ドン!

廃工場に警察特殊部隊が突入すると、たちまち銃声がやんだ。
組員たちは狼狽した顔であたりを見回し、警察の警告放送が工場内に響き渡った。
「武器を捨てて投降しろ!」
「逃走すれば直ちに発砲する!」
混乱に乗じて、ボムギュは自分を捕まえていた組員の腕を力いっぱい振り払った。
「離せ!」
体がよろめいて床に倒れ込んだが、痛みも感じなかった。
ボムギュが真っ先に駆け寄ったのは、ヨンジュンのいる場所だった。
「ヒョン!」
ヨンジュンは崩れた鉄の柱に体を預けていた。
すでに肩から流れた赤い血が包帯をぐっしょり濡らしており、脇腹には弾丸がかすめた痕まで残っていた。
息を吐くたびに顔色が青ざめていくのが目に見えた。
「……大丈夫ですか?」
ボムギュの震える声に、ヨンジュンは苦しそうに口角を上げた。
「大丈夫だ。」
「……また嘘。」
ボムギュは両手でヨンジュンの顔を包んだ。
指先に触れる肌は、冷たいほどに冷え切っていた。
「どうしていつも大丈夫だなんて言うんですか。」
「……」
「大丈夫じゃないじゃないですか。」
「死ぬところだったじゃないですか。」
ヨンジュンはしばらく目を閉じてから、ゆっくりとボムギュを見た。
「……それでも。」
低くかすれた声が続いた。
「今回も遅れなかっただろ。」
その一言に、ボムギュの目元が赤くなった。
自分を救うために、また命を懸けた。
その事実があまりにも申し訳なくて、同時にあまりにもありがたかった。

「ヒョンはほんと馬鹿です。」
「……知ってる。」
「僕ひとりを生かすために。」
「ヒョンの人生を全部捨てたじゃないですか。」
しばし沈黙が流れた。
ヨンジュンは血のついた手で、ボムギュの目尻をそっと拭ってやった。
「捨てたことなんてない。」
「……」
「初めから。」
ヨンジュンはかすかに笑った。
「自分の選択で生きただけだ。」
ボムギュはとうとうこらえていた涙をこぼした。
ヨンジュンをぎゅっと抱きしめたまま、子どものように泣いた。
「二度とあんなことしないでください。」
「……」
「お願いですから、ひとりで全部解決しようとしないで。」
「……すまない。」
その短い謝罪は、ヨンジュンにとってはあまりにも難しい言葉だった。
「チェ・ヨンジュン。」
背後から刑事の声が聞こえた。
ヨンジュンはゆっくりと体を起こした。
刑事は手錠を持ったまま、ヨンジュンの前に立った。
「あなたを組織犯罪、殺人、違法武器所持などの容疑で逮捕します。」
ボムギュは慌てて刑事をつかまえた。
「ちょっと待ってください!」
「ヒョンは僕を救ってくれました。」
「組織も壊したし、証拠も渡しました。」
「情状酌量してもらえませんか?」
刑事は静かに首を振った。
「その功績は、確かに評価されるでしょう。」
「ですが、犯した罪まで消えるわけではありません。」
ボムギュは何も言えなかった。
その言葉が間違っていなかったからだ。
ヨンジュンは静かに両手を差し出した。
カチャ。
冷たい手錠が手首を包んだ。
その姿を見つめるボムギュの心が崩れ落ちた。
ヨンジュンはパトカーに乗る前、最後にボムギュを見た。
「……ボムギュ。」
「……はい。」
「すまなかった。」
「……」
「それと。」
少しだけ言葉を切ったヨンジュンは、小さく笑った。
「生きていてくれて、ありがとう。」
パトカーのドアが閉まった。
ボムギュは遠ざかっていくパトカーを最後まで見つめた。
涙は止まらなかった。
3年後。
秋風がやさしく吹き込む午後。
刑務所の正門がゆっくりと開いた。
「チェ・ヨンジュンさん。」
「出所おめでとうございます。」
ヨンジュンは小さな紙袋をひとつ手にして、門の外へ歩き出した。
3年という時間は、思ったより長かった。
髪は少し短くなり、顔は以前よりやつれていたが、目だけは初めて穏やかだった。
そのときだった。
「ヒョン!」
聞き慣れた声がした。
ヨンジュンが顔を上げると、ひとりの人間が自分に向かって走ってきていた。

白いシャツにジーンズ姿のボムギュだった。
以前より少し大人びていたが、明るく笑う顔は少しも変わっていなかった。
「……来たんだ。」
「もちろんです。」
ボムギュは息を切らしながらヨンジュンの前に立った。
「約束したでしょう。」
「待ってるって。」
ヨンジュンは何も言えなかった。
正直、来ないだろうと思っていた。
3年という時間は、誰かを忘れるには十分だから。
でも、ボムギュは本当に約束を守った。
「たくさん待ちましたか?」
ヨンジュンがおそるおそる尋ねると、ボムギュはふっと笑った。
「待つのはつらくなかったです。」
「……」
「ヒョンがひとりで踏ん張るほうが、もっとつらかったです。」
その瞬間、ヨンジュンの胸の片隅が重く痛んだ。
誰かが自分の時間をわかってくれたのは、初めてだった。
ボムギュはバッグから小さなお弁当を取り出した。
「これ、覚えてますか?」
「……卵焼き。」
「面会に行くたびに持っていってたんです。」
「もう外で一緒に食べられます。」
ヨンジュンは弁当を受け取り、しばらく見つめるだけだった。
「どうして食べないんですか?」
「……」
「まずそうですか?」
ヨンジュンはゆっくり首を振った。
「いや。」
「……」
「こんなに温かいご飯は。」
少し息を整えたヨンジュンが低く笑った。
「久しぶりだから。」
ボムギュは何も言わず、ヨンジュンの手を取った。
今度はヨンジュンも避けなかった。
むしろ、もう少し強く握り返した。
「ボムギュ。」
「……はい。」
「どうして俺に、そこまでしてくれる。」
ボムギュはしばらくヨンジュンを見つめてから、静かに笑った。
「ヒョンは。」
「……」
「僕の人生を救ってくれた人だから。」
「でも。」
ゆっくり首を振ったボムギュが言葉を続けた。
「本当は逆でした。」
「…?」
「ヒョンが僕を救ってくれたんじゃなくて。」
「ヒョンがいたから、僕は生きていく勇気をもらえたんです。」
ヨンジュンは黙ってボムギュを見つめた。
生きてきて数えきれないほどの人に会ったが、自分をこんなふうに見てくれる人はたったひとりもいなかった。
長い沈黙のあと、ヨンジュンはゆっくり口を開いた。
「あの日。」
「……」
「君に初めて会った日。」
「命令どおりに引き金を引いていたら。」
「……」
「俺は一生、人として生きられなかった。」
ボムギュの目元が赤くなった。
ヨンジュンは慎重に一歩近づいた。
「殺せなかった理由が、今になってやっとわかった。」
「……」
「俺は最初から。」
しばらく息を呑んだヨンジュンが、震える声で続けた。
「君を生かしたかったし。」
「……」
「君を愛する運命だったんだと思う。」
ボムギュはとうとう笑いながら涙を流した。
「その言葉。」
「……」
「3年も遅いです。」
「すまない。」
「その代わり。」
ボムギュはヨンジュンの手をさらに強く握った。
「これからは絶対に遅れないでください。」
ヨンジュンは小さく笑ってうなずいた。
「約束だ。」
夕焼けが二人の背中を長く照らした。
ある人は、ヨンジュンがボムギュを救ったのだと言った。
ある人は、ボムギュがヨンジュンを新しい人生へ導いたのだと言った。
けれど、二人だけは知っていた。
傷だらけだった二人の人生は、
あの日、雨の降る路地で初めて出会った瞬間から、すでに互いへ向かって少しずつ歩み寄っていたのだと。
そして今度は、
誰にも追われず、同じ道を一緒に歩いていけるのだと。
