台湾に残る、あの日の約束

EP5 あの日の約束

翌日。

私は彼と並んで、美術室の机の前に座っていた。


机の上には、昨日見つけた一通の封筒。


『再会の日に開けること』


長い年月を経て、ようやく開かれる。

ゆっくり封を切ると、一枚の便箋が現れた。


祖父の字だった。


「親愛なる友へ。

この手紙を読んでいるということは、私たちは約束を果たせなかったのだろう。

それでも悲しまないでほしい。

君と出会えたことは、私の人生で一番の宝物だった。

教室で笑った日も、子どもたちと絵を描いた日も、放課後に夢を語り合った日も、私は一日も忘れたことはない。

もし私がこの場所へ戻れなくても、いつか私たちの大切な誰かが、この学校で再会してくれる気がしている。

その時は、どうか笑って握手をしてほしい。

私たちが果たせなかった約束は、その瞬間に叶うのだから。

ありがとう。

また、この学校で。」



気づけば、涙が便箋を濡らしていた。


隣を見ると、彼も静かに目を伏せている。


「祖父らしいな。」

そう呟いて、少しだけ笑った。



封筒の奥には、もう一枚。


描きかけのスケッチだった。


校庭のガジュマル。


その下で向かい合う二人の教師。

けれど、片隅だけが白いまま残されている。


「完成してない……。」


私が呟くと、彼は机の引き出しから一本の古い鉛筆を取り出した。


「祖父は、ずっとこの続きを描かなかったそうです。」


私は鉛筆を受け取る。


そして、白く残された場所に、一人の少女と、一人の青年を描いた。


ガジュマルの下で、笑い合う二人。


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彼も隣に小さく線を重ねる。

それは、祖父たちが描けなかった未来だった。



帰国の日。


空港へ向かうバスの中、台湾の街並みが少しずつ遠ざかっていく。


寂しい。


でも、不思議と「さようなら」とは思えなかった。


搭乗口の前。


彼は少し照れくさそうに、

小さな箱を差し出した。


中には、美術室で使われていた鉛筆が一本。


「祖父が大切にしていたものです。」


「えっ、でも……。」


「祖父なら、君に渡すと思う。」


私は大切に胸へ抱き寄せた。


搭乗案内が流れる。


「……そろそろ行かなきゃ。」


「うん。」


少しだけ沈黙が流れる。


彼は笑って言った。


「また、学校で。」


私は笑顔で頷く。

「うん。また、学校で。」


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祖父たちが交わせなかった約束は、

今日、


私たちが受け継いだ。


飛行機が青空へ舞い上がる。


窓の向こうに広がる台湾を見つめながら、

私はそっと呟いた。


「約束だからね。」

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