「……その人に手を出した瞬間。」
ヨンジュンは銃口をボスに向けたまま、ゆっくりと引き金に指をかけた。
「今度は俺があなたを殺します。」

倉庫の中は、息づかいすら聞こえないほど静まり返っていた。
ボスはヨンジュンをしばらく見つめてから、鼻で笑った。
「たった一人のために、俺に銃を向けるのか。」
「……」
「お前が?」
ヨンジュンは答えなかった。
その沈黙こそ、かえって確かな答えだった。
ボスは手を上げ、組員たちを制した。
「みんな銃を下ろせ。」
「ボス!」
「下ろせと言った。」
組員たちはためらいながら銃を下ろした。
ボスはゆっくりヨンジュンの前へ歩いてきた。
「15年。」
低く重い声が響いた。
「17歳で入ってきて、今まで俺の命令を一度も逆らわなかったやつが。」
ボスの視線がヨンジュンの銃口へ向いた。
「結局、弱点ができたか。」
「弱点じゃありません。」
「なら。」
「……守りたい人です。」
その瞬間、空気が凍りついた。
組員たちのあいだで小さなどよめきが起きた。
ヨンジュンが誰かを守ると言ったのは初めてだった。
ボスは短く舌打ちした。
「失望した。」
ドン!
銃声が鳴り響いた。
だが弾丸はヨンジュンの肩をかすめて通り過ぎた。
ぐしゃっ。
赤い血が黒いシャツをあっという間に染めた。
ヨンジュンは一つも苦痛の声を漏らさなかった。
「次は心臓だ。」
ボスが冷たく言った。
「最後のチャンスをやる。」
「あの学生を連れてこい。」
「そうすれば、お前は見逃してやる。」
ヨンジュンは血の流れる肩を押さえたまま、かすかに笑った。
「……嫌です。」
そう言い切ると、ヨンジュンは発煙弾を一つ床に投げた。
パンッ!
たちまち白い煙が倉庫を埋め尽くした。
「捕まえろ!」
「逃がすな!」
混乱の中、ヨンジュンは秘密の通路へ身を投げた。
「ヒョン!」
ドアが開くやいなや、ボムギュが駆け寄ってきた。
ヨンジュンは片手で壁を支えに、やっと立っていた。
「……大丈夫。」
「どこが大丈夫なんですか!」
ボムギュの手に血がついた。
思ったより傷が深かった。
「撃たれたじゃないですか!」
「かすっただけだ。」
「こんなに血が出てるのに、何がかすっただけですか!」
ヨンジュンは平気なふりで笑ったが、顔色はどんどん青ざめていた。
ボムギュは震える手でヨンジュンを支えた。

「病院に行かなきゃ。」
「行けない。」
「なんでですか?」
「病院の記録だけでも残ったら終わりだ。」
ボムギュは唇を噛んだ。
もっともな話だった。
病院に行った瞬間、組織に居場所を突き止められるかもしれない。
「じゃあ……」
「薬局。」
「え?」
「薬局くらいなら大丈夫だ。」
30分後。
ボムギュは帽子を深くかぶったまま、小さな薬局で応急処置用品を買って戻ってきた。
隠れ家のドアを開けると、ヨンジュンはソファに寄りかかって目を閉じていた。
「……ヒョン?」
返事はなかった。
ボムギュは慌てて近づいた。
「ヒョン!」
額に触れてみると、熱がひどかった。
銃創のせいか、冷や汗までかいていた。
「……ほんと、ばか。」
ボムギュはヨンジュンのシャツのボタンを一つずつ外した。
包帯を巻くには傷を見なければならない。
ところがシャツを脱がせた瞬間、手が止まった。
ヨンジュンの体じゅうに、古い傷跡が無数にあった。
刃物で切られた跡。
弾丸がかすめた痕。
火傷のような傷まで。
「……どれだけ。」
いったいどれほど危険な人生を送ってきたのだろう。
ボムギュは胸が苦しくなった。
「痛かっただろうな……」
眠ったヨンジュンは答えなかった。
ボムギュは慎重に傷を消毒した。
「う……」
眠りの中でヨンジュンが眉をひそめた。
「少しだけ我慢してください。」
ボムギュは傷を拭き取ったあと、新しい包帯をゆっくり巻いた。
指先が震えた。
少しでも余計に痛くしないように。
傷の手当てを終えて立ち上がろうとした、そのときだった。
ぴくっ。
誰かが手首をつかんだ。
「……ヒョン?」
寝ぼけていた。
ヨンジュンは目を閉じたまま、ボムギュの手首を離さなかった。
「行くな……」
とても小さな声だった。
ボムギュは驚いた目でヨンジュンを見つめた。
いつもの冷たく無表情な顔は、どこにもなかった。
傷と熱のせいか、子どものように不安そうだった。
「……行きません。」
ボムギュは小さく笑って、ベッドの横の床に座った。
「だから、手を離してください。」
それでもヨンジュンは手を離さなかった。
むしろ、少しだけ力を込めた。
ボムギュはため息をついて、そのまま壁にもたれて座った。
「……この人。」
最初は怖かった。
組員。
殺人者。
自分とはまったく違う世界の人。
でも今は……
自分を助けるために銃まで受けた人だった。
ボムギュは眠るヨンジュンをじっと見つめ、前髪をそっと整えてやった。
「……なんで俺を助けたんですか。」
返事はなかった。
窓の外には夕暮れが近づいていた。
そのとき。
ジーッ。
ヨンジュンの携帯がまた振動した。
画面には、差出人不明のメッセージが一通表示されていた。
〈学生を渡せば、お前は助けてやる。〉
そして続いた二通目のメッセージ。
〈断るなら……今度はまず学生の両親に会いに行く。〉
メッセージを読んだボムギュの顔から、一瞬で血の気が引いた。
もう危険なのは、自分だけではなかった。
