金曜日の夜、ゴンホは言った通り迎えに来た。
大門の外に出ると、黒い車が一台、路地の突き当たりに停まっていた。いつ来たんだろう。門の前でぼんやりしていると、運転席の窓が下がった。すぐにゴンホが窓に肘をついて、私を呼んだ。
「よ。」
私はびっくりして、ゴンホと車を交互に見た。
「お前、車もあるの?」
「あるから迎えに来たんだろ。」
「免許はいつ取ったんだ。」
「取れる年になった瞬間に取った。」
私は車の前を回って助手席へ向かい、座るなりシートベルトを締めた。ほのかな草の香りのディフューザーが、鼻先を少しずつかすめていった。
ゴンホは私がドアを閉めるやいなや、すぐ出発した。
路地を抜けるまで、私たちは特に何も話さなかった。というより、話すことがなかったというよりは、車を持っているアン・ゴンホに驚いて、その中を少しずつ見ていただけだった。買ってそんなに経っていないわけでもなさそうだった。とはいえ、特に見るものもなかった。
窓の外では見慣れた街並みがゆっくり後ろへ流れていった。昼にはなんでもなさそうに見えた看板たちが、夜になるとそれぞれ明かりを灯していた。
ゴンホが先に口を開いた。
「あの日、来てたろ?」
私は窓の外を見たまま答えた。
「あ…うん。コンビニ寄ってたら。」
「俺を見に来たのか?」
「ただ通りがかっただけだって。」
「そ。」
思ったよりあっさり引く返事で、つい私はそっちを見た。ゴンホは前だけを見ていた。口元には、少し笑みが引っかかっていた気もする。暗くてよく見えなかった。
私はまた窓の外を見た。
車内は静かだった。ラジオもついていない。ただエンジン音と、時々ウインカーの音だけが低く聞こえた。気まずいかと言われれば、別にそういうわけでもない。でも、居心地がいいかと聞かれても、すぐにはそうだと言えなかった。
その間の、どこかだった。
「撮影してるの。」
私が先に口を開いた。
ゴンホがほんの短く私を見て、また前を見た。
「撮影まで見たのか?」
「うん、まあ…たまたま。」
「どうだった。」
私は少し考えた。
あの日の路地が浮かんだ。制服を着て立っていたゴンホ。カメラが回ると別人みたいに変わる顔。閉じたドアの前で小さく息を吐いていた場面。
「不思議だった。」
「それで終わり?」
「うん。」
ゴンホが少し黙った。
「物足りないな。」
「何を期待してたんだよ。」
「上手かった、くらい?」
私は答えなかった。
ゴンホは黙って車線を変えた。その横顔を見ていたら、妙に笑いがこみ上げた。吹き出すほどじゃない。あんなに何でもないふりをしてるくせに、聞きたい言葉はかなりはっきりしてるのが可笑しくて。
私は結局、小さく言った。
「上手かった。」
ゴンホの手がハンドルの上でほんの少し止まった。
それを見て、私はつい言葉を足した。
「演技ド素人だから、正確じゃないけど。」
「伏して拝めって感じだけど、いいな。」
彼はその言葉を最後に、もう聞いてこなかった。
私は窓に映ったゴンホの顔を見た。街灯の光が通るたび、顔が一瞬明るくなって、また暗くなった。画面の中ではいつもくっきりしていた顔が、今は夜道の中で少しずつぼやけていった。
「最初から俳優になりたかったの?」
私が聞いた。
ゴンホはすぐには答えなかった。でも、その沈黙は長くなかった。
「いや。」
彼は低く言った。
「じゃあ?」
「昔、スカウトは何度かされた。お前も知ってるだろ。」
「ああ、まあ。そんなことあった気がする。」
「家のことで色々あってから、それを思い出した。やれることがあまりなかったから。」
「……。」
「最初はただやった。金も必要だったし、何かしなきゃって思ったし。」
その言葉は思ったより淡々としていた。だから私も、つい大きく反応しなかった。今さら痛ましそうな顔をするのも変だし、下手に慰めるのも違う気がした。
私はただ聞いた。
「今は?」
ゴンホは前を見たまま言った。
「今は好きだ。」
「……。」
「つらい時もあるけど。できなきゃ腹立つし、うまくいけば嬉しいし。次はもっと上手くやりたいって思う。」
私はその言葉を聞いて、少しうなずいた。
それくらいでいいんだと思った。
金のためだったのかな、と一人で考えていた時間があった。その言葉は間違いじゃなかったけれど、全部でもなかった。最初はそうやって始めても、今は変わることができた。人は妙に、仕方なくつかんだものを、いつの間にか本気でつかむようになることもあるから。
-
車は都心を抜け、だんだん暗い道へ入っていった。
窓の外に低い山の影が見えた。道端の店は減り、街灯の間隔も広くなった。私は窓を少し下ろして、入ってきた冷たい空気にすぐまた上げた。
ゴンホはそれを見て言った。
「寒い?」
「少し?」
「上に上がったら、もっと寒いぞ。」
「それ、今言う?」
「車に服ある。」
「準備いいね。」
ゴンホは自慢するみたいに口角を上げ、にっと笑った。
後部座席に首をちょこんと伸ばしてみると、服が積まれていた。撮影みたいなのをして、着替える服なのかな? わざわざ聞かなかった。
山道をもう少し上ると、小さな駐車場があった。展望台というには小さく、天文台というには少し素朴な場所だった。その代わり、空はかなり広く見えた。車を降りた途端、ひんやりした風がうなじをかすめた。
私は肩をすくめた。
アン・ゴンホは後部座席から厚い上着を一枚取り出して、私に渡した。
「着ろ。」
「あ、サンキュ。」
上着を着込んでいると、アン・ゴンホが急にどこかへ走っていった。と思ったら、近くのコンビニに入っていった。
ちょっと、私も一緒に行くし。ずるい…! 遅れて足を動かすと、アン・ゴンホがすぐまた外へ出てきた。手には飲み物が二つあった。
あれを買いに走ってたのか。気まずくなって、飲み物を受け取ろうと手をすっと伸ばした。
「ここまではしなくていいのに。」
「俺が飲みたかっただけ。」
「まったく。」
受け取った飲み物は温かいココアだった。かなり冷たい風に当たりながらも、温かくてゆったりした上着にくるまれて、手には温かい飲み物まであるから、なんだかすごく安心する感じだった。
「ホットチョコだね。」
「うん。」
「こういうのも飲むの? 子ども舌だね。」
「たまに。」
私は缶を両手で包んだ。指先がゆっくり温まった。
展望台にはほとんど人がいなかった。遠くに車が一台停まっていて、その横で誰かが静かに写真を撮っていた。私たちは手すりの方へ歩いていった。
空には星が見えた。
降ってくるほどではなかったけれど、家の屋上で見ていたよりずっと多かった。街の明かりが下の方へ遠ざかっているせいか、空は少し深く見えた。
ゴンホは手すりに軽く腕を乗せて、空を見た。
私はその隣に立った。
しばらく二人とも黙っていた。
昔は、ゴンホが先に星の名前を言った。あれが何の星で、あっちは何座で、今日はこのへんを見ればいいんだって、一人で知ったかぶりをしていた。静かに星を眺めるアン・ゴンホだなんて。私と離れていた間に、ずいぶん変わったらしい。
「俺、お前の作品見たよ。」
私が先に切り出した。すぐにゴンホの視線が私に刺さった。私は顔を上げて星を見ている状態だった。話すと首がこったけど、顔には出さなかった。
「見たのか?」
「うん。」
「何を見たんだ。」
「今やってるやつ。」
「ああ、学校。」
ため息混じりの声に、私は缶のふたをなでた。
「タイトルはちょっと微妙だった。」
「俺も最初はそう思った。」
「お前も?」
「うん。でもやってるうちに慣れた。」
「そういうのも慣れるんだ。」
「大体はな。」
ゴンホはまた空を見た。
「どうだった。」
彼が聞いた。
私はすぐには答えられなかった。実際、答えは決まっていた。でもいざ言おうとすると、少し照れくさかった。妙に大げさなことを言うみたいだし、あまりに遅れて気づいた人みたいにも見えそうだった。星を見ていた視線を外し、アン・ゴンホの横顔を見た。少し恥ずかしいけど、認めてあげるのもいい友達の姿だから。
「かっこよかった。」
ゴンホの目が大きくなった。
「は?」
「かっこよかったって。」
「……。」
「…なんでそんな顔するの。」
ゴンホは答えなかった。
私はホットチョコの缶を両手で包んだまま言葉を続けた。
「星が好きだったのに、本当にスターになったんだなって思った。」
「……。」
「きらきら輝いてた。」
ゴンホはその言葉を聞いて、完全に固まった。
私はその反応が少し変で、まばたきをした。私、そんなに変なこと言った? 俳優にかっこよかったって言っただけで、そんなに驚くこと?
「…なんで?」
何も言わず、驚いた顔をしているゴンホが変で聞いたのに、返事はなかった。風の音が通り過ぎ、手にした缶は少しずつ冷めていった。私、変なこと聞いたのかな。少し気まずくなった。
ゴンホは視線を少し逸らしてから口を開いた。
「お前、今自分が何言ってるか分かってるのか?」
「ええ?」
「今の言葉。」
「かっこよかった、って?」
「それじゃない。」
「スターになったって?」
ゴンホは答えなかった。
私はしばらく考えてから言った。
「きらきら?」
ゴンホがほんの短く息を吐いた。笑ったみたいでもあり、違うみたいでもあった。
「お前、今ほとんど告白したの分かってる?」
「なんでそれが告白なの。作品の感想でしょ。」
「そう言われる方は、ちょっと違うんだよ。」
「お前、俳優じゃん。」
ゴンホは少し私を見てから言った。
「…だから、俳優の前に俺は…。」
その言葉に、今度は私が黙った。
手に持ったホットチョコの缶はまだ温かかったのに、指先だけが妙に固まった。私はすぐに返事ができず、空の方へ視線を向けた。
「違うもん。」
「何が。」
「告白じゃない。」
「うん。」
「ほんとに違うって。」
「分かった。」
まるで一つも信じていない声だった。
私はつい、缶を一口飲んだ。もう少し冷めていて、甘さだけが残っていた。
「ほんと、変な受け取り方する。」
「お前が変な言い方したんだろ。」
「いいこと言ってやってるのに、なによ。」
「いいことだからこそ、だろ。」
私は返せなかった。今日に限ってこいつ変じゃない? 酔ってるのか? いや、酔ってたら飲酒運転だし…。くだらない考えが次から次へと続いた。
頭がごちゃごちゃして、また空を見た。星は確かに上にあるのに、妙に横に立つ人の方が気になった。
少し腹が立った。星を見に来たのに、星じゃないものが目に入るなんて。
「寒い?」
ゴンホが聞いた。
「少し。」
「降りるか?」
私は少し迷ってから首を振った。
「もう少しだけいて。」
ゴンホはそれ以上聞かなかった。
ただ私の隣に立って、同じ空を見ていた。
