台湾に残る、あの日の約束

EP4 約束の場所

翌朝。

彼は一枚の古い鍵を手のひらに乗せて見せた。


「今日は、祖父がどうしても連れて行きたいって言っていた場所へ。」


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向かった先は、台北の街外れに建つ、古い校舎だった。


白い壁は少し色褪せ、赤レンガには長い年月が刻まれている。


それでも、祖父がスケッチブックに何度も描いていた姿と変わらなかった。


「ここ……。」


思わずページを開く。


校門。

中庭。

時計台。


目の前の景色と、祖父の描いた絵が重なっていく。


「おじいちゃん……。」


私は無意識に、その名前を呼んでいた。




校舎の中は静かだった。

夏休みなのか、人の気配はほとんどない。

廊下を歩くたび、床板が小さく軋む。


「祖父たちは、この学校で教師をしていました。」


彼がゆっくり話し始める。


「日本語を教える先生と、美術を教える先生。休み時間になると、子どもたちより楽しそうに絵を描いていたって聞いています。」


思わず笑みがこぼれた。

なんだか祖父らしい。



案内されたのは、一番奥の美術室だった。


大きな窓から柔らかな光が差し込み、絵の具の匂いが微かに残っている。


壁には歴代の卒業制作が飾られ、その隅に、一枚だけ古いモノクロ写真があった。


若い頃の祖父と、彼の祖父。


二人は肩を組み、子どもたちに囲まれて笑っていた。


写真の下には、小さな説明文。


『本校で美術教育に尽力した教師たち』


胸が熱くなる。

祖父は、この場所で生きていた。



「こっちへ。」



彼に呼ばれ、美術室の窓際へ向かう。

そこには古びた木の机が一つだけ残されていた。


彼は机の引き出しを静かに開ける。


中には、一冊の薄いスケッチ帳。

そして、一枚の封筒。

封筒には日本語で、 


『再会の日に開けること』


と書かれていた。


「祖父は、ずっと開けずに持っていたそうです。」

私は震える指で封筒を撫でた。


再会の日。

祖父たちは、その日が来ると信じていた。


帰ろうとした時だった。


校庭に立つ大きなガジュマルの木の前で、彼が足を止める。


「ここです。」


木の根元には、小さな石碑があった。

そこには、日本語と中国語で同じ言葉が刻まれている。


『また、この学校で会おう。』


風が木々を揺らした。

祖父たちが交わした約束は、ずっとこの場所で、誰かを待ち続けていた。


私は空を見上げる。

青く澄んだ台湾の空の下で、祖父はきっと笑っている。


そして気づいた。


この約束は、終わらせるためじゃない。

受け継ぐために残された約束なんだ。

彼が静かに言った。


「……明日、一緒に封筒を開けませんか。」


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私は涙を拭い、小さく頷いた。


「うん。」


その返事は、

祖父たちへの返事でもあった。


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