そのことがあってから、私はハミンを避けてばかりいた。まともに顔を合わせることができなかった。
日曜日はほとんど部屋から出なかった。喉が渇いてもハミンがリビングにいる間は我慢し、食事のときもできるだけ目を合わせないようにした。
ハミンは何度か私の部屋の前をうろついていたけれど、話しかけてはこなかった。
ついに迎えた平日、月曜の朝。いつもより二十分も早く家を出た。
母は、足早に学校へ向かう私を見て驚き、私は課題評価を口実に適当にごまかした。もちろん嘘だった。
そうして自分の教室に着いて、ようやく少し安心した。少なくとも学校では顔を合わせることはないはずだから。
その考えは昼休みを迎える前に崩れた。
休み時間に水を飲もうと教室の外へ出たところで、階段を上ってくるハミンを見つけた。ハミンも一瞬、私を見た気がした。
なんで一年が二年の階まで上がってくるの。まさか私を探しに?!
私はすぐにもう一度教室の中へ入り、自分の机の下に身を隠した。友達が変な顔で見てきたけど、気にしなかった。
ハミンは私たちの教室の前に立っているようだった。机と友達の脚の間から見えた彼の顔は、いつもより固い表情をしていた。
まもなくハミンが立ち去ったとき、そこでようやく私は椅子に尻をつけて座り、机に突っ伏した。ふぅ、とこらえていたため息が漏れた。
「なんでハミンを避けてるの?」
驚いて顔を上げると、前の席に座っていたイジュンが私を見下ろしていた。
「あー、まあ。ちょっと」
「ケンカした?」
「私が悪いことが少しあって」
「どんな?」
「あるの、そういうのが」
適当にごまかすと、イジュンは分かったというふうに話題を変えてくれた。何やら話していたけど、耳には一つも入ってこなかった。
いや、なんでここまで来るの。頭おかしいの? 驚きすぎて心臓がどきどきしているのが分かった。そういえば水も飲めずにそのまま戻ってきたじゃない! 内心でむくれていたら、目の前で大きな手のひらがひらひらした。
「な、なに?」
「チャン・ヨジュ。」
「え?」
「だから行くのかって。」
イジュンは呆れたように笑った。
「話、聞いてないでしょ?」
「あ、その…」
「今日トッポッキの店に行くのはどうかって、さっき聞いたじゃん。」
「ああ」
トッポッキの店。
先週の下校途中、イジュンが今度一緒に行こうと言っていた場所だった。
少し迷ってから、門で待っているかもしれないハミンのことを思い出した。
「行く」
「よし、じゃあ後で一緒に出よう」
イジュンがにっと笑って前に体を向けると、すぐにチャイムが鳴った。
私は引き出しから本を取り出しながら、窓の外を見た。
運動場の向こうに一年の校舎が見えた。
*
終礼が終わるやいなや、あわてて鞄をまとめ、イジュンの腕を引いた。
「裏門から行こう」
「ああ、そうだ。裏門の近くだったよね?」
「うん。お腹すいた。早く行こう」
イジュンは特に疑うこともなく私についてきた。行く途中もイジュンと他愛ない話をしたけど、動線が違うからといって油断しきるわけにはいかなかった。周囲を警戒しながら歩いていたので、イジュンはそんな私をたまに不思議そうに見るだけで、特に何も言わなかった。
裏門を出てから一度だけ後ろを振り返ったが、当然ハミンの姿は見えなかった。
そのときやっと安心して、余計にお腹が空いた。急いで向かったトッポッキの店の中には、もうすでに同じ学校の生徒がかなりいた。席を取るなりすぐトッポッキと揚げ物を注文した。イジュンがカードを差し出すのを見て、決済が終わると私はイジュンを見て笑った。
「お、ほんとにおごるの?」
「約束しただろ」
向かいに座ったイジュンは、前とまったく変わらなかった。
何でもない言葉でずっと笑わせてくれて、私が嫌いなオデンは自然と自分の皿に移してくれた。二人で食事をするのも久しぶりなのに、ぎこちなくなかった。
楽しかった。ただ、久しぶりにこういう気まずくない席がかなりうれしかった。
「でもハミンって人気あるんだな」
トッポッキを取ろうとしていた手が止まった。
「急にあいつの話をなんでするの?」
「さっき二年の階に上がってきたとき、みんな見てたじゃん」
「そう?」
「お前を探しに来たんじゃないの?」
「違うし」
今日一緒に行こうって言えばよかったかな、という言葉に、いやいやと連発しながら残りのトッポッキを食べた。
そんな私を見てイジュンが笑った。
「ゆっくり食べなよ」
「辛くない」
「口についてる」
ティッシュを取ろうと手を伸ばしたが、イジュンの手のほうが先に届いた。
イジュンがティッシュで私の口元を軽く拭った。
固まった私の体は勝手に後ろへ引いた。イジュンの手が空中で少し止まった。
「いや、自分で拭けるのに。ありがとう」
ティッシュを取って、自分で口元をこすった。イジュンはただにこっと笑うだけだった。
2年前だったら、家に帰ってからも何度も思い返していたであろう行動。何を考えてそんなことをしたのか悩んで、もしかして私のことをまた好きになったのかもと期待したかもしれない、そんな意味深な行動。
たしかに胸が高鳴るはずなのに、かなり負担で…居心地が悪く感じた。
ハミンのせいで、今は男とのスキンシップが少し負担になっているのだろうか?
イジュンは特に何も言わず、次の話題へ移った。やさしい子だ。いい子だ。だから私も好きだったんだ。
彼とくだらない話をしている間、胸の中はかなり複雑になっていた。
昔ならデートだと喜んで意味を見いだしていたはずの日が、そうして終わっていった。
*
家に着くと、リビングには誰もいなかった。あ、今日は母さんも父さんも二人とも残業だって言ってたっけ。
靴を脱いで入ると、向かい側の浴室のドアが開いた。
湯気と一緒に中から出てきたのは、ちょうど風呂上がりのようなハミンだった。濡れた髪の先から水滴が落ちていて、湿気のせいで着ている半袖Tシャツは彼の体に少し張りついていた。ハミンはタオルで髪を拭きながら、入ってきたばかりの私を見た。
「遅かったね」
「あ、うん。約束…のせいで..」
恥ずかしくないの?! 私が勢いよく顔をそむけると、ハミンはそれ以上聞かなかった。ただタオルを首にかけたまま冷蔵庫へ向かった。
薄いTシャツが、濡れたうなじに張りついていた。水を取り出して飲むあいだも、髪から落ちた水があごの線を伝って流れた。
心臓が急に速く打ち始めた。
さっきイジュンが私の口元を拭いてくれたときも、静かだった心臓だったのに。
打つべき心臓は、予想した場所じゃなくて、変なところで打っていた。
ハミンは冷蔵庫のドアを閉めながら、私を振り返った。
「なんでそんな顔で見るの?」
「見てないけど」
「誤解されるよ」
視線を逸らしてリビングを横切ると、背後でハミンの声が聞こえた。今日のことをそれ以上は聞いてこなかったのに、そこにどんな感情が混じっているのか、私は直感で分かった。
私に表には出していないけれど、私がイジュンと遊んで帰ってきたのを知っているのだ。そして今、嫉妬している。
「明日は一緒に行け」
「うん」
反射的に答えてから、足を止めた。ためらう視線のまま首をひねって後ろを見ると、ハミンは水筒を持ったまま私を見ていた。
口元がほんの少し上がっていた。その顔に、もう一度どきんと心臓が落ちた。久しぶりに視線を合わせた気がした。
「私、入るね」
「うん。おやすみ、姉さん」
ハミンは私に軽く挨拶した。保証された明日があるせいか、何の負担もなかった。
それでも私は胸の内が押しつぶされるような気がして、心臓は破裂しそうなくらいどきどきしていた。
自分の部屋のドアを閉めてからも、風呂から戻ってベッドに横になってからも、心臓は簡単には落ち着かなかった。
妙な夜だった。
*
翌朝。
ハミンと一緒に学校へ行くと言ったことを後悔したのは、玄関を出た直後だった。なぜかハミンがずっと気になった。
本来なら、誰かに私たち二人が一緒に家を出るところを見られるのが気になっていたはずなのに、今はただ隣にいるユ・ハミン。その存在そのものが気になった。
腕が触れそうになるたび、わざと鞄を掛け直すふりをして肩を揺らし、距離を空けた。ハミンが私のほうを見ると、周りの景色や信号、あるいは通り過ぎる車を見ているふりをした。
ハミンはそんな私をちらちら見ながら、何も言わなかった。
たくさん会話が交わされたわけでもないのに、慌ただしい登校道だった。
昼休みが終わりかけたころ、教室へ戻る途中で運動場のほうからボールが弾む音が聞こえた。
体育大会のバスケの試合の準備でもしているのか、一年の男子生徒たちがコートに集まっていた。
「一年生たち、体育大会の試合の準備してるのかな」
「そうみたいだね」
その中でもハミンは遠くからでもすぐ目についた。
背が高いうえに動きも速かった。ボールを取るやいなやディフェンスをかわしてゴール下へ入り、跳び上がって軽くボールを放った。
ボールはそのままゴールに入った。
コートの周りに集まっていた生徒たちが声を上げた。
ハミンはにっと笑って友達とハイタッチし、またボールを受け取った。
うまいな。
見物している女子生徒も多かった。ハミンが動くたび、視線が一緒に追いかけていた。
私もその一人だった。
ハミンがゴールの外からジャンプシュートを放った。
高く跳んだ瞬間、Tシャツが上にめくれ上がった。引き締まった腹が一瞬見えた。
私はすぐに顔をそむけた。
昨日、濡れた髪にぴったり張りついたTシャツを着ていたハミンが思い浮かんだ。
なんでそれが今思い浮かぶのよ!
首をぶんぶん振りながら、友達を連れて教室へ戻った。
*
下校するまで、頭の中はずっと複雑なままだった。ずっと、ずっとハミンのことを考えていたからだ。
いや、まあ男の体を見るのが初めてだったのも…初めては初めてだけど! だからってここまで気にする理由は…ないのに。ないはずなのに。
のろのろと足を正門へ向け、いつものようにハミンは正門の前で待っていた。私は何でもないふりをしてその横に立った。
「行こう」
家へ向かうあいだ、ハミンはいつも通りに歩いていた。
私はいつも通りには歩けなかった。
少し近づくだけで腕が触れそうだった。さっき運動場で見た場面を思い出さないようにするほど、かえって鮮明になった。
ああ、もう無理。顔、赤くなってないよね? 変態だと思われたらどうしよう。ぎゅっと目を閉じていると、横から声が聞こえた。
「姉さん」
「えっ?! な、なに」
「今日なんでそんなに静かなの?」
「気のせいじゃない?! 普段どれだけ話してたって…。」
「ふーん」
慌てて声が上ずった。顔、赤くなってる? 表情を見られないように勢いよく顔をそらした。ハミンは横で不思議そうに口で息を漏らすだけだった。
あっ! ずっと頭の中に腹筋が浮かぶじゃない! しかも週末にあの胸元、腹筋の上に倒れ込んだのを思い出して、すぐに感触まで想像してしまった。脳が制御できない。私ってこんなに見苦しい変態だったのか…。身近な人の体を見たせいでこうなるのか。
自分を責めながら歩いていると、ものすごい力で腕が後ろへぐいっと引かれた。
そのまま体がハミンのほうへよろめき、やがてすっぽり抱き込まれた形になった。こ、これ、週末にもこんなことがあった気がする…。
そう思うやいなや、すぐ目の前を車が一台、勢いよく通り過ぎた。
「ひっ」
驚いて息を飲み、顔を上げると、歩行者信号はまだ赤だった。
ハミンが私の腕をつかんだまま、眉間にしわを寄せていた。
「どこにそんなに気を取られてるんだ、この姉さんは」
ハミンはしばらく私を見下ろしていた。どきん、どきん。ハミンの固い胸元から心臓の音が聞こえた。
今の私の心臓の音も聞こえるのかな? いや、私、何してるの! 驚いて体を後ろへぐいっと反らせ、ハミンの腕の中から抜け出した。
「あ…その、ごめん」
「いい。行くぞ」
信号が青に変わったが、つかんでいた手は離さなかった。
ハミンが私の腕を引き、先に横断歩道へ入った。
私は何も言えないまま引っ張られていった。
道を渡り終えてからようやく、ハミンの手が離れた。
つかまれていた場所だけが妙に熱かった。
私は手でそこをこすった。つまり、これは…あのときと同じ。
ハミンは半歩前を歩き、私はまた少し後ろに立って、ハミンの後頭部を見ながら歩いた。
あのときと同じ気分だ。
私が、イジュンを好きだった…あのときと。
同じ気分を感じた。
相手は、まったく別の人になってしまったのに。
