私たちは線を越えないことにした
117話。テレルの恋人

sophie97
2026.08.12閲覧数 26
スペインで私が旅行した場所は
大学時代にバックパック旅行で来たバルセロナだった。
ガウディの建築物を見た記憶が今でも鮮明だ。
カラフルなタイルで作られたグエル公園の彫刻たち、
ガウディの死後もなお建設が続いている
サグラダ・ファミリア聖堂まで...
スペインに来たならぜひ見なければならない偉大な作品たち。
だからフンジさんにこの素敵な作品たちを
ぜひ見せたかった。
どれほど感嘆するか、内心期待しながら。
バルセロナについての情報をたっぷり検索しておいて
静かにまたベッドの中へ戻って眠った。
翌朝、目を覚ますやいなや
昨夜調べておいたバルセロナについての情報を
話してあげたくて口がむずむずした。
朝食としてフンジさんが作った
チャーハンを食べ終えた後、
私たちはテーブルに座った。
「フンジさん、私が私たちの旅行先として
どこを調べたと思いますか?」
「え? 俺、スペインで行ってみたい所があるんだけど...」
「どこですか? バルセロナじゃないんですか?
スペインまで来たのにガウディの建築物は見なきゃ!」
「あ... そこはあまりにも有名な場所だから...
俺はちょっと変わった所に行ってみたかったんだ。」
予想外のフンジさんの返事に
私は一瞬、気が抜けた。
「ジョンアさん。もしかして『テルエル』って場所、知ってる?」
「テルエル? いいえ。初めて聞く場所です。」
「テルエルの恋人たち、知らない?」
「知りません。それ、何ですか?」
「一度調べてみて。
ジョンアさんも気に入ると思うよ。」
「フンジさん、そうしないでバルセロナへ行きましょう。
そこでグエル公園とガウディ聖堂を見れば
びっくりしますよ。本当に!」
「ジョンアさんは行って見たものじゃないの?
それなのに、なんでまた行こうって言うの?」
「私は行ったけど... フンジさんは初めてでしょう。
すてきな場所だから
フンジさんにも行ってぜひ見てほしいんです。」
「じゃあ...
次はぜひバルセロナに一緒に行こう。
今回はテルエルに行ってね。」
「え... まさかその話ひとつのせいで
旅行先を決めたんですか?」
「13世紀に実際にあった話らしいよ。
ジョンアさんも行けば気に入ると思う。」
「私はフンジさんに
グエル公園を見せたいんです。」
「...俺の考えでは...
テルエルのほうが私たちに
もっと意味のある旅行先になると思う。」
私の気持ちを分かってくれない
彼に内心さみしさを覚えた。
「こんなに意見が合わなくて
どうやって一緒に旅行するんですか?」
これ以上話し合っていたら
気分を害しそうだった。
勢いよく立ち上がって
携帯とイヤホンをポケットに入れた。
「ジョンアさん。『怒っても家を飛び出さない』って覚えてないの?」
フンジさんが玄関のドアをふさいで立った。
「ちょっと外の空気を吸ってくるだけです。
喧嘩したくないから出るんです。」
「だめだよ。うちのルールでしょ。」
「一人でいたい時は尊重してくれるって言ったじゃないですか。」
「今は気分が悪いから
出て行こうとしてるんでしょ。」
私はそれ以上返事をせず
自分の部屋に入ってドアを閉めてしまった。
『人の気持ちも分からないくせに
また自分のことばかりだっていうのに...
そんな伝説は観光客を呼ぶために作ったもので
何がそんなに大事なの...?』
『昨夜あんなに一生懸命情報を調べておいたのに
それは聞きもしないで...』
私は不満な気持ちがひとつ、またひとつと積もりながら
涙が出そうになるのをなんとかこらえた。
なんだか今泣いたら私の負けみたいだと
思った。
腹立ちを静めようと音楽をかけた。
しばらくして、
ドアの下から白い紙がそっと入り込んできた。
『何... 仲直りしようってメモを書いたのかな?
子どもじゃないんだから... メモって何...』
何が書いてあるのか気になって
床に置かれたメモを拾い上げた。
[13世紀にあった出来事です。
テルエルに住む男女が恋に落ちたそうです。
ところが男はあまりにも貧しくて
女の父親が結婚に反対しました。
男は5年以内に金持ちになって戻ると
約束して戦場へ向かいます。
しかし5年が過ぎても戻らないので
女は結局ほかの男と結婚することになります。
ところが...
運命のいたずらのように結婚した直後に男が戻ってきて
結婚したと知った男は
女に最後のキスをしてほしいと頼みます。
すでに別の男の妻になっていた女は断り
そのショックで男は死んでしまいます。
葬儀で女は
死んだ男に最後のキスをしたあと
自分も息を引き取るという話です。
スペインに来る前にあなたと旅行したくて
調べました。
以前『テルエルの恋人たち』という話を
聞いたことがあるんです。
あなたと長く記憶に残る旅行をしたかったんです。]
『あ... だからここに行きたいって言ったのか...』
彼の本心に胸が熱くなった。
「一人の時間が必要なんです。」 <118話中から>