寝室の中を満たしていた魔力の嵐が静まり、濃い静寂だけが床に沈んだ。
スビンはゆっくりとまぶたを上げ、世界を見つめた。
すべてが以前とは違っていた。ひとつの塵が宙を漂う軌跡、扉の外で息を殺している執事のかすかな心臓の音、そして指先を伝って流れる見知らぬ、しかも圧倒的な力の感覚まで。全ての感覚が鋭く張り詰めていた。
そしてその視線の先には、自分を抱きしめたまま、呆然と息を吐いているヨンジュンがいた。
「…ヨンジュンさん?」
スビンの口から出た声は、どこか低く、妙な響きを帯びていた。
ヨンジュンは震える手でスビンの頬を包み込んだ。スビンの赤くなった瞳が、濃い純血の輝きで静かに揺れていた。
「…感じる? スビン」
ヨンジュンは涙の跡の残る顔で低く尋ねた。
スビンは自分の手を見下ろした。家でいつも『鈍くて愚かだ』と叱られていた手だった。
だが今は、指をほんの少し動かすだけで空気の流れを制御できるほど強大な魔力が血管の中を駆け巡っていた。人間としての傷は跡形もなく消えていた。
「僕が…ヴァンパイアになったんですか?」
「…うん。僕の血を飲んだから。君を生かす方法はこれしかなかった」
ヨンジュンは、スビンが自分を恨むかもしれないと思って、指先を震わせた。
一生をハンターとして育ってきたスビンに、家があれほど憎んでいた捕食者の血を注ぎ込んだのだから。
しかしスビンは静かにヨンジュンの震える手を上から包み込んだ。
ヨンジュンの血が自分の体の中を流れているという事実が、二人を何よりも深く、断ち切れない永遠の輪で結びつけてくれたのだと、スビンは本能的に悟った。
「大丈夫です」
スビンが優しく笑ってみせた。
「僕を一度も受け入れてくれなかった家の人間として死ぬより…ヨンジュンさんのそばに永遠に残るほうが、ずっといいです」
ヨンジュンの瞳が大きく揺れた。
スビンはヨンジュンの首に腕を回し、深く抱きしめた。冷たい体温と冷たい体温が触れ合ったが、その中で感じられる温もりは何よりも熱かった。
数日後、屋敷はすっかり整えられた。
ヴァンパイアとして覚醒したスビンの適応力は驚くべきものだった。
ハンター時代から身につけていた戦闘感覚に純血の血が加わり、スビンの身体能力と魔力制御は家のどのベテランハンターよりも優れて発達した。『失敗作』という烙印は、ただハンターという枠の中に閉じ込められていただけだったのだ。
暗い夜、屋敷のテラスに立つスビンのそばへヨンジュンが近づき、重い外套を肩にかけてやった。
「考えごとでもしてるみたいだね」
「家がもうすぐ人を連れて来るでしょう」
スビンは遠く闇に沈んだ森を見つめながら、低くつぶやいた。
従兄をはじめとするハンターたちは追い払ったが、家の名誉を命よりも重んじる大人たちが、純血ヴァンパイアと通じ合った(しかもヴァンパイアになってしまった)スビンを放っておくはずがなかった。
「来させればいい」
ヨンジュンはスビンの腰を抱き寄せ、その肩に顎を乗せた。
「この屋敷を丸ごと吹き飛ばそうが、家全体を灰に変えようが…もう君は僕の完璧な半身だから。
誰も君に手出しはできない」
「ヨンジュンさんが先頭に立つ必要はありません」
スビンが振り向き、ヨンジュンの赤い目をまっすぐ見上げた。
スビンの瞳の奥からは、これまで見たことのない冷ややかで優雅な支配者の気品が漂っていた。
「これは、僕を捨てた家と、僕を『失敗作』と呼んだ者たちに、僕自身が下す最後の挨拶になるでしょう」
ヨンジュンは変わったスビンの眼差しに、低く感嘆の息を漏らした。
哀れで可愛いだけだった迷子の鹿が、いつの間にか自分と肩を並べる完璧な夜の捕食者へと生まれ変わっていた。
ヨンジュンはスビンの頬を撫でながら、気だるげに笑った。
「いいよ。君が舞台を整えるなら、僕は君の後ろを守る」
その時、屋敷の結界の外縁から、ハンター家の当主たちと精鋭集団が押し寄せる巨大な銀色の魔力の振動が感じられた。家との最後の全面戦争が迫っていた。
