1年間、私の妻になってください。
EP.6

쿠닉
2026.07.24閲覧数 106
家の中は驚くほど静かだった。
あまりにも広いリビングと高い天井のせいか、足音までもがかすかに響いた。
ヨジュは、まだこの家が現実のようには感じられなかった。
『ほんとに……ここで暮らすんだな。』
彼女がぼんやりとリビングを見回していると、階段を下りてきたソンホが言った。
ソンホ「家をご案内します。」
ヨジュ「…あ、はい。」
二人は並んで歩きながら、家の中を見て回った。
キッチン、書斎、映画館、ジム、ドレスルーム。
どれも普通の家のリビングより広かった。
ヨジュは心の中だけで感嘆を飲み込んだ。
『家の中に映画館があるって…?』
最後に2階の廊下に着くと、ソンホが一番奥の部屋のドアを開けた。
きれいな寝室だった。
日当たりのいい窓と新しい家具が整然と配置されていた。
ソンホ「こちらがヨジュさんの部屋です。」
ヨジュ「…私の部屋、ですか?」
ソンホ「はい。」
ヨジュ「じゃあ、代表は?」
ソンホはすぐ向かいのドアを指した。
ソンホ「私はあの部屋を使います。」
ヨジュは二つのドアを交互に見比べた。
ヨジュ「…一緒に使わなくてもいいんですか?」
ソンホは静かにうなずいた。
ソンホ「契約書にも書いてあります。」
「…」
「プライベートな空間は尊重する。」
「…」
「不便かと思いまして。」
その瞬間、ヨジュは少し意外に思った。
最初は冷たくて自分のことしか考えない人だと思っていた。
けれど、思ったより相手を気遣おうとしていた。
表現が下手なだけで。
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荷物の整理を終えたヨジュは、そっと1階へ下りた。
キッチンではソンホがシャツの袖をまくったまま、冷蔵庫を開けていた。
ヨジュ「…何をしてるんですか?」
ソンホ「夕食。」
ヨジュ「…ご自分で?」
ソンホ「はい。」
ソンホはうなずいた。
しばらくして、鍋から香ばしい匂いが広がった。
ヨジュは驚いた顔で鍋の中をのぞき込んだ。
ヨジュ「…お上手なんですね。」
十数分後。
食卓の上には、思ったよりずっと立派な食事が並んでいた。
テンジャンチゲ。
ケランマリ。
プルコギ。
簡単なおかずたち。
ヨジュは箸を取った。
ひと口食べると目を見開いた。
「…おいしいです。」
ソンホは水を飲みながら、淡々と言った。
ソンホ「よかったです。」
ヨジュ「代表。」
ソンホ「…はい。」
ヨジュ「会社にも通ってるのに、いつ料理まで習ったんですか?」
ソンホは少し考えてから答えた。
ソンホ「留学中に。」
「…」
「毎日外食するのは嫌だったので。」
それだけだった。
でも、その短い答えの中に、ひとりで過ごした時間がどれほど長かったのか、少しだけ感じられた。
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食事が終わったあと。
ヨジュは自然と食器を洗う準備をした。
ソンホ「…そのままで。」
ヨジュ「え?」
ソンホ「食洗機がやります。」
「…」
ヨジュ「…あ。」
なんだか気まずくなったヨジュは、思わず笑ってしまった。
ヨジュ「この家は、人より機械のほうがよく働きますね。」
その瞬間。
ソンホの口元が、ほんの少しだけ上がった。
本当に一瞬。
1秒にも満たない短い笑みだった。
でもヨジュは、はっきりと見た。
『…今。』
『笑った?』
彼女は知らず知らず、ソンホをじっと見つめた。
視線を感じたソンホは、また無表情に戻った。
ソンホ「…どうかしましたか?」
ヨジュ「…いえ。」
『見間違いかな?』
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夜10時。
それぞれの部屋へ入った二人。
ヨジュはベッドに横になったが、なかなか眠れなかった。
見知らぬ家。
見知らぬ部屋。
そして、廊下をひとつ挟んだ向こうにいる男。
『今日から…1年。』
彼女は天井を見上げ、小さく笑った。
『契約結婚か。』
まだ実感が湧かなかった。
そのとき。
コンコン。
ノックの音が聞こえた。
ドアを開けると、ソンホが小さな紙袋を手に立っていた。
ソンホ「…これ。」
ヨジュ「え?」
ソンホ「生活費です。」
紙袋を受け取ったヨジュは中を見て、驚いた。
分厚い現金と一緒に、カードが1枚入っていた。
ヨジュ「…こんなにですか?」
ソンホ「生活するのに不足しないよう入れてあります。」
ヨジュ「いえ…これは、ちょっと…」
ソンホは静かに言葉を遮った。
ソンホ「契約内容です。」
「…」
「負担に思う必要はありません。」
そう言い終えると、彼は背を向けた。
廊下を歩いていたソンホは、ドアの前で少し立ち止まった。
そして振り返らずに、短く言った。
ソンホ「…おやすみなさい。」
その一言を残して、自分の部屋へ入っていった。
ドアが閉まる音を聞いたヨジュは、紙袋を胸に抱えたまましばらく立っていた。
冷たくて無愛想な人。
なのに、不思議と。
その冷たさの中には、人が簡単には気づかない気遣いが、少しずつ隠れていた。
そしてその小さな気遣いは、ヨジュの固く閉ざされていた心を、少しずつ開け始めた。