窓の外が明るくなり始めるころ。
ヨンジュンは一睡もできないまま窓際に立っていた。
隠れ家の周囲をゆっくりと見回す視線には、小さな動きも見逃さないという緊張がにじんでいた。

一方、ボムギュはベッドの上で身を縮めたまま、深く眠っていた。
逃げ回って疲れていたからだった。
ヨンジュンはそんなボムギュを少し見つめてから、視線をそらした。
'...この顔ひとつのせいで。'
組織を裏切った。
生涯守ってきた原則も、命も、すべてを賭けた。
それなのに、不思議と後悔はなかった。
「うーん...」
ボムギュは目をこすりながら体を起こした。
「起きたなら、洗ってこい。」
ヨンジュンはカップにコーヒーを注ぎながら、そっけなく言った。
「歯ブラシは?」
「浴室。」
「服は?」
「ベッドの横。」
ボムギュが顔を向けると、新しい服が一式、きちんと置かれていた。
パーカーとジーンズ。
ぴったり自分のサイズだった。
「...これ、いつ買ったんですか?」
「明け方。」
「いつ出かけてきたんですか?」
「お前が寝てるとき。」
ボムギュは一瞬で顔をこわばらせた。
「一人で出かけたんですか?」
「食べるものは必要だからな。」
「捕まったらどうするつもりで...」
ヨンジュンは何でもないというように肩をすくめた。
「捕まらない。」
「...」
「その程度の腕なら、二番手まで上がれてない。」
素直に認めたくはなかったが、かっこよかった。
ボムギュは小さくつぶやいた。
「...むかつく。」
「聞こえた。」
「...わざと聞こえるように言ったんです。」
ヨンジュンの口元がほんの少しだけ上がった。
食事を終えたあと。
ヨンジュンは拳銃を分解して手入れを始めた。
カチャ。
カチャ。
金属が噛み合う音が静かな空間を満たした。
ボムギュはその様子をぼんやりと見つめていた。
「本物の銃なんですね...」
「おもちゃに見えた?」
「...いいえ。」
ボムギュは慎重に尋ねた。
「...人をたくさん殺したんですか?」
一瞬、手が止まった。
短い沈黙。
「多い。」
「...」
「数えきれないくらい。」

ボムギュは、余計なことを聞いたと悟った。
ヨンジュンの顔には何の感情もなかった。
まるで今日の天気を話すみたいに淡々としていた。
でも、不思議と...
その淡々しさのほうが、より悲しそうに見えた。
そのときだった。
ヨンジュンが突然手を伸ばし、ボムギュの口をふさいだ。
「むっ...!」
「しっ。」
低く鋭い声。
ボムギュもすぐに異変を感じた。
外で足音がした。
複数だ。
さく。
さく。
誰かが家の周りをゆっくり歩きながら探っていた。
「この近くだって情報だったんだが。」
「ドアを開けろ。」
ボムギュの心臓が狂ったように鳴り始めた。
'見つけた...!'
ヨンジュンは指を一本立てた。
絶対に声を出すな、という意味だった。
ドン。
誰かが玄関のドアを足で蹴った。
「中にいるのは全部わかってるぞ!」
「ドアを開けろ!」
ボムギュは息すらできなかった。
ヨンジュンはゆっくりと倉庫の奥の壁へ向かった。
そして古い本棚を力いっぱい押した。
ギイ。
本棚の後ろに細い通路が現れた。
「...秘密通路?」
ボムギュは驚いた目でささやいた。
ヨンジュンはうなずいた。
「先に入れ。」
「じゃあヒョンは?」
一瞬、ヨンジュンの動きが止まった。
「...今。」
「...え?」
「ヒョンって言ったのか。」
ボムギュは慌てて自分の口をふさいだ。
緊張のあまり、つい口をついて出ただけだった。
「...すみません。」
妙に顔が熱くなった。
ヨンジュンは短く笑って言った。
「悪くない。」
「...」
「これからそう呼べ。」
ボムギュはさらに恥ずかしくなって、深くうつむいた。
その瞬間。
ガン!!
玄関のドアが壊れる音が響いた。
「捜索しろ!」
組織員たちが中へなだれ込んできた。
ヨンジュンはボムギュを通路へ押し込んだ。
「最後まで行かずに途中で待ってろ。」
「一緒に行きますよ。」
「だめだ。」
「なんでです!」
ヨンジュンは拳銃にマガジンを装填しながら、落ち着いて言った。
「時間を稼がなきゃならない。」
カチャ。
安全装置が外れた。
ボムギュの顔が真っ青になった。
「...ヒョン。」
「心配するな。」
「戻ってこなかったらどうするんですか?」
ヨンジュンはボムギュを見た。
初めて会ったときとは違って、
怖がりの大学生ではなく、自分を心配する目だった。
その短い変化が、不思議と心を揺らした。
ヨンジュンは手を伸ばし、ボムギュの髪を一度だけ軽く乱した。
「俺は。」
少し笑ったヨンジュンが、小さく言った。
「思ったより死なない。」
言い終えると、彼は通路の扉を閉めてしまった。
ガチャン。
ボムギュはドアを叩いた。
「ヒョン!」
「ヒョン!!」
返事はなかった。
しばらくして。
ダン!!
銃声が響いた。
続く悲鳴。
そしてもう一度。
ダン!!
ボムギュは震える手で口をふさいだ。
涙がにじんだ。
'お願い...'
'傷つかないで。'
そのときだった。
外で聞き覚えのある声がした。
「ヨンジュン。」
ボスだった。
「お前が本当に裏切るとは思わなかった。」
ボムギュの瞳孔が大きく揺れた。
そして扉の向こうから、
ヨンジュンの冷たい声がゆっくりと聞こえてきた。

「...あの人に手を出した瞬間。」
しばらく静寂が流れた。
「今度は私があなたを殺します。」
一瞬で、外は息が止まるほどの緊張に包まれた。
