僕たちは一線を越えないことにした(シーズン2)
第44話. 予想外の出会い

sophie97
2026.09.13閲覧数 102
彼を見た瞬間
慌てて顔を前に向けた。
でも彼も私の動きに気づいたのか
すぐにこちらを見た。
「チョンアさん!」
「はぁ...」
彼はためらいもせず
私の隣の席に移って座った。
「ひとりで来たんですか?」
「はい...」
「ちょっとこっち見て。」
私はしぶしぶ顔を向けて彼を見た。
「顔、どうしてそんなに青白いんですか
何かあったんですか?」
「フンジさん。ただ、私たちは...
別々に映画を見ましょう。
あまり話したくないんです...」
私はまたスクリーンのほうへ視線を向けた。
それでも横から感じる視線は
なかなか消えなかった。
「代表さんと...」
「別れました。」
「あ...」
そこで彼はようやく前方に顔を向けた。
フンジさんが隣に座っているせいで
映画の内容が少しも
頭に入ってこなかった。
このまま出て行こうかとも思ったけれど、
彼を避けているように見られたくはなかった。
『彼はどうしてこの時間にこの映画を見に来たんだろう?
それに、どうしてひとりなんだろう?
まだ誰かと会っているわけじゃないのかな?』
ひとりでそんなふうに次々と考えているうちに
映画はいつの間にか終わり
エンドロールが流れていた。
「気をつけて帰ってください。」
私は先に彼に挨拶して
席を立った。
彼は静かに私のあとを追って出てきた。
1階で降りる私を
ついて降りながら尋ねた。
「車は?」
「歩いて来ました。」
「送りますよ。」
「大丈夫です。ただ歩いて帰ります。」
彼は私の腕をつかんで止めた。
「ちょっと待って!!
乗っていってください。もう夜遅いんです。」
彼と押し問答する気にはなれなかった。
そんな力も、気力もなかった。
黙って彼について地下駐車場へ降りた。
彼が助手席のドアを開けてくれた。
車に乗り込んでシートベルトを締めると
女性用のヘアバンドが目に入った。
その瞬間、力が抜けるような感じがした。
私はそのヘアバンドから
目を離せなかった。
彼は私の視線を追うと
ヘアバンドを拾い上げた。
そして慌てて
収納ボックスの中に入れてしまった。
「代表さんとは...どうして...」
「そうなったんです。」
「だからこんなにつらそうに見えるんですか?
代表さんが何か悪いことをしたんですか?」
「ただ... 私とは縁がなかったんでしょうね...」
彼の顔は見なかったけれど
私を気の毒に思っているのが伝わってきた。
手を上げたり下ろしたりしながら
どうしていいかわからず困っている様子が見えた。
しばらく迷って、私が聞いた。
「フンジさんは...どうですか?
元気にしてますか?」
実は私は彼の動画やニュースは
わざわざ探して見なくなってからずいぶん経っていた。
彼がどうしているのかさえ
知らずに過ごしていた。
私が脚色作業に参加した映画に
フンジさんが主人公として出演してからの
作品活動は知らなかった。
「僕は...」
「彼女ができたみたいですね?」
「少し前に。
告白されたんですが...
いい子みたいで
付き合ってみています。」
「フンジさんは相変わらず人気者ですね..
女優さんたちにはいつも先に告白されて。」
私の冗談に彼はふっと笑った。
「出発しないんですか?」
「あ... はい。出発します。」
アパートの正門の前に着いた。
「チョンアさん...」
「乗せてくれてありがとう。
運転気をつけて帰ってください。」
彼は降りようとする私の腕をつかんだ。
「チョンアさん!ちょっと待って!
明日時間ありますか?
少し話しましょう。
今日はもう遅いですから。
明日の夜、僕がカフェに行きます。」
「私たちに... 話すことなんてまだありますか?」
「少しだけでいいんです。」
「わかりました。
じゃあ、また明日。」
翌日の夜、
チソンさんが退勤して
私は残って仕事をしていた。
そのときフンジさんのメッセージが届いた。
[カフェの前に着きました。]
私はしばらく画面を見つめてから
席を立った。
ドアを開けると
彼がカフェの中に入ってきた。
「座って。コーヒーで...いいですか?」
「はい...」
私は彼の前にコーヒーを一杯置いた。
「夜なのでデカフェです。」
「ありがとうございます。」
彼の向かいに座った。
彼はゆっくりコーヒーをひと口飲んだ。
私は彼が先に口を開くのを待った。
彼はカップを置き
しばらくためらってからゆっくり口を開いた。
「チョンアさん。そんなの無茶だと思うかもしれませんが...
僕の英語の授業をまたやってもらえませんか?」
「...」
「まだ僕の顔を見るのも嫌でたまらない、というわけじゃないなら...」
「フンジさんはもう答えをわかってるじゃないですか。
無茶だってこと。
会社に言えばいい先生をつけてくれるのに
どうしてわざわざ私にこんなお願いをするんですか?」
「フンジさんが彼女と別れたとき
保険みたいにそばに置いておこうってことですか?」
「いや、何を言ってるんですか?」
「じゃあ何ですか?
私がテヒョンさんと別れたからって
今度はまた私をそばに置いておきたいんですか?」
彼はもう我慢できないとでもいうように
勢いよく立ち上がった。
「そういうことじゃないってば!」
彼の声が
カフェの中に響いた。
「それでもいいから
あなたをずっと見ていたいんです。
それでいいですか?!!」
「何かあったんじゃないかって心配してたんです。」 <45話より>