MTが終わって学校に戻るバスの中。
私は窓際にもたれた途端、眠ってしまった。
前の晩、遅くまで酒を飲んだせいか、体が鉛みたいに重かった。最後に覚えているのは、友達の騒ぐ声と、バスが発進して揺れた感覚だけだった。
どれくらい寝ていただろう。
途中で喉が渇いて目を開けたけど、また閉じようとしたところで、後ろのほうから聞き覚えのある声がした。
「おい、ヨジュ、合コン行かないって言ってたくせに」
同期たちだった。
私は寝たふりをして、そのまま目を閉じた。
「いや、今度は本当にいい子なんだよ」
「ヨジュが行くって?」
「いや、まだ嫌だって言ってるけど」
ミンソクが笑った。
「俺がずっと口説き中なんだ」
友達の笑い声が聞こえた。
「今度の相手はほんとにいいよ。性格もいいし、顔も悪くないし」
「じゃあヨジュも気に入るんじゃない?」
「とりあえず会ってみれば分かるだろ」
私は心の中でため息をついた。
『また始まった』
ミンソクは前から合コンの話を持ち出していた。
私はそのたびに嫌だと言ったし、今回も同じだった。
でもミンソクは諦める気がないらしかった。
「それでも一度は会わせないと」
「あいつ、ヨジュのこと本気で気に入ってるんだよ」
「ヨジュだってずっと一人じゃん」
私はもう聞きたくなくて、イヤホンを耳に差し込んだ。
でも前の席に座っていたウォンビンは違った。
ウォンビンは最初から眠っていなかった。
窓の外ばかり見ていたウォンビンの視線が、ゆっくり後ろへ向いた。
『あいつ、ヨジュのこと本気で気に入ってるんだよ』
その言葉がウォンビンの耳にくっきりと突き刺さった。
合コン。
ウォンビンは何気なく窓の外を見た。
その瞬間、昨夜のことがよみがえった。
「お姉さん」
「年下の俺って、本当にそんなにダメですか?」
酒のせいか、いつもより勇気が出ていた。
もしかしたら、ほんの少しは期待していたのかもしれない。
でもその質問を聞いたお姉さんの顔は、すぐにこわばった。
戸惑った目。
答えられずに避ける視線。
そして結局、
「飲みすぎたよ」
その言葉だけ残して、先に席を立った。
ウォンビンはその時から妙に胸が痛くなった。
やっぱり嫌なのか。
年下なのが負担なのか。
自分が好きだと気づかれたら、もっと嫌がられるかもしれない、そんな考えまで浮かんだ。
でも今。
合コンという言葉を聞いた。
「今度の相手、ほんとにいいってば」
「俺がずっと行ってみろって言ってるところだし」
ウォンビンは手に持っていたスマホをゆっくり見下ろした。
結局、お姉さんは合コンに行くのか。
もしかしたら、自分とはまったく違う人に会いたかったのかもしれない。
年上が好きだって言ってたから。
自分の面倒を見てくれる人がいいって言ってたから。
そんな人が現れたら。
お姉さんはきっと、その人を好きになるだろう。
ウォンビンは唇をぎゅっと結んだ。
平気だと思おうとした。
お姉さんが誰に会おうと。
お姉さんが誰を好きになろうと。
自分には関係ないことだから。
でも妙に。
胸の片側がずっと苦しかった。
『……俺、本当に好きなんだな』
そこで初めて認めるしかなかった。
好きだから、こんなにも痛いんだ。
*
学校に着くと、人が一人、また一人とバスを降りていった。
私はまだ寝ぼけたまま、カバンをまとめた。
「ウォンビナ」
バスを降りていくウォンビンを見つけて、手を振った。
ウォンビンが立ち止まった。
「……お姉さん」
「よく寝た?」
「……はい」
「昨日、かなり飲んでたでしょ」
「大丈夫です」
「よかった」
私は自然にウォンビンの横へ寄った。
「一緒に二日酔いを治しに行く?」
昔なら、ウォンビンは少しためらってもついてきただろう。
でも今日は違った。
「ちょっと約束があって」
「え?」
「先に行きます」
「……うん」
ウォンビンは短く頭を下げて、先に歩いていった。
私はその後ろ姿をしばらく見つめた。
『約束があったの?』
少し変だったけど、眠くてあまり気にしなかった。
*
ところが次の日も。
その次の日も。
ウォンビンは私を避けた。
廊下で会えば先に通り過ぎて、
私が声をかければ返事だけしてその場を離れた。
カトクは妙にいつもと変わらなかった。
ご飯食べた?
はい。
今日、授業多い?
少しです。
でも直接会うと違った。
目が合う時間は短くなって、前みたいに先に話しかけてもこなかった。
私は結局、友達に聞いた。
「ねえ」
「ん?」
「ウォンビン、最近どうしたんだろう?」
「何が?」
「私、避けられてる気がする」
友達が首をかしげた。
「ケンカした?」
「ううん」
「じゃあなんで?」
「知らない」
私はあごを支えた。
MTで私が何かまずいことをしたのかな。
それとも、酔って変なことを言ったのが恥ずかしいのか。
それとも……
『私、構いすぎた?』
考えれば考えるほど、答えは出なかった。
*
一方、ウォンビンは図書館の窓際に座ってページをめくっていた。
目の前の文字は一行も入ってこなかった。
『合コン』
その言葉ばかりが、ずっと頭の中をぐるぐる回っていた。
お姉さんは本当に合コンに行くんだろうか。
その相手と会って、うまくいったら。
自然と自分から離れていくんだろうか。
ウォンビンはペンを置いた。
好きだと告白することもできなかった。
昨日聞いた話のせいで、なおさらだった。
お姉さんは自分のことを好きじゃない。
そしてもしかしたら、もう別の誰かに会う準備をしている。
だったら、自分がずっとそばにいるのは、かえって邪魔かもしれない。
ウォンビンはスマホを取り出した。
お姉さん |
しばらく見つめてから、また消した。
見て ㅅ_
今度は書くこともできなかった。
結局画面を消して、スマホを伏せた。
少し離れていれば、平気になると思った。
好きな気持ちも。
つい期待してしまった気持ちも。
全部ひとりで整理できるだろうと。
そう思ったのに。
廊下でヨジュの笑い声が聞こえた瞬間、
ウォンビンは無意識に顔を上げた。
そして自分でも気づかないうちに、ドアのほうを見ていた。
「……は」
まだ。
離れることさえ、簡単じゃなかった。
