僕たちは一線を越えないことにした(シーズン2)

30話。エレベーターの中で



私は手を引こうと力を込めた。





でも彼は私の手を離さなかった。

むしろ自分の頬にそっと当てた。




彼の熱い涙が私の手の甲を伝って流れた。




「このまま...またスペインへ行きましょうか?」





その言葉を聞いた瞬間、

胸が詰まった。





「フンジさん...時間は戻せないんです。」





「僕が、私たちの関係を壊してしまったんです。」




彼の声が震えた。





「毎日がつらくて...気が狂いそうなんです。」





「起きてみてください。

 蜂蜜水を作ってあげますから。」





彼の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。




私は手を引こうとした。

でも逆に彼は私を引き寄せて座らせた。





「ちょっと抱きしめてくれませんか?」





私は彼をじっと見つめた。

そしてゆっくり彼を抱きしめた。





彼の小さな震えが

そのまま伝わってきた。




胸が痛んだ。




彼は私の肩にもたれて

しばらく黙っていた。




そしていつの間にか眠ってしまったのか

寝息が深くなった。





私は彼をそっとソファに寝かせた。

頬を伝った涙を手の甲で

拭ってあげた。





'この人が涙を流すと

 どうしてこんなに私の心が引き裂かれるんだろう...'





私は眠っている姿を見つめてから

車の鍵を持って出た。





駐車場へ行って車を出し、

キム代表の家へ向かった。





真夜中に訪ねてきた私を見て

キム代表は目を丸くしていた。





「ジョンア。こんな時間にどうしたんだ?

 何かあったのか?」





「...フンジさんがお酒に酔って...

 うちに来たの。

 今ソファで寝てるから、

 テヒョンさんが家まで連れていって。」






「あ...そうだったのか。
 
 わかった。ちょっとここにいて。

 送ってきてあげるよ。」





私は1時間ほどソファに

身じろぎもせず座っていた。





キム代表が戻ってきた。


彼が入ってくる音に

玄関の方へ行った。





「かなり酔ってたよ...

 でも...

 そのまま一晩泊めずに、なんで俺のところに来たんだ?」





「テヒョンさんに嘘をつきたくなくて...」




彼はしばらく私を見つめた。

そして私をそっと引き寄せて抱きしめた。





「ありがとう...」





「ちゃんと送っていけた?」





「うん...」





「疲れてるだろうから早く寝て。

 私はもう行くよ。」





「車の鍵、貸して。

 送っていくよ。」





「だめ。

 明日も出勤しなきゃいけないのに...

 早く寝て。

 私、車で来たんだから。」





「こんな遅い時間に一人で帰れって?」

 早く車の鍵を貸して。」





「一人で帰るよ。」

「テヒョンさんが早く寝てくれないと、私が落ち着かない。
 
 お願い...ね?」





「君が一人で行くと、俺が不安なんだ。」





「着いたらすぐメッセージ送るから。」





「....まだ落ち着かない...」





「私を安心させて...」





「わかった。着いたらすぐメッセージを送って。

 いいね?」





「うん。心配しないで。」





家に戻ってキム代表にメッセージを送った後、

フンジさんが横になっていたソファに座った。



彼の体温がまだ残っているようだった。




知らないうちに涙が出た。




'私に見つからないで...

 嘘をつかないで...

 揺れないで...'




私はその場にそのまま座って

しばらくのあいだ泣いていた。



彼が恨めしかった。





ろくに眠れないまま

朝、カフェへ向かう道だった。

映画会社から午前中に

少し来てほしいと連絡を受けた。





開店準備だけしておいて、

大急ぎで映画会社へ向かった。





急に修正された台本を受け取り

エレベーターを待っていた。





エレベーターの扉が開き、


一瞬乗るべきか迷った。





中にはフンジさんとマネージャーが乗っていた。

マネージャーがいるので避けるのも微妙だった。



軽く会釈して中に入った。

次の階で人がぞろぞろ乗ってきて

私がフンジさんの方へぐっと寄る形になった。




その時、



突然フンジさんが私の手を取って指を絡めた。


一瞬、驚いて戸惑った。


でも心臓が抑えきれないほど速く鳴った。




静かなエレベーターの中で私の心臓の音が

ほかの人に、

特にフンジさんに聞こえるんじゃないかと心配になった。




静かで狭い空間で手を引き抜くのも難しかった。




ほかの人に気づかれないかと

むしろ平気なふりをして

じっとしているしかなかった。




緊張のせいで

知らないうちに唇を噛んでいた。




手のひらに汗をかいた。




1階になるとほかの人たちと一緒に

フンジさんとマネージャーが降りた。





全員が降りて私だけが残ると、

やっと息ができて

足に力が入らなくなった。




私はそのままへたり込んでしまった。





「熱愛報道の記事、見た?」 <31話より>


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