私たちは線を越えないことにした
70話。1108号 (2)

sophie97
2026.07.21閲覧数 18
1108号室を訪ねるために、
私は心を込めてメイクと髪を整えた。
持ってきた服の中で一番きれいな服を選んで着た。
まるで...
元彼の結婚式に行くような気分とでもいうか。
きちんと着飾ってみると、
いざその部屋へ行く勇気が出なかった。
最初は興奮して何も考えられなかったけれど、
もう恋人でも、彼女でもない私が
ホテルの部屋まで行って、あの女が誰なのか聞く
資格なんてあるだろうか。
ベッドに腰掛けて
しばらく悩んだ。
『そう... どう考えてもおかしいよね。
やめよう...』
こう考えて、
せっかくきれいに着たのだから
外で夕食を食べて帰ることにした。
そのままバッグだけ手に取って
1階へ降りた。
ホテルのロビーに向かって歩いていると、
誰かが後ろから私の腕をつかんだ。
「あ...」
驚きすぎて思わず声を上げた。
振り向くと
フンジさんだった。
「あんなにお願いしたのに...
そんなに聞き入れてもらうのが難しいお願いですか?」
「フンジさん...」
私は真っ先に腕を引っ込めた。
撮影で来たと言っていたから、
きっとスタッフたちもこのホテルに泊まっているはずだ。
「ここでそんなふうにしないで、他の場所へ行ってください。
いや、そうじゃなくて、先に上がってください。
ついていきます。
1108号室って言いましたよね?」
「一緒に上がりましょう。」
「フンジさん」
私は周りが気になって
低い声で言った。
「先に上がってください。
ちゃんと行きます。
人に見られたら困るからです」
彼はきっぱりした表情で言った。
「上がってこなければ
ここまで降りてきて名前を呼びますよ。
勝手にしてください。」
「わかりました。早く行ってください。」
私は彼を先に行かせてから
11階へ上がるためにエレベーターを待った。
『なんで自分が怒るの...
私は行くなんて一言も言ってないのに』
1108号室の前に立って
ベルを押そうとした瞬間、
ドアが開き、
彼が私の腕をつかんで
中へ引き寄せた。
ドアが閉まる瞬間、
彼はぎゅっと抱きしめてキスを浴びせた。
しばらくの間
あまりにも慣れ親しんだ感触に、
甘い口づけに我を忘れていた。
まるで時間が逆戻りしたみたいだった。
するとふいに我に返った。
彼を無理やり引き離して言った。
「フンジさん、やめてください。」
「ちょっとだけ... どれだけ会いたかったと思ってるんですか。
このくらいは許してください。」
彼がまた近づいてこようとした。
私は一歩後ろへ下がった。
「だめです。
もう私たち、何の関係もないじゃないですか。」
「ここはパリですよ。
昔の恋人とキスも、一夜だけの関係もできる場所なんです。」
私はさっき昼に
フンジさんの腕に絡みついていた女のことを思い出した。
だから彼の態度にいっそう腹が立った。
「は... それで何ですか?
今日私と一晩でも過ごすつもりなんですか?」
「いや... そういうことです...
なんでそんなに怒るんですか...」
「さっき昼にあの女が...
もういいです。
なんで呼んだんですか?
上がってきたんですから話してください。今。」
「私たち...最後に会ってから半年以上たってます。
さっきはスタッフがいたし、
実はあまりに動揺して、口を開くこともできなかったんです。
ここであなたに会うなんて夢にも思いませんでした。
人に押されて歩いていたら我に返って
またアイスクリーム店に戻ったんです。
行く途中で、もしあなたがもうそこを出ていたらと
どれだけ心配したと思いますか?」
『ここで私に会うとも思わなかったから
あんなに平気な顔で
ほかの女と腕を組んで歩いていたんでしょう。
なんであの女の話はしないの?
私はあの女の話を聞きに来たのに...』
「他に言いたいことはありませんか?」
「会いたかったんです...」
「いや...そういうことじゃなくて。
私に他に言うこと、ないんですか?」
フンジさんは不思議そうな目で私を見つめた。
本当にわからないという顔だった。
私は自分からは言えず、
どうか彼が私の気持ちに気づいて
すっきり説明してくれればと思った。
しばらく沈黙が流れ、
もどかしさに耐えられなくなった私は
ついに口を開いた。
「パク・フンジ!!
さっき腕を組んでたあの女、誰なの?
誰なんだよ、なんでお前のことをお兄ちゃんって呼ぶの!!」
「誰が誰に嫉妬の化身だって?」 <71話より>