従順な人間そのものを所有したいという妙な欲望を覚えた。
「拾った、今夜は。」
ヨンジュンがスビンの耳元で低くささやいた。冷たく甘い吐息が耳たぶをくすぐった。
「お前、俺の屋敷へ行こう。」
スビンが拒絶の言葉を口にするより先に、ヨンジュンの強い腕がスビンの腰を絡め取った。視界がぐるりと回り、目の前が遠のいた。
一族の恥として生きてきたチェ・スビンの人生が、夜の支配者の腕の中で根こそぎ揺らぎ始めた瞬間だった。
