私たちは線を越えないことにした
75話。新しい縁

sophie97
2026.07.24閲覧数 12
食事を簡単に済ませて、
電車に乗る前にフンジさんにメールを送った。
今じゃなければ
結局何も言えなくなる気がしたから。
彼の部屋の前にメモを残しておこうかとも考えたが、
スタッフもそのホテルに泊まっているので
もし他の人に先に見られたらと思うと心配になった。
[タイトル: 返信しなくてもいいです。
フンジさん...
今日の約束を守れなくてごめんなさい。
数か月ぶりにあなたに会えてすごくうれしかったです。
私はそのあいだずっと、あなたへの気持ちが
だいぶ整理できたと思っていたけれど
私の勘違いだったのか、
それとも全部整理しきる前まで
会うべきじゃなかったのか...
たぶん後者だと思います。
お互い気持ちの整理がつくまで連絡しないようにしましょう。
これからメールも確認しないつもりです。
私たちは...それぞれ元気に過ごして、
また今度...
お互いに会っても何とも思わなくなったら、
そのとき会いましょう.]
メールを送って、ラップトップを閉じた。
そのとき、誰かが韓国語で私に話しかけた。
「少しお時間いただいてもいいですか?」
顔を上げて見ると、
さっきから私を見ているようで気になっていた
まさにその男だった。
「何のご用ですか?」
「もしかして...昨日、私たち会いましたか?」
「さあ...私は覚えがないんですが...」
「アイスクリーム店の前で...」
静かに記憶をたどってみると、
フンジさんと会ってぼんやり立っていたときに
誰かに押されて出ていく拍子に、バランスを崩したことがあった。
そのとき私を支えてくれた人がいたが
はっきり顔を見たわけではないものの、
その人かもしれなかった。
「もしかして昨日、私を支えてくださった方ですか?」
「そうですよね?
昨日そのあとも長いことベンチに座っていらしたので
どこか具合が悪いのかと思いました。
もしお手伝いが必要かと思って
近くに少し残っていました。」
「本当ですか? そこまで気にかけてくださっていたなんて...
ありがとうございます。」
私は立ち上がって、彼のために向かいの椅子を引いた。
感謝の気持ちで、せめてコーヒーでもおごろうと思った。
彼が座りながら言った。
「ありがとうございます。
ご旅行中ですか?」
「はい...ルーアン行きの電車を待っています。
よろしければコーヒー、飲みますか?
私も食事を済ませて、飲もうと思っていたところです。」
「いいですね。じゃあ私が注文します。」
彼はすぐに店員にコーヒーを2杯注文した。
「韓国から来られたんですよね?」
「私は...今はスペインに滞在しています。」
「あ...本当ですか?
私は子どもの頃にフランスへ移住してきました。
パリに住んでいます。
休暇でルーアンへ行く電車を待っているんです。」
「私と同じところへ行かれるんですね。
僕はルーアンは初めてなんですが、行ったことありますか?」
「いいえ...私も初めてです。」
そのとき、コーヒーが来た。
「昨日も助けていただいたし
大したものじゃないですけど、コーヒーは私がおごります。」
「いえ...そこまでしていただく必要はないのですが。
では...
ルーアンに着いたら一緒に昼ごはんを食べましょう。
フランスへ旅行に来られた歓迎の意味で
私がおもてなしします。」
「え? いいえ..」
私は戸惑って、手まで振った。
「あまりにもきっぱり断られるので
私、気まずいですね。ㅎ
僕のことが嫌でそういうわけではないですよね?」
彼の気まずそうな笑いに
私はさらに申し訳なくなった。
「いえ...そういうことじゃなくて...」
「どうせ一人で行こうと思っていた店なんです。
一緒なら僕もあまり退屈しないと思って。
事前に調べておいた有名な店があるんですよ。」
「あ...はい...」
断ることも、断らないこともできないこういう状況が
私はいつも戸惑って、居心地が悪い。
彼と軽くコーヒーを飲み、
駅のホームまで一緒に歩いて行った。
子どもの頃にフランスへ移住して暮らしていたが
両親は最近韓国へ逆移住し、
パリに一人で残って暮らしていると言っていた。
「お仕事を伺ってもいいですか?」
「私は...絵を描いています。」
「あ...」
「大学で講義もしています。」
「はい...」
「それで...
表情を見ると
感情がそのまま表に出る方みたいですね」
「え?」
「昨日もそうだし、今日もそうだし...
とても悲しそうに見えたので。」
昨日ベンチに座っていらしたとき
どなたかと少し話していらっしゃいましたけど...」
私は何も答えられず、不安な気持ちで
その男を見た。
『もしかしてフンジさんに気づいたのかな...』
「黙って見ていても
表情で話しているみたいです。
ちょっと落ち着いて見てください。
心の中で今こう思っているでしょう?
この男、今私にナンパしてるのか?
どうやって振り切ろう?」
「え? いえ。そんなこと..」
「はは...冗談です。」
朗らかに笑う彼の様子に、私も少し緊張がほぐれた。
彼と同じ電車に乗ることになったので
お互いチケットを確認してみると、
私の隣の席だった。
「わあ...これは普通の縁じゃないですね。
ですよね?」
彼は不思議そうに
笑いながら私の反応を待っていた。
「そうですね...」
実は私は彼と隣席かどうかなんて
気にならなかった。
パリで撮影しているはずのフンジさんのことを思うと
何も目に入らなかった。
電車の中で
私は彼に話しかけられたくなくて
本を取り出して開き、
彼は私の気持ちを察したのか静かに音楽を聴きながら
ルーアンへ向かった。
ルーアンに到着後、
彼があらかじめ借りておいた車に一緒に乗って、
昼食のために移動した。
昼食を食べている間、
彼は最近k-popがフランスでどれだけホットかを
肌で感じたと言いながら、いろいろなエピソードを話した。
「だから僕の恋愛はすごく簡単になりました。
フランス人女性に韓国人男性だと言うと
まずプラス点が入って、
歌まで歌えば列ができます。ㅎㅎ"
私は水を飲んでいて笑いをこらえきれず、
彼に向かって水を吹き出した。
「ぶっ!!! あっ..ごめんなさい。ごめんなさい。
これで拭いてください。」
「あ...ちょうど暑かったので助かりました。
おかげで暑さがすっかり飛びました。ㅎㅎ"
「すみません。どうしよう...」
「大丈夫です。
おかげで笑う顔も見られましたし。」
彼の一言で、気持ちがずっと楽になるのを感じた。
「おいしい昼ごはん、本当にごちそうさまでした。
ありがとうございます。」
「こちらこそ、一人で寂しく食べるところだったのに
楽しい食事でした。」
彼は少し黙ってから、また言葉を続けた。
「ホテルまでお送りします。
どこに泊まっていますか?」
「私と会ってみるのはどうですか?
あの人を忘れさせてあげます。" <76話より>