僕たちは一線を越えないことにした(シーズン2)

第45話。思い出ごっこ



「じゃあ、私が別れて戻ってきたら

 受け入れてくれますか?」





「今の彼女を

 またバカにしようってことですか?」





「私たち、まだ始まったばかりなんです。

 だから、そんなに大きく傷つくことはないと思います。」





私は彼をまっすぐ見つめて言った。





「絶対に。絶対に、そういうことじゃないです。」




私は少し息を整えてから

言葉を続けた。





「私たち……自然にいきましょう。

 別れたのにはそれなりの理由があったし……

 もしまた会うことがあれば

 そういう状況になるでしょう……」





私は彼の肩をそっと撫でた。





「久しぶりに会えてうれしかったです。

 申し訳ないけど、この間ずっとフンジさんをわざと

 見ないように努めて生きてきたので……」





私は家に帰る準備をしながら

フンジさんを振り返った。





「今度、深夜映画を見たくなったら

 フンジさんが別の映画館に行ってください。

 私、昨日ほんとに心臓発作でも起こすかと思いました。」




彼は一言もなく

私のすることを見ているだけだった。





「たまに近況連絡してもいいですか?」





「いつも返信するとは約束できません。」





「友達として一回だけ抱きしめてもいいですか?」





「遠慮します。起きてください。

 私、もう退勤するところなので。」





「送っていきます。」






「歩いて帰ります。」






「じゃあ一緒に歩きましょう。

 送っていきます。」




私は少し彼を見つめてから

うなずいた。

そうして私たちは一緒に歩くことになった。





フンジさんが先に口を開いた。




「スペインのあの丘、

 一緒に日の出を見た場所、覚えてますよね?」





「はい……」





「私は時々、あそこを思い出して恋しくなります。」





「あの時、すごくよかったですよね。」




私は急に足を止めた。



スペインでの楽しかった思い出が

いっぺんに押し寄せてきた。





「フンジさんと何がきっかけでケンカしたのかは

 あまり思い出せないんですが……

 寝たら、隣に横たわっていたのは覚えています。」




私はかすかに笑った。



 「同居ルールのせいで

 ケンカしても一緒に寝るのは守らなきゃって

 言ってたじゃないですか。」


「ほんとに……あの同居ルール!!

 あまりにもおとぎ話みたいに書いてあったから

 私、フンジ姫って呼んでたんですよ?」





「えー……姫はさすがに言いすぎ!」





「いや……一日に一回、好きだって

 言ってくれる、とか書いてあったんですよ。」





「私が? ちゃんと覚えてないだけじゃないですか?」





「わ~~、こうやって言い逃れする。

 私、家に全部持ってますよ!

 家に帰ったら見せてあげます。

 見たあとで別のこと言わないでくださいね!」





そう言ってから

私ははっとした。



あまりにも自然に

昔の話を持ち出していた。



フンジさんも私と同じ気持ちだったのか

一瞬、足を止めた。





「今度機会があれば見せますよ。

 カフェの前までまた行かなきゃいけないし

 もういいです。

 そろそろ戻りましょう。」




「わかりました。入ってください。」





彼が先に背を向けるまで

私はその場に立っていた。




けれど彼は数歩も行かないうちに

急に足を止めた。




そして振り向いた彼は

ためらうように私を見つめてから

やがて私を抱きしめた。




「私たち……消せない思い出があるじゃないですか。

 だから誰ともあなたを替えられません。」




彼が帰ったあとも

私はしばらくその場に立ち尽くしていた。




『思い出……消せない思い出……』



私は家に戻って

スペインから持ち帰ったものを

一つずつ取り出しては、その夜を徹夜で過ごした。





夜が明けてくると

12時の鐘が鳴り

ぼろ布の服に着替えたシンデレラのように

私は思い出の中のスペインから抜け出して

再び現実へ戻ってきた。





カフェに行く準備を終えて

道に出た。





開店準備をしていたときだった。




今日最初の客として

ウジンさんが入ってきた。




「ウジンさん!!」





「お久しぶりですね?」





「何かあったのかと心配していました。

 どうしたんですか?

 1週間くらい来られませんでしたよね?」





「はい……母が亡くなりました。」





「あ……」





私はどんな言葉で慰めればいいのかわからず

しばらく迷った。





「心配してくださったんですね、ありがとうございます。」





「ウジンさん……

 とてもおつらいでしょうに……大丈夫ですか?」





「ジョンアさんが淹れてくれるコーヒーで

 また一日を耐えるしかないですね。」





コーヒーを受け取って立ち去ろうとする彼を

私はそっと呼び止めた。




「ウジンさん。」




彼が振り返った。





「今夜、予定がなければ

 私が夕食をごちそうしてもいいですか?」





「慰めてくれるんですか?」





「うーん……慰めというより

 友達として応援したいんです。」





「野球場ですか?」 <46話の中で>

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