私たちは線を越えないことにした
76話。ルアン

sophie97
2026.07.24閲覧数 12
「あ...実は...」
ルアンは明日から予定があったんです。
明日泊まるホテルに
今夜予約できるか確認してみないといけないと思います。」
彼は私にホテルの名前を聞くと、
自分の携帯のアプリで調べてくれた。
「よかったです。
私が泊まるホテルから遠くないので乗ってください。
遠回りでもないですから、遠慮しないでくださいね。
行きながら予約すればいいじゃないですか。」
「ここまでお世話になるのはちょっと...
私が自分で行きます。」
「両親にこの話をしたら、私、すごく怒られますよ。
フランスに来た韓国人を助けもせず、
女の人を一人で置いて自分だけ行ったって言ったら。」
彼は少しのあいだ私の顔を見つめたあと
言葉を続けた。
「あっ!! まだ心の中で
この人を信じていいのかな?
私をどこかに拉致する気じゃないかな?
こう思ってるんでしょう?」
彼の冗談に笑いがこぼれた。
『フランスではこんなくだらない冗談をたくさん言うのかな...』
彼がホテルの前まで送ってくれたおかげで
楽に来ることができた。
「ありがとうございます...
おかげでお昼ご飯もちゃんと食べられたし、楽に来られました。」
「じゃあ...
明日、ルアンを一緒に回ってみませんか?」
「一緒に?」
「気が沈んでいる時に一人でいると、もっと落ち込んでしまいます。
私が笑わせてあげますよ。
実は...
本音を言うと
一人旅よりは楽しそうだ...」
正直な彼の態度に
最初に抱いていた警戒心はかなり崩れたけれど、
知らない人とこんなふうに旅をするのは
あまり気が進まなかった。
「そうですね...」
でも、
一人で残ったら
一日中フンジさんのことばかり考えてしまいそうだった。
「いいですよ。
明日9時までにここで会いましょう。
私、携帯がないので連絡する方法がありません。」
「SNSは?」
「ありません。事情があってそうなりました。」
「あ...彼氏と別れて全部やめちゃったんですね。」
私が驚いた顔で見つめると
彼は傲慢そうな表情で言った。
「さっき言ったじゃないですか。
顔に全部書いてあるって。」
気まずくて、顔が赤くなるのがわかった。
『フンジさんに首を絞められる姿を見られた時も
こんなふうに顔が赤くなってたのに...』
「じゃあ明日9時までロビーで会いましょう。
それと、名前くらいは聞いてもいいですよね?」
「あ..はい..
そういえば、お名前も知りませんでしたね。
私はユジョンアといいます。」
「私はジュリアンです。
また明日!!」
翌朝、
9時ごろロビーに降りてみると
彼はすでに来て待っていた。
「昨日はゆっくり休めましたか?」
「はい...昨日はあまり出かけたい気分じゃなかったので
ホテルで休みました。
「もしかして、今日行きたかった場所はありましたか?」
「いくつかメモしておいた場所がありました。」
携帯のメモ帳画面を開いて彼に見せた。
「じゃあグロ・オルロージュから始めて
ルアン大聖堂に行ってみましょうか?」
「はい。」
「朝食は食べましたか?」
「いいえ。まだ...」
「車にサンドイッチとコーヒーがあります。
それで簡単に朝食にしましょう。」
その言葉を聞くと、気分が妙だった。
いつも私がフンジさんの世話をしながら言っていた言葉だったのに、
今回は私がその言葉を聞いていた。
ルアンでの二日目もジュリアンのおかげで
楽で、楽しい時間を過ごせた。
彼へのお礼の意味も込めて、
夕食を提案した。
「ただ...一人で歩いていたら退屈しそうだから
一緒に行こうと言っただけなのに
ちょっと大げさなおもてなしを受けている気がするんですが?」
「そんなことないですよ...
ジュリアンのおかげで...やっと本当に旅行に来た気がします。
それに、今日はルアンでの最後の夜ですし。」
「あ...そうですね。
今日は私たちの旅の最後の夜でしたね。
夕食も一緒にしないとですね。」
私たちは私が泊まるホテルのレストランで
夕食をとり、ワインを一杯添えた。
一日中歩いて疲れていたせいか、
すぐに酔いが回ってきた。
夕食を終えて、
彼を見送るためにロビーを出た。
「ジュリアンのおかげで楽しい旅行でした。
ありがとうございます。」
彼に挨拶しようとして
後ろを振り向いた瞬間、バランスを崩した。
後ろからついてきた彼が、もう一度私を支えてくれた。
「あ...ごめんなさい..
そんなに飲んだ気もしないのに...」
彼は揺れる私を支えたまま
しばらく歩みを止めた。
彼は何も言わずに私の顔を見つめると、
そっと口づけた。
その瞬間、夢みたいでもあり、
現実みたいでもあり、区別がつかなかった。
ジュリアンが言った。
「僕と付き合ってみませんか?
あの人を忘れさせてあげます。」
私はぼんやりと彼を見つめた。
「今の君の言葉を信じろっていうの?」 <77話より>